第一部 第三話 来訪者―。
この回で、この話の主人公のお相手のボスが出現します。
この物語はシリーズものなので、今書いている章だけのキャラていう訳でなく、今後もずっと出てくる人なので、ちゃんと見捨てないでね(;・∀・)
ちなみに、今回は まだ少しホラーテイストなので、死人でます(;・∀・)
よろしく<m(__)m>
7月13日-。
この村に、とある家族が引っ越して来る。
彼らは、とても人間と呼べる存在では無く、魔物のように思えた。
見た目こそは、人間ではあるが。
俺には、悪魔のように思えた。
彼らの正体を俺はすぐにわかる事になる―。
濃霧を表した者達-。
悪魔の王であったのだと・・・・。
☆★☆★☆
大和村の丁度真ん中に位置する辺りの所に、村の中で十・十一を争う中途半端の大きさを誇る一軒家が存在した。そこの家には、夏野柚人・瑠衣・千恵の3人が、細々と慎ましく暮らしていた。
普通の中の普通の柚人と瑠衣は、ほのぼのとした老後生活を送っていた。その二人の義理の娘である美香は、老後生活をしていた二人の手伝いをしていて、その姿は周りの村人達には関心の的となっている。
なぜなら、先ほど義理の娘と言った通り、美香は二人の本当の娘ではなく、二人の息子の嫁である。その息子であり夫である男は、死んでおり、その妻である美香は夫に頼まれた訳でも無いのに、二人の生活を手伝っているからである。
そして、この家族は標的にされるのだ。今からやって来る者達の・・・。
「お母さん、お父さん~。御飯出来たわよ~!」
美香は、家から車で10分くらいの所にある夏目家の所有している畑に原付に乗ってやって来て、少しばかり畑の敷地が広。そこの奥の方で農作業をしている二人を声が届くように大きな声で呼んだ。
その声に気づいた柚人と瑠衣の夫婦は、お互い同時に振り向き返事をした。
その返事は、感謝の心で溢れており、瑠依の目からは一筋の涙が流れていた。
「は~い!ありがとねぇ。美香さん。死んだ息子の変わりに、こんな事をしてくれて・・・。もしかすると、私たちは他人になる事さえできたのに・・・。」
「いえいえ、そんな悲しい事言わないでくださいな。私は好きでやってるんです。死んだ旦那の分。生きてくださいね!」
美香は、滅相もないと首を横に振った。そして、キリッとした力強い真剣な顔になると、また力強い声で二人の夫婦をなぐさめた。
「ありがとうね・・・。美香さん・・・」
そんな美香の優しさに、今度は瑠依だけでなく柚人までもが涙ぐんだ。
「死んだ息子もきっと喜んでるだろうねぇ・・・。」
「あぁ。そうだろうよ・・・。」
青空を仰ぎながら瑠依が言うと、柚人もそれに応じた。
美香も一緒になって青空を見上げた。
「あの人は、私たちを見守ってくれているかしら。ねぇ、あなた?」
彼女が死んだ夫に対して、届く事のない願いと質問をなげかけていると、突然綺麗なソプラノ歌手を思わせる音色の含んだ女の人の声が聞こえた。
「あの~。こんにちわ。」
美香を最初に、後の二人もその声のする方へ目をやると、そこには声の美しさに負けず劣らずの美しい女の人が立っていた。ハリウッド女優を思わせるような容姿に、背丈をしていた。服装は、まるで喪に服しているかのような真っ黒なワンピースを着ていた。しかし、その服装であっても、その女性の美しさは陰りを見せる事はなく、逆に何処か謎めいた輝きをたたえていた。
その美しい女の人を3人は知らなかった。だからこそ、驚いてしまった。
この村では、村人の知らない人間がいる事なので赤ん坊以外には、“ありえない”事なのである。
だから、美香はその美しい女性に憧れと嫉妬のような感情を感じ不審に思いながらも、それを顔には出さずに女の方へ歩いていき優しそうな声音を出して声をかけた。
「こんにちわ~。どうかなさいましたか?初めて見るお方みたいですけれど。」
女の人は、美香に声をかけられると、まるで、ホっと安堵したかのような表情を見せた。そして、美香の手を取って優しげに美しい顔で微笑み、ソプラノの歌手を思わせる声を優しい声音で出した。
「あの、突然すいません。私は、黒樹という者です。ちょっと、お願いがあるのですが。」
その声を聞いた瞬間に、美香とその後ろで怪しいと言う風に黒樹の姓を名乗る女を見ていた夫婦は、急に人が変わったかのように彼女の元にかけよって微笑んで、一斉に「お願いとは?」と聞いた。
その返事を待ってましたとばかりに、目を輝かせて女は微笑むと3人の目を一人ずつ順番に見て、そして大きな息を肺にため込んでから、今度はゾっとするような恐怖を感じさせる声音で3人に言った。しかし、3人に何があったのか、その声に何の反応も示すことは無かった。
「私の言う事を聞きなさい。」
女がただ一言、そう言った途端、先ほどまではただ人が変わったかのようになっただけの3人であったが、今度は真っ黒であった瞳が青色で濁った黒い瞳に変わった。
そして、まるで無理に言わされているかのように、擦れた声で言った。
「な、何を・・・・。す、ればい、いでしょ、うか・・・?ご主、人、様」
その言葉を聞いた女は、周囲にこだまするくらいの大きな声で、聞いた者がこの村で誰か一人の人間でも聞いていたのならば、誰もが気絶するのではと言うくらいに恐ろしい笑い声を鳴り響かせた。
翌日の7月14日・・・。
「夏野さ~ん。お野菜ちょっといただけませんか~」
そう言って夏野家の玄関に一人の男が、ガラガラと扉を開けて、靴をはいたまま家に上がった。
その男の名前を、榛名一馬と言い、夏野家の家の隣に住んでいた。しかし、隣と言っても車で5分から10分ほどかかるほどの遠い距離に住んでいるお隣であった。
一馬は、我が物顔で勝手知ったると言うような感じで夏野家のリビングの扉を開けた。しかし、その中の光景を見てしまった一馬はその中へと入る事が出来なかった。
なんと、リビングの机に一体、リビングのソファに一体、リビングのテレビの前に一体。それぞれ死体が転がっていたのだ。その死体の周りには、たくさんの血が流れていたのだろうか血で出来た池があった。そして、その血の池の存在こそが、この死体が最近死んだばかりである事が分かる物であった。しかし、その死体は誰の顔なのか判別出来ないくらいに“腐っていた”。顔の目の辺りからは、蛆虫が湧き出ており、口からは大量の蠅が入ったり出たりを繰り返していた。そして極めつけは、胸のあたりがごっそりと陥没しており、そこにあるはずの臓器が一式飛び出ており、素人でも分かる心臓は、どの死体には存在しておらず、ごっそりと消えてしまっていた。ただ、これだけの状況の中でひとつだけ異質な死体があった。それは、美香の死体である。美香の死体は“腐っていない”のだ。そして、胸の方も陥没はしておらず、何の損傷も無かったのだった。この2つの死体の状況を考えると、逆にこちらの死体の方が異質に見えた。
「な、何だこれは!?それに、夏野さん・・・なのか?これは・・・」
一馬はその死体のあまりにもの損壊具合に、2つの死体が夏野家の人間たちであるかさえ判別する事が出来なかった。美香の死体を見て、一馬はやっとこの2つの死体が他の夏野家の夫婦の死体である事を理解した。
しばらくの間、この3つの死体をジっと見ていた一馬は、とりあえず、警察を呼ばなくていけない事に気づいて、ポケットから震える手で携帯をだし、それのダイアルを押しながら、110番し警察に電話した。
一馬が事細かに電話の向こうの警察に説明した事もあったのだろうか、警察の一人の男が、本来ならばここまで1時間かかる距離を40分で慌てたような表情を見せながらやって来た。
そして警察の男は、その光景を見て頷くと、一馬の方を向いて儀礼的に事情聴取をした。
「あなたが一番最初に彼らの死体を見つけたんですよね?そして、うちの警察に電話をしてくれたのもあなたですよね?榛名一馬さんですよね?」
警察が榛名一馬に聞くと、榛名一馬は目をきょどらせながらいかにも怪しそうに見える感じで頷いた。
「はい。野菜を頂こうと来て、家に上がらせてもらったんです。そしたら、こんな風に・・・。それで、家の中の人達が、美香さん以外、皆こう・・・。ひどく腐っていて・・。」
警察は、死体を一瞥すると微笑を浮かべながら、警察手帳にメモをし始めた。
「なるほど、そうですか。人影を見たりしましたか?」
一馬は顎に手を当てて、今日一日の行動を思い出そうとした。そして、その後、否定するように首を振った。
「いえ・・・。そういうのは見ませんでした。ぁ、それより死因は・・・?って言っても・・・」
警察はお手上げと言った感じにため息を吐くと、再び死体を3つ順番に一瞥した。
「さすがにわからないですよ。こんなのありえませんから。ある意味。とりあえず、検屍をしてくれる医者を呼んでいるので、それを待つばかりですね。申し訳ない限りですが・・・。」
榛名一馬は、寂しそうに悲しそうに俯いてボソっと呟いた。
「そうですか、犯人見つかればいいですね・・・。それでは・・・。」
榛名一馬はトボトボと歩いて帰って行った。
その後ろ姿は、何処か悲しげにも見えた。
その後、一馬が去っていくのを見ながら、警察の男は再び夏野家の家の中に入り、3つの死体を無機質な表情で見つめた。
「犯人が見つかれば・・・ねぇ・・・。」
「ん~?どうかしたか。正仁?」
警察の男は、感情の籠っていない声を大根役者のように呟くと、後ろからめんどうそうな声色の声がした。
正仁と呼ばれた警察の男が振り返ると、そこにいたのは青いカッターシャツに茶色いネクタイに黄土色のズボンという服装の上に、真っ白い白衣を着ている医者風な男がいた。
その顔は、端正な顔立ちをしているのだが、30代後半の顔である上にたくさんの短い無精髭を伸ばしていた。医者ではあるが、まるで世捨て人のように見えた。さらに、めんどくさそうな表情をしているのが、さらにそのように見えるようになっていた。
「あぁ、吉田先生か。ハロー」
「おぃ、先生はやめろ。それに、なんだその気のない返事は。」
正仁は吉田先生と呼ばれる男にそう言うと、男は髪の毛をかきむしった。
「なぜ?分かるだろう。俺たちの関係だ。察しろよ。」
「あぁ俺ら。昔ながらのガチなんだろう?」
「ガチ?そんな言葉あったか?」
吉田はおどける様に言うと、正仁は不快感をあらわにした。
この二人は、昔ながらの幼馴染でもう一人の少女を入れて3人で「大和の3人衆」と呼ばれていた。
なぜなら、ある意味で「警察・医者・裁判官」と3つの重要な職業が揃っていたからだ。
正仁はため息を吐くと、彼の肩を叩いて、死体の方を一瞥した。
「あぁ・・・。すまん・・・。それより、何だあれは?見ただけで何か分かるか?」
吉田は、その方向を見て顔を壮大にしかめたが、鼻をつまみながら死体の方に近づいた。
そして、彼が3つの死体を調べて1時間もの時間が経った後、死体の近くで座ったままの状態で正仁の方に顔を向けた。
正仁は、驚いて目を丸くさせた。予定では、2時間かかるはずだったからだ。
「もしかして、もう分かったのか?」
その正仁の質問に吉田は頷くと、唯一腐っていない美香の死体に視線を向けた。
「俺が検屍した限り、まず最初に美香さんだが、彼女だけ何故なのか腐ってない。しかも、外傷と言う物が存在ない。もしかしたら、二人を殺した後に自分も自然に死んだという可能性も考えられたのだが。」
そこまで言うと、こんどは2つの腐った死体を一瞥して、悲しげな表情を見せた。
「それはありえない。この血を見たが、多分二人から流れた物と見て間違いないし。この地の池の範囲などから察するに、ほとんど乾いてない事から死んだのはここ一日以内である事は確実。それに、詳しい事を調べないとわからないが、この胸の切り開かれた傷を見て思うに、生きたままやられている。むごいとしか言いようが無い。そして、そのまま心臓を抜いた。その証拠と言っていいのか。天井のあたりにまで、血が飛び散っているぞ。」
そこまで吉田は言うと、上の天井を指差した。
正仁は、嫌そうにため息を吐くと、天井を見た。
やはりそこには、彼の言った通りに、たくさんの血しぶきが飛んでいた。
吉田は、そこまでと言うように指をパチンと鳴らすと、正仁の注意を再び自分に戻し、説明を再開した。
「それとだな。この蠅とかの成長具合から察するに死後10日以上は経っている。いや、もっとだな。まぁ、普通ならば・・・な。だが、それはありえない。プロの俺から言わせると、この状況は“ありえない”としか言いようの無いものだよ。以上。正直、心不全にすれば・・・って心臓ねぇな。めんどくせぇ。」
そう言うと、再び吉田は頭をガシガシとかいた。さっきは何も無かったが、今度は彼の頭からはフケがたくさん落ちた。
正仁は、そうかと呟くと、いつも二人の間でお決まりになっている質問をした。
「お前はどう思う?吉田・・・。この事件の犯人、分かるか?」
「さぁな・・・もしかしたら悪魔とか・・・かもなぁ?」
吉田は分からないあまりに、冗談めかしてそう言った。
「本当に悪魔だったりしてなぁ・・・。」
正仁はニヤリと笑い、吉田の冗談に冗談で返した。
吉田は、その返しに無言で頷くと、身をふるわせた。
「この事件は、次はいつ・・・始まるんだろうな。」
吉田がそう呟くと、正仁は首をかしげた。
「どういう事だ?これは連続事件なの・・・か?」
「そうだ。この前にあった遥ちゃんの事件。あれと美香さんの状況が一緒なんだよ。だから、これはまだ続く。そんな気がする。」
吉田がそう呟くと、正仁は冷や汗を流した。
そして、正仁はリビングのテレビを何故かジっと何かを問いかけるように見つめた。
そんな折、司の周りの霧がさらに一層濃くなっていったのだった・・・。
☆★☆★☆
「夏野家の死体・・・。普通ならありえないけど・・・。私は腐らせて・・・。娘の方はそのままにしておいた。今は私の考えた通りに視た通りに事が進んでいる。ここから先、不確定要素が出てこなければ良いのだけれども・・・。もし、出てしまったら・・・。」
女はそう不安げに呟いた。それは、司が夢で、彼を見つめた女。そして、彼女は夏目家の人間たちに変な事をした女でもあった。
「あぁ、そうだね。お前・・・」
そんな彼女に、傍らで佇んでいたとある男は、深みのあるテノールの声で優しくなだめるようにそう答えた。
「あ、あなた・・・。大丈夫よね・・・?」
男は、さらに彼女を安心させるために女の頭を優しくなでて微笑んだ。
「あぁ、心配いらないよ。きっと成功する・・・。それでなければ、ここまでやった意味がないよ。それに、あの方が手伝ってくれているんだよ?」
「そ、そうよね・・・。大丈夫なのよね。」
男の優しさを感じた女はしかし、全くと言って良いほどに安らぎを感じる事は無かった。
ただ感じるのは、この先に何が起こるのがわからないという漠然とした不安だった。
人間という物は、突然何をしだすか分からない。そんな生き物なのだから・・・。
☆★☆★☆
7月18日
司は、遥の家へと続く道を、一樹と一緒に遥の葬式場へ向かって重い足をノロノロと動かしながら歩いた。
司は、遥の死体を思い出していた。遥の眠った顔は、とても顔白かった・・・。しかも、とても美しく神々しく感じてしまった。
遥が消えてた間、いったいぜんたい何処にいたんだろうか・・・。あいつが見つかったのは、大和村の中で唯一の川である「玉無川」だった・・・。その川の河原で、倒れている所を司の弟の望に見つかったのだった。
そして、そんな彼女を死体を調べた吉田さん曰く、検屍をした結果。自然死であるとしか考えられないとされた。そう急性心不全と言っていた。死因不明の死体には、そういう病名をつけるときが多いらしい。
ただ確かなのは、川に入る前に死んでいる事が明らかになっていた。という事は、遥は死んだ後、誰かに川に捨てられた事になる。一体誰に川に捨てられたのだろうか???しかも、不審な点がもう一つあったらしい。なんと、傷ひとつ死体にはついていたと云うのに、心臓がごっそりまるごと無くなっていたのだ。そんな事、そうしてもありえない事だった。
本当に訳が分からない。そんな事件であった・・・。
そして、その後―。
司は、どうやって遥が死ぬ事になったのか。それをとある者に教えられる事になるのだ。それは、この村に多大な災いと不穏をもたらしたのだった―。
そんな事などまだ知らない司は、一樹と共に遥の葬儀の式場へ向かうのだった・・・。
翌日の7月19日。
司は、いつもなら一人で高校へ行くのだが、今日は何故だか気が変わって、一樹と一緒に学校に行った。
二人同時に教室に入ると、机と椅子が1つずつ無くなっていた。まるで、最初から遥の存在など無かったかのように。普通なら、その席の上に花瓶などを置いて、死者に手向ける物であると思っていた司は、その異様な光景に唖然となった。
そして、それと同時に、遥がいなくなったんだ・・・と、ここで初めてちゃんと気づく事が出来た気がした。実感する事が出来た。
そう思い始めると使命感が司の中で燃え上がり始めた。
もう、あいつは戻って来ない。けれど、遥のために絶対に誰があいつを川に捨てたのか、突き止めてやる・・・。司はそう決心した・・・。
そして、その後。まるで遥の死など何も無かったように、いつも通りの楽しげなクラスの雰囲気で授業が始まっていた。そのあまりにもの、薄情と思える状況に司は、止める事のない激しい吐き気を感じた。
一樹でさえ、それに乗って楽しげに他の奴らと会話していたのだった。
そんな異質な学校の時間がダラダラと流れ、終わった瞬間に吐き気が頂点に達しかけていた司は、一樹の手をひっつかみ、急いで逃げるように学校から逃げだした。
そして、走っているとふと、胸がざわつくのを感じた彼は立ち止った。
そのざわつきの原因を目で追うと、そこにはたくさんの石の破片が散っていた。
それを見て司は気づいた。この石の破片は、“地蔵”が壊された事によって出来た物なのだと。
「なあ。地蔵。なんで壊れてるんだ?いったい誰が壊したんだ・・・?」
司は、震える手で地蔵を指さして一樹に言った。
一樹は心底どうでも良さそうな顔をしてうなづいた。
「あぁ、壊れてるな・・・。」
そんな彼の様子に司は、ふと違和感を感じたが、それも隣の方から聞こえる声でかき消された。
「ねぇ、奥さん聞きました?村中のお地蔵さんが壊れてるらしいですわよ。」
「そうらしいですわね~。」
「一体誰の仕業でしょうね~。」
「どーせ、五十嵐さん所の息子でしょうよ。」
「ですわね~。いつも悪さしていますし~。」
とてつもなくくだらない上にわざとらしい言葉の羅列が司の耳に流れてきた。そのあまりにものわざとらしさには怒りを感じずにはいられないくらいだった。地蔵の方がどうでも良いように感じたが、この二人の会話にも、激しい違和感を感じた。それに、人のせいにしていると言うのもいただけない。司の最も嫌いとしている所であった。
しかも、彼には分っていた。五十嵐はやっていない。なぜなのかは分からないのだが、ただそう感じるのだった。もしかすると、あの夢に出てきた奴らのせいでは無いのか、そう思えた。しかし、こんな馬鹿みたいな考えを誰にも言う事は出来なかった。皆、笑うに決まっているからだ。
自分にしか見えないという意味不明で頭がおかしくなりそうな霧に、遥の神隠しに、とんでもない状況の無残な死者に、村中の地蔵の破壊・・・。これが全部、人間がやる訳が無い。しかも、出来る訳が無い事もいくつかあるように感じる。
だから、あの家族のせいだ。どう考えてもその結論に至った。
たとえば、そう結論づけるとする。しかし、どうやってそれが、あの家族がやったという事を証明できると言うのだ。しかも、証拠を見つける事が出来るとは、といてい思えなかった。
「一樹。お前は、本当に五十嵐がやったと思うか?」
「いいや。やってないよ。というか、皆そんな事は分かってる。ただ、そういう事なんだよな。」
司はなんともなしに彼に聞いてみた。しかし、彼の答は司の求めている答えでは無かった。それ所か、それ以上の事を言われた気がした。
「どういう事だ!?一樹!!!それって・・・。」
慌てて一樹の肩をつかんで問いつめてみたが、一樹は言ってはいけない事を言ってしまったかのように口を噤んで、すまなさそうに司を見つめた後、彼の肩を振り払い、一樹は司の向かう家の逆方向へと走り出してしまった。
司はただただ、その後ろ姿を見つめていたのだった・・・。
☆★☆★☆
その夜、村にはありえないはずの侵入者が車のエンジン音と共にやって来た。その車は、不吉さを称えて真っ黒な色をしていた。その車は、少しずつ村へ近づいて来る。中には、一人の少年と二人の男女が乗っていた。彼らは親子であるように見えた。
少年は、後部座席で最初は大人しく座っていたが、我慢出来なくなったのだろうか。突然立ち上がり、父親とみられる男の座っている座席に身を乗り出した。
「父さん!!!もうすぐ着くの!?」
「そうだな。もうす着くと思うぞ?道とかに関しては、私は分からないから母さんに聞いてみなさい。」
その問いに父親は、後ろを向いて不気味な笑顔を見せつけながら答え、母親の方に視線を投げかけた。
少年は、父親の言うとおりに母親に視線を向けた。
「母さん?父さんは、あぁ言っているけれど、もうすぐ着くんだよね?」
「えぇ。着くと思うわ。御霊は不安なのかしら?」
母親はニコリと微笑むと、御霊と呼ばれた少年を傍に引き寄せながら言った。そして、息子の頭を痛いと思わせるくらいになでつけた。少年は、迷惑そうな不満げな顔を見せて、母親の手を振り払った。
「母さん!!!止めてよ!恥かしいから!」
その息子の拒絶の言葉を聞いて母親はピタっとその行為を止めた。
「あら。ごめんなさいね。それよりも、御霊。あなたは、この村に入る事が不安なの???」
母親は謝った後、もう一度尋ねた。御霊と呼ばれた少年は、それを聞いた瞬間、不安げな表情を浮かべた。そして、その表情は少しずつ恐怖の色へと変わっていった。そして、恐る恐るゆっくりと頷いた。
「怖い・・・かな。だって、僕はあの中に入ることは“許されていない”んだから。母さん、それが分かっているのに、どうしてここに入ろうとするの?」
「入る必要があるからよ。それに、今は許される必要は無いわ。あなたを否定する存在はもう“いない”んだから。あなたを否定する物は、全て壊したわ。あなたのために。」
「本当に?」
「えぇ本当よ。」
二人はきつく抱き合った。母親の子供に向けるまなざしは、慈愛に満ち溢れていた。そして、母親は優しく彼の頭をなでた。
「大丈夫よ。あなたを破壊するものはもう無いわ。だから、安心して入れる。さぁ、今から村へと入るのよ。」
母親がそう言うと、車は村の中に入った。その瞬間、村中の空気が一気にゆらめいた。そして、その村の入り口には境界線が現れた。その境界線は、車が押し進んでいく度にひび割れていった。そして、車がその境界線を通り抜けると、それは崩れ去って行った。
「お母さん、今のは何なの?」
御霊は、その様を見て少しの不安を覚えた。その境界線に恐怖を抱いていた御霊だが、その境界線がいともたやすく崩れた事に驚きを隠せないでいたのだった。そんな不安でいっぱいになった御霊をなだめるように、母親である彼女は大丈夫だと諭した。
「あの境界線は、“とある人物”によって創造された物だったの。でもね、母さんは地蔵とか壊したでしょ?だから、色んな物を拒絶する物はもろくなっていたのよ。だから、あのような現象が起きた。これは決まっている事だったのよ。だから大丈夫なの。安心なさいな。」
「うん・・・。」
母親の説明に御霊は少しばかり納得できずにいたが、その思いを断ち切りこくりと頷いた。御霊のその行動に、まだ納得していない事を察した彼女は気づかないふりをして微笑んだ。
「それよりも、初めて食べた人間の魂はどうだった?おいしかったでしょ。」
「うん!おいしかった!この村に入ったらもっと食べれるの???」
「えぇ。食べれるわよ。それは・・・たくさん・・・ね。」
御霊は、その母親の言葉に気をよくしたのか、先ほどまでと打って変わった朗らかな笑みを見せた。その様子を見て、母親も一緒に微笑んだ。
「我慢よ。もうすぐ着くんだから。
子供は少しむくれるそぶりを見せたが、すぐに笑顔になって答えた。
「うん!分かった!我慢する!」
その言葉に先ほどまで黙っていた父親は沈黙を破り、豪快に笑った。
「ワハハハハハ。そうか。御霊はえらいな!!!男は我慢するのも大切だぞ。それを忘れるなよ。」
その叱咤激励の言葉に、御霊は元気良く返事をした。
「はぁ~い!」
「楽しみだな~。おいしい人間の魂を食べるの・・・!」
クスクスクス
その時、村中で御霊の笑い声が聞こえた-。しかし、その声を聞く者はいなかった・・・。何故なら全員寝ていなければいけない時刻であったからだ・・・。
そして、3人を乗せた車は村の中心のとある一角にとどりついた。そこには、300畳はあると思われるほどの大きさの家が不気味な色を醸し出しながら建っていた。
「ここが新しいおうちなの?」
御霊の好奇心に満ちたその問いに二人はただ頷いた。
そして、その時母親は上空にいる者に気がついた。上空には、司がこちらを見ていたのだ。
母親の正体は、先日に夏野一家の前に現れた黒樹という苗字を名乗る女であった。彼女は、司がこちらを見ている事に何故かとてつもない喜びを感じた。
「司君。ついにあなたも力を手に入れたのね。その夢見の力・・・。母さんと同じ・・・。未来を見るその力。もうすぐあなたに再会出来るわね。本当のあなたと・・・」
彼女は誰にも聞こえないくらいの声でそう呟くと、二人と連れて家へと入って行った。
☆★☆★☆
司は一樹と共に、学校へと重い足取りで向かっていった。
二人が学校に着くと、普段通りならばまだ登校中の生徒がたくさんいる時間で賑わっているはずの校庭には、誰もおらず閑散としていた。その事に違和感を感じるが、二人はお互いに感じないふりをした。そして、一樹はふと何かを呟いた。
「聞いてないぞ・・・」
「ん?何か言ったか???」
一樹のすり減りそうなか細い呟きの声を聞き取る事の出来なかった司は、首をかしげた。何を言ったのか聞いてみるが、一樹は言って無いと断固として答えるだけだった。そんな彼の様子は、何処か追い詰められた子羊のようであった。
そして、校舎の中に入り廊下を歩いているとチャイムが鳴った。二人は、その事に驚いた。いつもより30分も早いからである。とりあえず二人は、焦って教室へ先程までのゆっくりとした足取りとは比べものにならないくらいの速さで走った。息を荒らげならが教室に入ると、そこには他の生徒である皆が、俯いて自分の席に座っていた。いつも誰かが休んでいたこのクラスで、全員の生徒が集まった事に司は驚いた。
「いったい・・・どういう・・・?」
司はかすれた声でそう自問したが、それに答える物は何も無かった。
二人はお互いに目くばせすると、自分の席にイソイソと向かい座った。そして司は、隣にいる大竹という名の友達にどういう事なのか尋ねた。しかし、その大竹も知らないと言ってソッポと向くだけであった。
何かがおかしい。そう感じた司だったが、何がおかしいのか分かりかねていた。
そんな時、丁度良いタイミングで先生が、ガラガラという音を立てて教室の中へ入ってきた。そして、生徒全員が彼の後ろを歩く少年に気づいた。それは、司が見た夢でいた少年の姿であった。身長は司と同じくらいであるが、体格は司の少しだけがっしりした体格とは異としており、やせ細っており、顔は青白くやつれていた。そして何故だか、その顔には冷酷な笑顔が広がり、まるで自分たちを餌と見ているような目をしていた。
そしてそんな少年の訪問に司を除くクラスの全員が驚きでどよめいた。
「どうして転校生が?」
「おかしいぞ。そんなの聞いてない!!!」
「何なんだ!!!」
「こんなに早くアレが・・・。ケースが・・・」
「想定外の事だわ。」
そして、司には何を言っているのか全く意味の分からない言葉があちこちで飛び交った。彼は一樹をチラっと見たが、一樹も何か爪を噛んでブツブツと何かを呟いていた。その光景にゾっとしたが、押し黙って冷静を装いジっと入ってきた少年を見つめた。転校生だと思うが、何故皆そんなに転校生という存在に驚いているのだろうか、まるで“存在してはいけない”者がやって来たような・・・そんな風に感じた。
先生はその教室中の騒然とした空気を受けていたが、まるで最初から想定内だったのか何の反応も見せずにスタスタと少年を引き連れて黒板の前に立ち、彼の名前を書きながら紹介した。
「えぇ~とだな、今日は転校生を紹介する。黒樹御霊君だ。皆、よろしく頼むぞ。」
「こんにちは!黒樹御霊です!よろしくお願いします!」
御霊は学校中に響き渡るのではないかというくらい耳を劈くような大声で元気に会釈しながら挨拶した。
しかし、彼が会釈し頭を上げた瞬間、司の脳裏にゆがんだ冷酷で無邪気な声が聞こえた。
「「おいしそうだな・・・。ジュル・・・。誰から食べようかな?」」
その言葉にゾっとし、司は辺りを見回した。誰の声なのか、司には見当がつかなかった。
「「神鳴司。おしいそう。」」
更に声が聞こえた。それで司は気づいてしまった。目の前の黒板の前で立っている御霊という少年がこちらを物欲しそうな目で見ていることに・・・。
恐怖による寒気を感じた司は、負けるものかと御霊をジっと見返した。すると、その彼の行為に面白いと感じたのか、嘲笑と嬉しさという複雑に混じった感情の籠った笑みが浮かんだ。
そして司は、恐る恐る隣にある空いている机を見た。まさか・・・。
司の嫌な予感は的中した。先生は御霊の肩を叩いて、司の横の誰もいない席を指差した。
「黒樹。お前のの席は、神鳴の隣だ!さぁ、行け!」
「はい!」
御霊は我が意を得たりとばかりにニヤリと笑うと、走って司の隣の席についた。そして、御霊はニタニタとおいしそうだと言うような笑みを張り付けたままに、司の方へとゆっくりと音が鳴るのでは無いかというくらいの遅さで振り返り、司に手を差し出した。
「神鳴君・・・だよね???よろしく!」
「あ、あぁ、よろしく」
司は、その差し出された手を握り返しながらそう返すと、御霊は覗き込むように手を握ったままに司を凝視した。
「「うわぁ、近くにいるとすごくわかる。こいつ・・・。おいしそうだなぁっ!」」
司はまた聞こえたその声に、吐き気がこみ上げた。誰かこのおかしい声に気づいていない物かと辺りを見回してみるが、誰も気づいた様子は全くなかった。それどころか、こちらを見ないように必死になっているだけの光景しか見る事は無かった。
うんざりした司は、盛大なため息を吐いて御霊の手を振り払った。すると、彼は心配そうに司の顔をさらに近づいて覗き込んだ。
「どうしたの?神鳴君!」
「いや、何でもない・・・。」
その問いに焦った司は、なんでもない風を装って、黒板を方向を向いた。そして、授業は何事も無かったかのように始まったのだった。そして、その時に気づいたのが、御霊はとてつもなく頭が良かった事であった。先生は、たまに生徒に大学生でも解けないような数学の問題をイタズラで出すだが、彼がいとも簡単にそれを解いてみせたからであった・・・。
その光景に全員が、息を飲んだ。しかし、それと同時に生徒全員が突然、彼に友好的になったのだった。そして、全ての授業が終わるころには、彼は全員と友達になってしまっていたのだった。
司は、その光景にただただ違和感と恐怖を感じるのだった・・・。
この部分は、たいしてお話は進んでないですね(;・∀・)
次回も 話は進まない気がします(;´Д`)
さらには、文章がひどく嫌な感じですよね~。
これって狙って書いているんで、そこらへんも第一幕の最後にどうやって繋がるかを考えてくださるのも面白いと思いますw
多分、しばらく話は動かない・・・かも・・・?
そんな感じのこの小説です(;´Д`)