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Well-being for Life!  作者: chai
1章 出会い
9/29

全体の話数が短くなりました。

前半部分、2話分を1話分に纏めたためです。

ほとんど内容に変更はありません。

「お姉ちゃん、よくこんな短期間で新しく家も仕事も見つかったね」


 里緒は、妹夫婦の家を訪れていた。

 今回の訪問の目的は、来週に差し迫った引っ越しに向け、この家に置いてあった自身の荷物を整理するためである。

 残念なことに姪である亜衣はプレ幼稚園なるものに通っているため不在だったが、その方が作業がはかどるので結果的には丁度良かった。

 何しろ、里緒はここのところ大忙しなのだ。


 

「まあね、ちょっといろいろと事情があってさ」


 本当なら何から何まで詳しく打ち明けて『あの父親の性格、どうかと思わない?』などと愚痴がてら、他人の意見を聞いてみたいところなのだが、この家の夫婦は揃いに揃って里緒に過干渉なものだから、新しい就職先にきっと大反対をすること間違いない。 

 この家を出ていくことになった際にも強く引きとめられ、終いには妹がウルウルとした瞳で『お姉ちゃん、私たちと住むのそんなに嫌だったの?』と号泣一歩手前の状態だったのだ。

 とりあえず本契約を取り交わし、引っ越しを済ませるまでは何も語るまい。

 そう思って里緒は今後の質問は全てお茶を濁すことにした。


 それにしても――思っていたよりも遥かに荷物の量が多かったことに里緒は少し驚いた。

 あの収納スペースゼロのアパートに住んでいただけあって、里緒のほとんどの荷物はこの家に保管されている。

 そのため予想以上に作業に時間がかかってしまいそうだ。

 しかし半同居とはいえ、2年以上この家で過ごしたのだからそれも当然なのかもしれない。

 まあ、新しいマンションには不必要なほどの収納スペースがあるため、どれだけの量のを持っていこうと困るということはないのだが。


 

「そういえば、この間くれた英語の絵本、あれ亜衣がすごく気に入ってるよ。いつも寝る前に私と一緒に読んでるの」


「ほんと?それは嬉しいわぁ」 

「リズム遊びの感覚で読みやすいよね、あれ。おかげであの子、最近ABCのDVDも見るようになったのよ」


 どうやらあのチョイスは大正解だったらしい。

 絵本を気に入ってもらえただけでなく、亜衣の英語に対する興味の切っ掛けにもなったようで、表参道まで足を運んだ(実際には車で送ってもらったのだが)甲斐があるというものだ。

 自分も芦田の家で上総と一緒にこの絵本を楽しもう、と里緒はそう思った。


「浦和かぁ……ちょっと家から遠くなっちゃうね。ただでさえ頻繁に会えなくなって寂しがってるのに、亜衣がそのうち反抗しだしたらやだなぁ」

「2歳は自我が芽生える時なんだから、私がいようといまいと、すぐに反抗期がくるよ。しっかり自信もって頑張んなね、ママ」



 妹の梓は18歳になったが早いか妊娠し、それが発覚した頃、当時お付き合いしていた今の旦那は転職先が決まったばかりで、数ヵ月後に本社の横浜に配属されることになっていた。

 梓も里緒も、そしてもちろん彼もそれまでは地元である新潟で生活をしていて、里緒は自宅から30分ほど離れた保育園に勤務していたのだった。 

 妹たちは即結婚ということになったのだが、梓がどうしても旦那と離れて暮らすのを嫌がり、妊娠中も何が何でも夫婦一緒にいるのだといって譲らなかった。

 そうなると末娘に甘い両親は渋々それを承諾しつつ、中古とはいえ川崎の一戸建てを結婚祝いにと娘夫婦のために購入したのだ。

 そしてさすがに18の梓に一人でお産や子育てを経験させることはできないといって、そこで白羽の矢が立ったのが姉である里緒だった。

 両親は内心、いくらかわいい末娘のためだからといってこんな風に長女の人生を振り回してしまうのは心苦しかったのだが、意外にも当の本人は時間を置かずに首を縦に振ったため、全ての問題はすぐに解決となった。


 職場を退職し、妹夫婦と同じタイミングで川崎へと移った里緒は、最初のうちは、中古とはいえなかなか広く住み心地のいいこの家に完全なる同居をしていた。

 時間に融通の利く仕事を探していた里緒は、短時間で高時給を得られる非常勤講師の仕事を始め、それ以外の時間は初めてのお産と慣れない環境に不安をもつ妹が少しでも安心して出産を迎えられるようにと、育児の知識を一緒に学んだり、見知らぬ土地に早く慣れるように2人で外を出歩いたり、まるで過保護な母親のように甲斐甲斐しく妹に接した。


 地元でも特別仲がいいと評判だったこの姉妹と、梓の夫であり里緒の親友の兄でもあった淳平の3人暮らしは、思っていた以上に順調だった。

 亜衣が生まれてからは尚更で、育児初心者の若夫婦は姉である里緒に事あるごとに頼り、誰がこの家の主なのかわからないほどだった。

 とはいえ亜衣が3ヵ月を過ぎるころになると、さすがに新婚さんのお邪魔をしてはならないと、里緒は自分の住居を構えた。

 それでも梓一人では初めての育児がままならないため、実際の生活は半同居のようなものだったのだが。


 梓はすでに成人した立派な大人だし、亜衣もそろそろ2歳半で、もうすぐオムツ離れが出来るまでに成長した。もう家族3人でやっていけるだろうと里緒はようやく自分のためだけの新しい人生を歩み始めた。

 そこで出会ったのが芦田親子なのだから、何だか因縁……ではなく、一種の運命のようなものを感じるような感じないような気が――しないでもない。


 とにかくこの甘えん坊の妹は、これからはあまり姉に頼ることなく彼女なりに頑張って欲しいと思う。

 何かあれば勿論すぐに飛んで行って助けるつもりだが、できるだけ自立して一児の母として逞しくなって欲しいと、姉としてはそう願うのだ。

 そんな里緒の思いをわかってか、黙って姉を見つめていた梓は真剣な面持ちで里緒にこうお願いをしてきた。


「あたし頑張るから時々は遊びに来てね。亜衣のこと、これからも相談に乗ってね」


 これだから甘やかしたくなってしまうのだと、里緒は素直で可愛い妹の髪を思わずぐしゃぐしゃにしてしまった。




「じゃあ、この納戸にまとめてある荷物、来週の金曜に集荷に来てもらうことになってるから、対応だけ任せたからね」


 ようやく全ての荷物をまとめあげ、宅配の手配も済ませておいた。

 この家とも暫くお別れだ。

 これまで半分住んでいたようなものだから、ちょっぴり別れ難い。


「亜衣と、淳平君にくれぐれもよろしくね。しばらくの間ばたばたするから来れなくなるけど、定期的に連絡入れるから。落ち着いたら今度は亜衣のいる時間帯に遊びに来るね」


 妹にそう告げて、里緒は約2年半の間お世話になった――いや、むしろお世話をしたこの家に別れを告げた。   

今回ちょっと短いです。

そのぶん次話が長くなる予定です。

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