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The unsung war  作者: 平西兵次郎
2/3

凍てつく銃火

「間もなくネイデン航空基地に到着する。基地に着いたら直ぐに機体整備、ブリーフィングをやって出発するぞ。今のうちに飯は済ませておけ」

操縦席のドアから顔を出した飛鳥が、小型客室で震えているソフィアに言う。既にカイロは温もりを失い、暖かかった時とのギャップで余計に寒く感じていたのだ。

「基地の暖房はこれよりも多少は効いている。もう少しの辛抱だ」

「は、早く行こう...。寒くて寒くてもう...」

「お前、ロシア系だろ。寒さには慣れてるんじゃないのか」

「私、クリミアの生まれだから...。流石にこんな寒さは味わった事ない...」

クリミア半島は黒海に面するステップ気候の地域である。その為凍土が国土の多くを占めるロシアにあっても珍しい、比較的温暖な地域なのだ。

そこで生まれ育った彼女にとって、北極圏の寒さはまさに異次元のそれだった。

さて着陸した輸送機から降り立った飛鳥達が最初にしたのは、基地司令への挨拶だった。既に北欧方面軍司令部から通達を受けていた司令は特に何か言う訳でもなく、機体の整備と補給、そして寒冷地での活動の為の廃熱ヒーター、センサーの防氷処理等の改造を基地の整備兵から受ける。

「悪いな。手間がかかるだろう」

「こんなもん、毎日やってる事だ。今更一機くれぇ何とかならぁ。だが、ウラディーミルを一機組み立てろってのは驚いたぜ」

整備兵の一人が顔の油を袖で拭いながら答える。確かに格納庫にあるNECの主力量産機"ワイバーン"は飛鳥も幾度か見た事はあるが、脚部に増設されたヒーターや氷上滑走時のスキーローラーなど、一目で判別出来る程度には寒冷地仕様に改造されている。

だが、熟練の整備兵と言えども流石に頭部が吹っ飛んだウラディーミルの修復と言われれば、眉間に皺も寄った。そもそも別勢力の機体である。結局、頭部をワイバーンの物に換装しつつ、NECの関与がバレないように大型サーマルセンサーを搭載し偽装することで一旦の終了を見た。ソフィア曰く「狙撃が得意」という言をフィードバックした結果だ。

六時間程度で整備と改修は終わった。整備兵達に礼と感謝の印に持参した酒を渡し、作戦の最終確認に入る。

「この基地からムルマンスク港湾基地までは270km。陸路で国境越えは出来んから、海路を使う。搭載したブレイクを幌で偽装しつつ大型トレーラーでチルケネス湾まで行き、協力者がチャーターしてくれた船舶番号付きのECO小型高速輸送艦に乗り込み国境を越え、周辺を哨戒しているECO北方艦隊を回避しつつ、コラ湾に侵入。その後上陸し輸送艦を破棄し、ブレイクでムルマンスクまでの60kmを走破する」

ECO北方艦隊はロシア軍艦三十隻で構成される、北極圏鎮護の要である。当然たった二機のブレイクで相手取れる訳もなく、これの回避は至上命題だった。

そこで飛鳥はECO内に潜伏している協力者に頼み、ECOに艦籍を持つアリェン級小型高速輸送艦を秘密裏にノルウェー・チルケネス湾に待機させていた。これに乗れば艦隊の航路を迂回して通れる他、もし鉢合わせてもECOの輸送艦、つまり味方である為殆ど問題なく通過出来るのだ。あまりに用意がいいのでソフィアは飛鳥に尋ねたが、

「協力者は優秀なんだ」

としか返さなかった。

「でも上陸までは上手くいっても、そこからの60kmでバレるんじゃ?」

ソフィアの疑問は当然である。だが飛鳥はそれも対策済みとばかりに、一つのルートを赤いペンでなぞった。

「ここ...。この山間部は敵の監視衛星からも見え辛い。しかも基地の近くまで続いているから、お前はここで狙撃支援をしてくれ」

「基地から4000mかぁ...」

「自信があるんだろ?」

挑発的な表情の飛鳥に、ソフィアはにやりと豪胆に返す。

「そして俺が敵地に突入し、基地を無力化させて核兵器を捜索、発見次第機体に搭載されているUAVによる起爆装置の解体作業、及び弾頭の回収を行う。ソフィアには遠距離支援がメインの予定ではあるが、戦況次第で前進して近接援護をやってもらう」

「りょーかい。銃はあんたのでいいんでしょ?」

「あぁ。一応近接戦に備えて40mmも渡しておく」

「わお、太っ腹」

そういう事で話はまとまり、それから二時間後に二人は基地を発った。トレーラーでチルケネス湾に行き、予定通りに待機してあった輸送艦に搭乗する。乗組員は四人。いずれも飛鳥が信頼を置く人間だった。

「国境近辺の海域は北方艦隊が見張っています。なのでこちらからNEC艦隊がここより北に30km程の海域に集結しているという偽情報を流し、奴らの目を引き付けさせ、その間にラインを越えます」

艦長のオックス・アーリが自信げに言う。

「しかし、NEC艦隊が国境に接近とは、よもすれば戦争の口実になるのでは?」

と飛鳥は尋ねる。すると傍らにいた操舵手のヘンリー・マズはやれやれと言った風に首を横に振り、

「日常茶飯事でさぁ。今更なんの事ぁねぇでしょうや」

と言い放った。彼は元々NEC海軍の所属であり、彼らの内部事情にも詳しいのだろう。

「我々に今最も必要なのは時間です。大尉の...」

「艦長」

オックスの言葉を、飛鳥が不機嫌そうな声で遮った。不審に思ったソフィアは、

(大尉?)

と疑問を抱き飛鳥に尋ねる。だが、

「飛鳥、大尉って?」

「お前は知らなくていい事だ」

と苛立ったような声に気圧され、すごすごと引き下がった。

「...失礼しました。波音さんのハウンドとソフィアさんのウラディーミル。二機が積載ギリギリですよ。しかし、それで基地を叩けるんですか?」

「問題ない。彼女は強力な戦力になる」

「それなら良いのですが。国境を越えるまで後二十分です。その後は二時間程度ですがコラ湾侵入まで時間がありますので、おくつろぎください」

「分かった。ありがとう艦長」

そう言うと、飛鳥は椅子にかけていたコートを羽織りながら艦橋を出ていった。ソフィアは彼の変貌についてオックスに尋ねるが、

「申し訳ない。私からは説明出来んのです」

と頑なに断られるだけだった。

無事に国境を越え、三十分が過ぎていた。飛鳥が気分直しに甲板に上がると、ソフィアが手すりに寄りかかって休んでいた。海の方を見ている為彼女の背中しか見えないが、その口の辺りから白煙が立ち上るのを見た飛鳥は驚いて、

「!お前、吸うのか...!?」

と思わず声を上げた。それに反応したソフィアは飛鳥の方に振り返り、

「何、悪い?コレだって嗜みってやつだよ」

そんなに吸わないけどね、と彼女ははにかみながら付け加える。その様子に少し安心した飛鳥は彼女の横で手すりにもたれると、

「その、悪かったな。強い口で言ってしまった」

と水平線を見ながら言った。ソフィアは拍子抜けといった風に目を少し見開いたが、すぐに持ち直して、

「気にしてないよ。誰だって知られたくない事の一つや二つはあるでしょうって、分かってたのに聞いた私も悪かったし」

と言いながら、手に持ったカートンから煙草を一本取り、飛鳥に差し出す。だが飛鳥は少し困ったような顔をした後、申し訳なさそうな声で呟く。

「俺...、吸えないんだ...」

「あぁ...」


「まもなくコラ湾に侵入します。お二人は揚陸準備願います」

パイロットスーツを着込んだ飛鳥とソフィアがそれぞれ愛機へと乗り込み、機体の調整を行う。特にソフィアはセンサー系が丸ごとNECのワイバーンの物に取り替えられているため、その感覚を掴むのに少々手間取った。

四苦八苦しながら何とか調整を終えると、不意に機体が小刻みに揺れた。輸送艦が停船したのだ。

輸送艦の前部ハッチが開放されると、ハウンドに続いてウラディーミルも上陸し、その後いくつかの小型揚陸艇が物資を積載して流れ着いた。

「我々はこれより離脱します。健闘を」

オックスの言葉を背に、二機は夜のロシアの自然の中に消えていった。

途中幾度かロシア軍の哨戒機に鉢合わせそうになりながらも何とかすり抜け、二人が予定の山間部に辿り着いた時にはすっかり太陽が頭上に登っていた。

「襲うのは日没後だ。もう少し待とう」

「了解。コーヒー飲む?」

サバイバルキットの粉末コーヒーを作りながらソフィアが言う。思いの外呑気な彼女の様子に少し安心しつつ、コクピットから降りてコーヒーカップを受け取る。身体に馴染んだ匂いや味に、作戦開始直前の緊張が少し解けていった。

作戦開始まで後四時間程度。それまで飛鳥は基地の監視を、ソフィアはコクピットの中で毛布にくるまって寝ながら時間を潰した。

そして日没後、辺りが闇に包まれて動くものの視認が困難になった頃に、彼らは動き出した。

「支援が必要になった時は連絡する」

「了解。任せといて」

淡々とした会話を済ませ、飛鳥のハウンドが山の斜面を下っていく。それを見ながらソフィアは、

「これ、私があいつ撃てば軍に戻れるかな?...なーんて、思ってみたりして」

と呟いた。そんな考えは一旦捨て、センサーをサーマルに切り替える。ワイバーンはウラディーミルと操作系統が違う為少し慣れないが、それでも狙撃の補助に使うなら十分であった。

戦闘は飛鳥が正門を突き破った瞬間に始まった。基地内を巡回していた戦車隊と偶然に鉢合わせたのだ。突然の敵襲に動揺している戦車を突撃銃で撃破し、突き進んでいく。守備隊のウラディーミルが三機並んで迎撃するが、飛鳥はその攻撃を難なく躱して突破し、振り向きざまの二連射で三機同時に仕留めてみせた。

「すっごぉい。こりゃ私の出番は無いかなー」

スコープ越しに見ていたソフィアが感嘆するが、ふとハウンドの後ろから一機のウラディーミルが地中から...、正確には地下格納庫から現れたのを確認すると直ぐさまウラディーミルの頭部に照準を合わせる。

「前言撤回。後ろが甘いなぁ」

呟きつつ引き金を引く。射出された大口径弾はウラディーミルの頭部を吹き飛ばし、機能停止に陥らせた。

「ま、一応同胞だし。私みたいに何も知らないんじゃ、死ぬのはなぁ」

元友軍への攻撃を自分の中で正当化する。結局、ソフィアのしている事はECOの兵士にとっては金に釣られて裏切ったも同然。それを自覚しているからこそ、彼女は自身への禊としてなるべく不殺を心掛けるようにしていた。飛鳥はその後も頭部のみを撃ち続けるソフィアを見てそれを察したが、あえて何も言わなかった。

「このまま突入する。ソフィア、お前もこっちに来てくれ。解体作業完了まで護衛を頼む」

「はいはい。今行きますよっと」

だるそうなソフィアの声を聞きつつ、核弾頭がある地下格納庫のゲートを爆破させ突入する。そこにいた何人かの整備員が慌てて逃げ出すのを尻目に、飛鳥はハウンドを屈ませて背部に背負った大型のサバイバル・コンテナからUAVを展開させる。

「核弾頭の解除コード...、推進系への点火シークエンス強制切断...、弾頭の分離命令実行」

全てのコマンドを入力すると、弾頭と燃料タンク部分から空気が抜けるような音と共に水蒸気が立ち上った。

「終わったの?」

「あぁ、これで分離完了。後は弾頭をコンテナに回収して離脱するぞ」

「了解。さっさと逃げちゃおう...、ん?敵?」

ソフィアの広域レーダーに赤い光点が瞬いた。それはどんどんと二人の方へと近付いてくる。

「は、速っ!?到着まで後...」

彼女が言い終わる前に、ゲートの爆破後から一機のブレイクが飛び込んでくる。白く塗装されたその機体は持っている大刀のような武器の切先を向けると、

「警告する。今すぐその弾頭をこちらに引き渡せ」

と通信した。

「何者だ、貴様」

飛鳥は動じずに、しかし右腕の徹甲弾砲を構えて尋ねる。ソフィアも同様に突撃銃の狙いを付けるが、白いブレイクのパイロットは気にも留めずに、

「貴様らに名乗る名など持ち合わせていない。その核弾頭をこちらに引き渡すか、ここで死ぬか選べ」

とあくまで強圧的な態度を崩さない。すると痺れを切らしたソフィアがため息混じりに尋ねる。

「弾頭を回収して、それでどうする気?」

「貴様らが知る必要はない」

「...何にしても、既に核は我々が回収した。貴様に譲ってやるわけにはいかんのでな」

「そうか。ならば...、殺す」

パイロットは短く息を吐き、大刀を構えて突進する。それを確認した飛鳥は自機の左腰にあるコンバットナイフを引き抜いてすんでのところで受け止めた。

「飛鳥!」

ソフィアが突撃銃を連射し、白い機体をハウンドから引き離す。そのまま狙い撃ち続けるが、白い機体は驚くべき機動性で易々と回避する。

「うっそ、速すぎでしょ!」

「相当の腕の持ち主だな。二機で仕留めるぞ、お前は左に回れ」

飛鳥の指示が飛ぶと、二機は同時に左右へ展開する。白い機体が飛鳥に接近しようとすると、ソフィアがそれを牽制し、その隙に飛鳥が接近して格闘戦のイニシアチブを握る。

「この核兵器を使わせるわけにはいかんのだ!何故邪魔をする、貴様の目的はなんだ!」

「知る必要はないと言った!」

イニシアチブを握るとは言うものの、元よりナイフと大刀ではリーチが全く違う上に白い機体は高機動のチューンをされているようで、重装型のハウンドではやはり苦戦する。

(予想では後一時間で連中の増援が来る。それまでに片をつけなければ)

飛鳥の予想は当たっていた。事実、ムルマンスク基地の異変に気付いた北方艦隊や近辺の部隊が救援の為に全速で向かっていたのだ。

逃走の為に四十分は欲しい。ならば、目の前のこの敵は二十分で片付けなければならないのだ。

この時飛鳥の頭の中には一つの策があった。成功すれば目の前の敵を完全撃破、あるいは戦闘不能に陥らせられるものだったが、反面リスクも大きかった。

(失敗すれば死ぬな...。だが奴の機体がそれであるなら、それならば)

一瞬目を瞑って覚悟を決める。そして一息に、

「ソフィア!俺ごと撃てよ!」

と叫ぶ。ソフィアは一瞬驚いたが、飛鳥から送られてきた彼の機体の構造図面を見て彼の思惑を察した。

「え!?...あぁ!そういう事か!」

「行くぞ!」

覚悟を声に乗せて吼えた飛鳥が、全速で白い機体へ吶喊する。それを見たパイロットは鼻で嗤って、

「打つ手なしか。潔く死を選んだ事は褒めてやる」

と大刀を構えて、接近してくるハウンドの頭部にその切先を向ける。そこがコクピットだからだ。そしてそのまま、反応しきれなかったハウンドは複合装金の刀身に貫かれた。

パイロットは一瞬口角を上げたが、次の瞬間にその表情は強ばった。

ハウンドのマニュピレータが白い機体の腕をがっしりと掴んでいたのだ。

「馬鹿な?確かにコクピットを破壊したはずだ!?」

思わず発した疑問に、接触回線で飛鳥が答える。

「こいつのコクピットはそこじゃない。()()()()()()だからこそお前は正確にそこを狙ったんだろうが」

「なんだと?」

ハウンドのコクピットは頭部にあるのだが、市街地や山岳地帯など遮蔽物の多い戦場では、頭部が突き出てしまうことがある。その為戦場で撃破されたハウンドの殆どは頭部を損傷していた。すなわち高確率でパイロットが死亡しているのだ。

それは指揮官と言えども同じだった。当時部隊の指揮官を育てるのに要する時間は五年前後、失うのは避けたかった。

そこで兵器開発局は指揮官機としてコマンドタイプを開発した。これは最も装甲の厚い胸部にコクピットを移し、生存性を高めたものだった。それを知らなかった為、白い機体のパイロットは頭部を狙ったのだろう。

そしてこの間違いの理由は、その白い機体はハウンドがベース機だったからだ。外見からは判別がつき難いが、右旋回速度や左腕の上下移動のズレ等、細かい癖から飛鳥は見破っていた。

「とっておきの内の一つって事だ。ソフィア、やれぃ!」

「言われなくっても!」

ソフィアのウラディーミルが、動けない白いハウンドに向けて突撃銃を連射する。何発かは飛鳥の機体に着弾したが、殆どが白いハウンドに直撃した。爆発が起こり、煙が周囲を包む。

「やった!」

ソフィアが歓喜の声を上げたが、

「やってない!」

飛鳥が怒鳴る。煙が晴れ、二機の姿が明らかになると、左腕を切り落とされた飛鳥のハウンドと、中破した白いハウンドがあった。

「驚いたよ。お前の機体は全身刃物かい」

白いハウンドの破損した右腕の装甲跡には、ブレードと思しき武器があった。

「ふん、貴様らは姑息なやり方をやるんだな」

「最適解だ。二機相手に後どれだけ戦える?」

二人の目がハウンドの装甲越しに火花を散らす。一瞬間を置いて、白いハウンドが踵を返してその場から離脱した。

「ようやく退いてくれたか。我々も退散だな」

「核は?」

「安心しろ。しっかり回収している」

「そ。じゃあさっさと逃げよう!」

白いハウンドとは別の方角へと逃走を開始する。

「つってもさぁ、逃げるアテとかあんの?」

「抜かりはない。NECとECOには秘密の貿易路がある。その車列の一部を買収させておいた。彼らに紛れて国境を越える」

「さっすがぁ。...あっ、そういえば出撃の度にボーナス出るとか言ってたよね?」

「心配するな。しっかり渡す。お前の口座を知らんし多分凍結されているから、手渡しだがな」

「やっほぅ!命懸けた甲斐があったってね!」

ソフィアの嬉声に飛鳥は思わず笑みをこぼした。それに気付いたソフィアも笑い、二人の笑い声は晩冬のロシアの澄んだ空気の中に消えていった。


「ムルマンスクが襲撃を受けた?」

「は。所属不明のブレイク()()による攻撃であると」

同じ空気を二人の男の声が揺らした。

ここはモスクワ、クレムリン、その最端にある一室。無数のモニターと研究器具が立ち並ぶ殺風景な部屋に似つかわしい葉巻の匂いが立ち込めている。

「それで、核弾頭は?」

「奪取されたようです。北方艦隊や地上部隊が捜索を繰り返していますが、成果は芳しくありません」

「そうだろうな。それほど少数で基地を襲った奴らだ。我らの追跡を振り切る経路くらい持っているだろうよ」

男が吸っていた葉巻の先を灰皿に擦り付け、窓の外を見る。冬の暮れとはいえ、まだまだ外は銀世界。春の訪れはまだ先だった。

「ゲルト、輸送機をチャーターしてくれ」

男は自身のデスクから離れ、扉に手をかける。

「どちらへ?」

「海南島の基地だ。君も来い、中華料理をご馳走しよう。このイグナート・セヴァリの奢りだ」

「戦略核運用理論研究局の局長殿からとは。お相伴に預かりましょう?」

笑いながら、二人はその部屋を後にした。残されたのは鬱蒼とした暗い部屋と、無数に保管されている地図と資料だけだった。

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