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The unsung war  作者: 平西兵次郎
1/3

砂煙の戦場

中東シリア砂漠 ECO第五物資集積所


乾いた風が砂塵を纏い、蒼天を曇らせる。原生生物の死骸が皮を無くし、肉を無くし、その骨だけが黄土の肌から露出している。

その骨を踏み砕いて、撃進する物体があった。

ブレイク。現在世界各地の戦場を疾駆する人型陸戦兵器。ロシアや中国、中東諸国を主軸に構成された東欧軍事経済相互連携機構(ECO)が主力機として運用しているウラディーミルが六機、二個小隊がそれぞれ散開と集結を繰り返していた。

「アリョール1より各機へ。偵察に出た部隊からの通信が途絶えた。方位二三〇〇」

「ボルク1了解。これより当該地点へ向かう。各機は狙撃に警戒しつつ、標準速度(時速七十km)で前進せよ」

「ボルク2了解」

「ボルク3了解。...敵って、報告じゃたった1機なんでしょう?」

「そうだ、ソフィア少尉。その一機に偵察部隊がやられている。噂の妖怪(プリズラク)かもしれん。気を抜くな」

隊長であるボルク1の言葉に、ボルク3、ソフィア・スミルノヴァ少尉はブリーフィングで聞いた話を思い出す。

近頃ECOの基地を襲撃しているという謎のブレイク...。妖怪(プリズラク)と渾名されるそれは、現在ECOの悩みの種だった。どこの勢力かも分からない機体を用いてたった一機で基地を襲い壊滅させるので、その戦い方や装備も定かではないのだ。

ふとソフィアが自機のモニターを見、顔を顰める。

「シムーンだ」

シムーンとは、砂漠等の乾燥地帯で発生する強風である。一般的には砂嵐と呼ばれるが、中東特有の熱風は地上で活動するものに容赦なく襲いかかる。ブレイクとて例外ではない。防塵仕様に改修されているとはいえ、センサーや関節の僅かな隙間に入り込んだ砂粒による誤作動は、砂漠地帯で運用される全てのブレイクにとっての枷であった。

「モニターに障害が出てる。全機サーマルに切り替え」

モニターが一瞬暗転し、次いで一面が青色に変わる。外気は熱いが、砂自体の温度は存外に低い。この中で蠢く熱源があれば、それこそ彼女らが探している妖怪である。

だが、一面を見渡しても何もない。それはソフィア達も織り込み済みである。当然だ、姿を見せぬが故の"妖怪"なのだ。

「砂岩が多い。死角には十分に警戒しろ」

「ボルク2、南東方向の捜索を開始す...」

そこまで言葉を発した瞬間だった。ボルク2の胸部コクピットが吹き飛んだのは。その光景を見た残りの二機は咄嗟に砂岩の陰に飛び込んだ。

「ボルク3、無事か!」

「健在!超遠距離からの狙撃、敵はこちらを把握している!」

「アリョールチーム!今の攻撃から敵の位置を割り出せるか!?」

「少し待て!こちらは...」

アリョールチームからの通信はそれが最後になった。広域レドームを搭載しているからだろう、優先的に狙われた三機の偵察用ウラディーミルは瞬きする間にコクピットをぶち抜かれ、ただの鉄塊に成り果てた。

「この砂嵐の中で目すら失ったか...!」

ボルク1の焦る声が無線から流れるが、ソフィアは冷静に分析し、ある仮説を編み出していた。

「敵はおそらく南東方面にいる...!アリョールチームを真っ先に狙わずに、そっちを捜索するボルク2を狙撃したのはそれ故では!?」

「だとすれば...!俺が前に出る!ソフィア少尉は援護射撃!」

ボルク1はサーマルカメラが移した単色調の景色を凝視する。もし南東に敵がいるならば赤色の熱源反応があるはずだ。だが...。

「何も無い...!」

一面青や白の風景に苛立ち、乾いた目を擦る。次に目を開けると、ほんの僅かな朱色が青の中に在った。

「見つけたぁ!」

歓喜の叫びを上げて、40mm突撃銃をその地点へ撃つ。放たれた銃弾はそこに吸い込まれ、大きな爆発を起こしてその反応を絶った。

「よっしゃぁ!」

ボルク1がコクピットの中でガッツポーズをする。ようやく、にっくき妖怪野郎を打ち倒したのだ。

だが、その喜気が肉体ごと消えるのはそう長くなかった。

爆炎の向こうから飛来した徹甲弾がコクピットをぶち抜き、ボルク1の肉体を四散させる。一歩遅れて、先のものと同程度の爆発が起こった。

「あれは囮!?はっ!」

後方からの接近を知らせるアラートが、ソフィアの耳を打った。

「格闘戦をやろうって!?」

レーダーを見て、自機と敵機をそれぞれ示す光点から距離を図る。後方から急速に近づいてきている。それが接触しようという瞬間、振り向きざまに装備しているブレードを振り抜いた。機体のマニュピレーター越しに操縦桿に振動が伝わる。

そしてソフィアははっきりと見た。ナイフのような物でソフィアのブレードを受け止める妖怪の姿を。

「ブレイク...!」

黒く塗装されたブレイクの姿に、ソフィアは奇妙な安心感を覚えた。姿の見えない敵に次々と仲間が排除される様は、本当に物の怪の類に思えたのだ。

ブレイクなら倒せる...。ソフィアの士気は高まった。

「こんのぉッ!」

敵機に蹴りを入れ、後退させる。そのまま突撃銃で追撃をするが、横に避けられる。

(PRAのハウンドっぽいけど...!あんなに速かったっけ!)

PRA(環太平洋戦略的経済連携協定)と呼ばれる太平洋の陣営が運用していたブレイク、それがハウンドである。十年前までは主力機であったが、新型であるライトニングがロールアウトしてからは段々と姿を消し、多くの機体は廃棄を待っているだけだったが、民間に払い下げられたものも一部ある。生産数が多い分、余剰パーツなども多く整備性が良い。それ故に傭兵などが好んで運用している。妖怪もおそらくその類なのだろうと伺い知れた。

「旧型でぇ!新型のウラディーミルと格闘戦をしようって言うの!」

ソフィアは軍の中でも上位の実力を持つブレイクのパイロットであり、彼女も自身の腕を疑っていなかった。事実、格闘戦で彼女は段々と押し返しつつあった。

「ほう...?」

ハウンドに乗るパイロットが感心したように小さく息を吐く。そして僅かに口角を上げると、左肩部に装備された十連装ミサイル・ポッドを撃つ。咄嗟に回避したウラディーミルの軌道を読んで、その方向へ右腕に持つウラディーミルと同型の突撃銃、その銃身下部に取り付けられたグレネード・ランチャーを撃ち込んだ。弾頭が地面に衝突した事で発生した爆発でウラディーミルの機体が一瞬よろけるが、直ぐに体勢を立て直してブレードで斬りかかる。その剣撃をハウンドはひらりと躱すが、ソフィアにとってこの剣は本命ではなかった。

(こいつ、回避の直後にコンマレベルの停止がある。そこを狙う!)

ソフィアの読みは正しかった。彼女がブレードを振った直後に放った銃弾は、正確にハウンドの左肩部を直撃した。ミサイルへの誘爆を恐れたのか、ミサイル・ポッドごと肩部装甲をパージする。

機体のハザードアラームが鳴る中、ハウンドのパイロットは益々嬉しそうな顔を浮かべた。

「こいつなら...、あるいは」

何かを期待しているような上擦った声を上げながらモニターを操作する。すると左腕の前腕部に取り付けられていたユニットが回転し、手首を覆うように接続され、左腕だけが一回りほど長くなった。手首があった場所には代わりに砲口らしき穴がある。

「何!?何をしようっての!?」

一見すると訳の分からない状況に思わず驚きの声を上げる。しかし考える暇もなく、ナイフを構えて突っ込んでくるハウンドを迎撃しようとブレードを縦に振り下ろす。だがその剣先寸前の所でハウンドは停止した。そして左腕の砲口を構えると、そこから放たれた徹甲弾がウラディーミルの頭部を吹き飛ばした。

「うああっ!」

機体が転倒した衝撃でコンソールに頭を打ったソフィアは脳震盪を起こし、意識を失った。頭部を失い動かなくなったウラディーミルを、左腕から硝煙を漂わせるハウンドが見下ろす。

「こいつは使える。利用価値がある。死んでなければいいが」

パイロットはソフィア機以外の残骸を爆破させつつ、機体を片膝立ちにして降機し、自身の腰に備え付けている拳銃を抜いて慎重にソフィア機のコクピットを開ける。もし万が一意識を保っていたら黙らせるつもりだったが、失神しているソフィアを見て安堵の息を吐いた。

「さて、と。守備隊も無力化したし、後はあそこだな」

そう呟いたパイロットの視線の先には、ソフィア達の基地があった。


(うぅ...。頭いったい...)

内側から爪先でつつかれるような頭痛に寝起きの目を顰めながら、ソフィアが目を覚ます。そこは基地にあった自身の居室の天井でも野戦病院で見た空でもなく、薄汚れたコンクリートの、無色な天井だった。硬いベッドに寝かされていたのだろう、背中の辺りに鈍痛が響く。

「よう、お目覚めかな」

「っ!?うっ!」

横からかけられた見知らぬ男の声に、ソフィアは咄嗟に身体が逃げようとする。だが身体中に走った痛みに思わず声を漏らしてしまった。

「あまり激しく動くな。丸一日寝ていたんだ、身体中ズキズキだろう」

そうやって柔らかな声をかける男に不信感を抱いたソフィアは、掠れた声で尋ねる。

「あんた...、誰なの...」

聞かれた男はさらりと言い返す。

「お前と戦ったあのブレイクのパイロットだ」

何故。よりもやはり。という感情がソフィアの胸に溢れた。あの状況下で友軍に救出されたとも思えないし、付近に別の軍や部隊、傭兵もいなかった。となると、消去法で彼になる。

だが理論は分かったとて、当然納得は出来ない。

「なんで助けたの...?」

「...それを知りたいなら、お前に選択を与えなければならない」

先程までの柔らかな態度は消え、深刻そうなな表情と声で男が言う。男は人差し指をソフィアの目の前で立てると、

「一つは、祖国への忠誠や軍人としての誇りを以てここで死ぬか」

そして続けざまに中指を立てて、

「もう一つは故郷へ帰り、全くもって俺の事を忘れ去って静かに生きるか」

最後に薬指を立てて一呼吸置いてから、

「あるいは、俺と共に強大なるものに立ち向かうか」

と言い放った。ソフィアは生唾を飲み下し、男の目を見る。じっと固定され、梃子でもっても頑なに動くまいと思える、強い意志を持った目だった。

故郷へ帰るという選択肢も取れる。だが、彼女はそれを望まなかった。もう既に、彼女に故郷というものは...。

だが当然、死ぬのは御免だった。そうなれば、取れる選択肢はひとつだった。

「...最後ので」

そう答えると、男はにっと笑みを浮かべて立ち上がる。

「俺の名前は波音飛鳥だ。歓迎するぜ」


ソフィアが飛鳥と組んでから、二週間が経っていた。すっかり快復したソフィアは、今は連れ込まれていた地下施設で機体の整備を手伝っていた。

「スパナ取ってくれ。それと十二番のネジ」

「はいはい...。ん」

「おう、サンキュな」

工具箱に無造作に突っ込まれていたスパナを、整備のあれこれで汚れた飛鳥に渡し、ソフィアはふと機体を見た。

「すごい改造してるね...」

「そうだろ?何せ一機で何機も相手をしなきゃいけないんで、弄れる所は全部弄ってる」

ハウンド・シャドウカスタムと名付けられたその機体は、左前腕部に増設された徹甲弾を射出するための回転装備式砲撃ユニットを始めとして肩部の十連装ミサイルポッド、機体に背負わせた大型の105mm狙撃銃や多用途のUAVなど、原型機と比べてかなり重装化されている。また運動系の回路を見るに、反応速度や運動性能も強化されてるようだ。

「これ、私が来る前は一人でやってたの?」

「基本はな。まぁ、最近はオートで整備してくれる機械なんかもあるし、旧時代の戦闘機よりかは整備も楽だが」

「仲間は?」

「何人か居るが、一箇所には集まらん。NEC、PRA、それこそECOの中にだって潜伏している」

「ふーん...」

淡々とした会話はそこで止まり、ハウンドと中破したウラディーミルしか入らない程に狭い格納庫は金属と金属が接触し合う音と、オート整備車が走り回る音しかしなくなった。

三時間もすれば粗方の整備も終わり、食事が始まる。いつものあまり美味しくないエナジーバーとNEC軍のレーションであるポテトスープにコーヒー、そして手伝いの駄賃として飛鳥が物置から引っ張り出したPRA軍の鶏飯レーション。ソフィアにとってPRAのレーションを食べるのは初めてであるが、気に入った彼女はガツガツとかっこんでいた。

「美味いな。後少ししかないのを考えなきゃ毎日食べたい」

同じくかっこむ飛鳥が目を細めて、心底美味しそうな表情で呟いた。

「あぁ、だからあんな大切そうに物置に置いてあったんだ」

ソフィアは鶏飯を出した時の飛鳥の表情を思い出す。喜びと切なさが混じったような微妙な顔だったのを考えれば自然と笑いの息が出たが、それを訝しげに見る飛鳥の視線に気付いて慌てて平常心を取り戻した。

この二週間飛鳥と生活を共にして、ソフィアは徐々に彼への警戒心が解かれつつあった。当初は敵である飛鳥を当然警戒していたし、あまり交流も無かったとはいえ仲間を壊滅させた彼を冷酷な傭兵というようなふうに想像していたが、それよりも遥かに飛鳥は人間的というか、俗っぽいというか、割とどこにでもいそうな青年だったのだ。

(つっても組むったってあんなのまだ有耶無耶だし。いつでも逃げれるようにこいつの隙とか弱点を見つけなきゃ...)

そんなソフィアの葛藤を飛鳥は薄々察していた。

(こいつは俺と同等に渡り合う実力者だ、逃しはしない。俺の戦力にさせてもらう。その為なら、道化でも演じてやるさ。...まぁ、鶏飯が惜しいとはちょっと思ったが)

両者策謀渦巻く中、飛鳥の傍らにある通信端末が電子的な通知音を鳴らした。飛鳥は手にしていた缶とスプーンを静かに素早く置いて、

「少し出てくる」

とだけ言い残して、狭い食堂から出ていった。その一連の流れを見ていたソフィアは、

(妙に行儀が良いんだよねぇ...。傭兵なんて私が見てきた奴らはみーんな粗暴で汚らしいのに、あいつはなんというか、清潔感がある)

と訝しんだ。

(元軍人とか?でも、それならなんで傭兵なんかに。強大なるものっていうのがそんなに不味いのかな?)

考えていると、飛鳥が通信端末を左手に持って帰ってきた。その表情が曇っているのを見て、ソフィアは尋ねる。

「...なんかあったの?」

「何でも...。いや、お前には言っておこうかな」

意を決したような顔で、飛鳥はソフィアを見つめる。

「お前、あの基地に何があるか知ってたか?」

「え?」

素っ頓狂な声を上げるソフィアに、やはりか...、と飛鳥は心の中でため息をつく。

「あの基地にはな、半世紀前にロシアが秘密に作った核兵器貯蔵庫があった。俺はそれを確保する為に基地を襲撃した」

「...それで、基地は?」

「安心しろ、大半は無傷だ。歩兵火力は脅威でもないし、核兵器を無力化出来れば後は用もない」

それを聞いて、ソフィアは少しだけ安心した。それ程思い入れのある場所でも無かったが、それでも交流してきた人間が生きているのなら嬉しいものだった。

「で、核はどうしたの?」

「それがだな。結果的に言うと核は無かった。正確には基地は核輸送の中継地点で、俺が持っていた情報より一週間も早く輸送部隊は基地を発っていた」

そういえば、とソフィアは記憶を思い起こす。確かに少し前、基地が厳重警戒態勢を敷いていた。ソフィアとしては睡眠時間や食事の時間が短くなるので不愉快極まったが、成程核兵器を運び込んだとあれば、そうなるのも合点が行く。

「で、まぁ本題だ」

飛鳥は一度ソフィアと目を合わせると、

「ECOの一部は今、全世界への核攻撃を目論んでいる。それを阻止するのが俺達のやることだ」

「...はい?」

真剣な表情から発せられたあまりに荒唐無稽な内容に、ソフィアは開いた口が塞がらなくなった。

一瞬遅れて、小さく笑い始める。

「全世界への?核?攻撃?やるメリットは?世界を滅ぼそうって言うの?そいつら?」

段々と笑い声は大きくなっていくが、飛鳥がその硬い表情を崩さないのを見て、ソフィアは笑うのを止める。

「俺も最初聞いた時は耳を疑った...。だが、俺がこの計画を知ってから今日までの二年間で、それが核心へと変わった」

「その根拠は?」

「ECOの中にもこの計画に反対する奴らがいた。そいつらから秘密裏に流されている情報が根拠だ。お前の基地で中継されていた物も含めて、ウラジオストク、コーカサス山脈、ベイルート、海南島に核弾頭発射施設が極秘に建設されている。これらのいずれかを叩いて、そこから核兵器の製造元を見つけて潰す予定だった」

「でも、前掴んだ情報は間違ってたんでしょ?信頼出来るの?」

「前のは別の情報屋から買ったものだったからな。やはり急いては事を仕損じるか」

ため息をついた飛鳥だったが、直ぐに切り替える。

「そして俺が最も信頼している仲間から、新しい情報と依頼が届いた。雇い主はNEC北欧方面軍。3日後にムルマンスクの港湾基地に核兵器が集められるので、我らは当該基地を襲撃し、核兵器を無力化して、奴らの計画を遅滞させる」

「それ、私に言っていいの?」

「お前を信頼して言っているんだ。金も払おう」

「口止め料?」

「いや、契約料だ。仲間になってもらう以上、給料は出さんとな?」

飛鳥はそう言うと、電卓を操作する。そしてソフィアに0が六つはある画面を見せると、

「これがひと月分の給料だ。出撃の度にボーナスも出す。待遇は...、まぁ三食は保証する」

ひと月分にしては結構な額に、ソフィアは仰天した。ざっと計算して、ECOでパイロットをやっていた時の三倍の額である。

「ど、どこにそんなお金が」

「それは秘密だ。だが、一切の遅延も違いも無く払う事を誓おう」

元よりECOに忠義も大して感じていなかった上に、給料だけ見れば三倍の待遇である。ソフィアはころっと落ちた。

「でも、私の機体はボロボロだし戦えないよ?」

「そうだな。だから現地で改修する」

「え?」

「ウラディーミルはハウンドよりも整備性がいい。広大な戦線を抱えるECOならではというやつだが、四機分の残骸があれば一機組み立てられるくらいにはな。...さぁ、時間がないぞ。後二時間で輸送機が来る。出立準備を急げ」

何もかもいきなりかつ慌ただしい飛鳥に急かされて、ソフィアは大急ぎで荷物を纏める。服と携帯糧食、ついでに物置から飛鳥が大切に保管していた鶏飯缶含むPRAレーションを幾つかバッグに詰め込んだ。

「さて、行くぞソフィア。フライト時間だ」

VTOL型の中型輸送機が、荒原の砂を吹き荒らして着陸する。飛鳥のアジトがあるバグダッド郊外からNEC勢力圏のイスタンブール、ハンブルクを経由し、フィンランドのネイデンにあるNEC軍航空基地に向けて約三十時間のフライトだ。機内は暖房も着いていたが大して効いていない為、凍えに凍えたソフィアは飛鳥が持ち込んだ改良型カイロを分けてもらいながら冬の地中海、西欧、北極圏を跨ぎながら飛ぶことになったのだった。

あんまり寒そうに震えているので、見かねた飛鳥が自身の荷物からポリ袋に包まれたコートを取り出す。

「防寒具を持ってくるよう言っておくべきだったな。すまない」

「持ってないってそんなの...!買い物にだって行けなかったのに...!」

「俺のでよければ貸そう。新品だが、気になるか?」

「今ならなんだってありがたいよ...!」

差し出されたコートを半ば奪い取るような勢いで受け取り羽織る。新品らしく硬く冷たいが、それでも何も無いよりはマシだった。

結局、ネイデンに着くまでソフィアは輸送機の中で凍えていたのだった。

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