第8話 瓦礫の上の未来
判決から数日後。
冬の空気は冷たく澄み、街はいつも通りの喧騒を取り戻していた。
三崎悠斗は、瓦礫の残る自宅跡に立っていた。
補償金の支払いが決まり、再建の手続きも進んでいる。
だが、ここに立つと、胸の奥にまだ痛みが残っていた。
「……終わったんだよな」
呟いた声は、静かな空気に吸い込まれていく。
そこへ、足音が近づいた。
「三崎さん」
振り向くと、神谷隼人が立っていた。
制服ではなく、私服。
その表情は、どこか晴れやかだった。
「停職処分……大変でしたね」
神谷は苦笑した。
「まあ、覚悟してましたから。
でも、処分は“軽い方”でした。
世間の反応が大きかったみたいで……上も強くは出られなかったんです」
悠斗は目を見開いた。
「世間の……?」
神谷は頷いた。
「あなたの裁判がニュースになって、
“怪獣災害の補償はどうあるべきか”って議論が広がってます。
特災庁の内部でも、作戦の見直しが始まりました」
悠斗は胸が熱くなった。
「……本当に、変わるんですね」
神谷は静かに言った。
「変えなきゃいけないんです。
俺たちが守るのは“街”じゃなくて、“そこに生きる人”なんだって……
今回の件で、ようやく気づきました」
その言葉は、かつての神谷とは違う強さを持っていた。
悠斗は微笑んだ。
「あなたが証言してくれたから、ここまで来られました。
本当に……ありがとう」
神谷は首を振った。
「俺の方こそ、あなたに感謝してます。
あなたが声を上げなかったら、何も変わらなかった」
風が吹き、瓦礫の上の紙片が舞い上がった。
* * *
その頃、白石玲奈は国会議事堂の前にいた。
記者たちが集まり、フラッシュが光る。
「白石先生、今回の法改正案についてコメントを!」
「怪獣災害補償制度の見直しはどこまで進むのでしょうか!」
白石は落ち着いた声で答えた。
「市民の生活を守るための制度が“仮”のままではいけません。
怪獣災害の時代にふさわしい補償制度を作るため、
私たちはこれからも戦います」
その目は、次の戦いを見据えていた。
* * *
夕暮れ。
悠斗と神谷は、瓦礫の前で並んで立っていた。
遠くで、怪獣警報が鳴った。
神谷が言う。
「……また怪獣か。
でも、今度は違う戦い方ができるはずです」
悠斗は空を見上げた。
「俺も……もう泣き寝入りしません。
怪獣が出る時代でも、俺たちの生活は守られるべきだって……
声を上げ続けます」
神谷は微笑んだ。
「それが、本当の“市民の強さ”なんだと思います」
悠斗は瓦礫の中から、小さな破片を拾い上げた。
焦げた木片。
かつての家の一部。
それを胸に抱き、静かに言った。
「……ここから、また始めます」
神谷は頷いた。
「ええ。
俺たちの戦いは、まだ続きますから」
夕陽が沈み、街に夜が訪れる。
怪獣の時代。
国家の時代。
そして、市民の時代。
その狭間で、
三崎悠斗は確かに一歩を踏み出した。
――怪獣災害補償請求事件(仮)
ここに、ひとつの決着を迎える。
だが、物語は終わらない。
“仮”が外れるその日まで。




