第5話 怪獣はどこから来たのか
白石玲奈の事務所には、資料の山が積み上がっていた。
怪獣出現の記録、特災庁の作戦報告、政府の公開資料。
だが、どれも“表向き”の情報ばかりで、核心には届かない。
白石は深く息を吐いた。
「……やっぱり、何か隠してるわね」
そこへ、事務員が声をかけた。
「白石先生、環境省のデータベースから、怪獣出現前の観測記録が届きました」
白石は目を細めた。
「観測記録……? 見せて」
データを開いた瞬間、白石の表情が変わった。
「……これは、どういうこと?」
怪獣が出現した地点の地下深くで、
“異常なエネルギー反応”が数日前から観測されていた。
自然現象では説明できない、人工的な波形。
白石は呟いた。
「怪獣は……自然発生じゃなかった?」
* * *
一方その頃、特災庁本部。
神谷隼人は、資料室で古いファイルを探していた。
上官に禁止されていることは分かっている。
だが、あの日の戦闘が頭から離れなかった。
(本当に……俺たちは正しい判断をしたのか?)
棚の奥に、埃をかぶったファイルがあった。
――極秘:エネルギー安定化実験計画
神谷は息を呑んだ。
(……これ、まさか)
ページをめくると、見覚えのある地名があった。
怪獣が出現した地点。
さらに読み進めると、背筋が凍った。
“実験の副作用として、未知の生体反応が観測される可能性あり”
神谷はファイルを閉じ、額に手を当てた。
(……怪獣は、実験の副産物だったのか?)
その瞬間、背後から声がした。
「神谷。何をしている?」
振り向くと、大河内が立っていた。
神谷は言葉を失った。
大河内は冷たい目で言った。
「そのファイルは閲覧禁止だ。戻せ」
「……怪獣は、政府の実験で――」
「黙れ」
大河内の声は低く、鋭かった。
「いいか。あの実験は国家機密だ。
怪獣との因果関係は“存在しない”。
存在してはならない。
わかったな?」
神谷は拳を握りしめた。
(……存在してはならない?)
それはつまり――存在しているということだ。
大河内は続けた。
「証人尋問では、余計なことを言うな。
お前は“市街地の被害はなかった”とだけ証言すればいい」
神谷は返事をしなかった。
大河内は去り際に言った。
「正義を履き違えるなよ、神谷」
その言葉が、神谷の胸に深く刺さった。
(……正義って、何だ?)
* * *
白石の事務所。
白石は、環境省のデータと特災庁の作戦記録を並べていた。
「怪獣出現地点の地下で、エネルギー反応……
しかも、特災庁はその情報を“知らなかった”ことにしている……」
悠斗が不安そうに尋ねた。
「つまり……どういうことなんですか?」
白石は静かに答えた。
「怪獣は、政府の実験が原因で生まれた可能性がある。
そして、特災庁はそれを隠している」
悠斗は息を呑んだ。
「……そんなこと、あり得るんですか?」
白石は目を細めた。
「あり得るわ。
国家は、都合の悪い真実を隠すとき、
“怪獣災害は不可抗力”という言葉を使う」
悠斗は拳を握った。
「……ふざけるなよ。
俺の家が壊れたのは、怪獣のせいじゃなくて……
人間のせいだったかもしれないってことですか?」
白石は頷いた。
「だからこそ、戦う価値があるのよ」
その時、事務所の電話が鳴った。
白石が出ると、相手は低い声で言った。
『……特災庁の隊員です。話があります』
白石は目を見開いた。
「あなた、名前は?」
『……神谷です』
悠斗は息を呑んだ。
白石は静かに言った。
「わかりました。会いましょう。
あなたの話が、事件を動かす鍵になる」
電話が切れた。
白石は呟いた。
「……来たわね。綻びが」
悠斗は、胸の奥に熱いものが込み上げるのを感じた。
――怪獣災害補償請求事件(仮)は、
ついに“国家の闇”へ踏み込もうとしていた。




