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怪獣災害補償請求事件(仮)  作者: 双鶴


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第2話 国家賠償を求める男

 白石玲奈の事務所は、雑居ビルの三階にあった。

 派手さはないが、壁一面に法律書が並び、机の上には整理された書類が積まれている。

 その空気だけで、彼女が“戦う弁護士”であることが伝わってきた。


 「まず確認します。あなたの家は、特災庁の攻撃で壊れた。間違いありませんね?」


 白石は淡々とした口調で言った。


 「はい。怪獣の足跡は、家の手前で止まっていました。瓦礫の焦げ方も……爆発の跡でした」


 悠斗は、瓦礫の中で見た黒い焦げ跡を思い出した。

 怪獣の熱線ではない。明らかに、特災庁の兵器によるものだった。


 白石は頷き、書類にメモを取る。


 「特災庁は“市街地での戦闘はやむを得ない”と主張するでしょう。

  ですが、あなたの家が破壊されたことには、作戦上の過失があった可能性が高い」


 「過失……」


 「ええ。怪獣の進行方向、攻撃の角度、使用した兵器の種類。

  どれか一つでも判断を誤れば、市民の家を巻き込むことになる。

  そして、あなたの家は巻き込まれた」


 白石の声は冷静だが、その奥に怒りの熱があった。


 「国家賠償法では、“公務員の過失による損害”は賠償の対象になります。

  特災庁の作戦行動が適切だったかどうか――そこが争点です」


 悠斗は、胸の奥がざわつくのを感じた。


 「でも……相手は国家ですよね。勝てるんですか?」


 白石は、迷いなく言った。


 「勝ちます。勝てるかどうかではなく、勝つべき事件です」


 その言葉に、悠斗は息を呑んだ。


 「あなたの家は“許容範囲”なんかじゃない。

  あなたの人生は、誰かの判断ミスで踏み潰されていいものじゃない。

  それを証明するために、私がいます」


 白石の目は真っ直ぐだった。

 その視線に押されるように、悠斗は頷いた。


 「……お願いします。戦います」


 白石は微笑み、書類を差し出した。


 「では、委任契約を。ここからが本番です」


 ペンを握る手が震えた。

 だが、迷いはなかった。


 ――国家を訴える。


 その決意が、紙にサインした瞬間、現実になった。


 * * *


 その頃、特災庁本部。


 若手隊員・神谷隼人は、作戦報告書を提出しながら、上官の会話を耳にした。


 「三崎という男が、国家賠償を求めて訴えるらしい」

 「またか。怪獣災害は不可抗力だと何度言えば……」

 「まあ、どうせ却下だろう。前例がない」


 神谷は、胸の奥がざわついた。


 ――あの家、俺たちの攻撃が当たったんじゃないのか。


 戦闘中、確かに見えた。

 怪獣の背後に、住宅街があった。

 攻撃の角度を少し変えれば、巻き込まずに済んだかもしれない。


 だが、上官は言った。


 「市街地の被害は許容範囲だ。撃ち続けろ」


 神谷は拳を握りしめた。


 (本当に……あれでよかったのか?)


 その疑問は、戦闘が終わった今も消えていない。


 そして、訴訟の知らせは、彼の胸に新たな火種を落とした。


 * * *


 白石の事務所を出た帰り道、悠斗は空を見上げた。


 怪獣災害の時代。

 誰もが「仕方ない」と言う。

 誰もが「不可抗力」と言う。


 だが、自分の家は、人生は、そんな言葉で片づけられていいものではない。


 「……やってやる」


 小さく呟いた声は、夕暮れの街に溶けていった。


 こうして、

 ――怪獣災害補償請求事件(仮)は、正式に動き出した。


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