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怪獣災害補償請求事件(仮)  作者: 双鶴


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第1話 家が消えた日

 昼下がりの商店街に、突然、空気を裂くような警報が鳴り響いた。


 ――怪獣警報発令。市街地の住民は直ちに避難してください。


 そのアナウンスを聞いた瞬間、三崎悠斗は胸の奥が冷たくなるのを感じた。

 怪獣が出る時代になって久しい。だが、まさか自分の生活圏に現れるとは思っていなかった。


 空が揺れた。地面が震えた。遠くでビルのガラスが割れる音がした。

 悠斗は振り返り、家の方角を見た。


 黒煙が、ゆっくりと立ち上っていた。


 「……嘘だろ」


 足が勝手に動き、全力で走り出す。

 避難を促す警備員の声も、すれ違う人々の悲鳴も耳に入らない。


 角を曲がった瞬間、悠斗は立ち止まった。


 そこにあったはずの自分の家が――なかった。


 瓦礫。粉塵。折れた電柱。焦げた匂い。

 そして、巨大な影がゆっくりと動いていた。


 怪獣だ。皮膚は岩のように硬く、背中から蒸気のようなものを噴き上げている。

 その前方には、白と青の装甲車が並び、隊員たちが銃を構えていた。


 特別災害対策庁――通称「特災庁」。


 テレビでは“街を守る英雄”として扱われる組織だ。

 だが今、悠斗の目の前で、彼らは怪獣に向けて一斉に攻撃を開始した。


 轟音。閃光。爆風。


 悠斗は吹き飛ばされ、地面に転がった。

 耳鳴りの中で、隊員の怒号が聞こえる。


 「前衛、下がれ! 市街地の被害は許容範囲だ、撃ち続けろ!」


 許容範囲――?


 悠斗は、瓦礫の山を見つめた。

 そこには、昨日までの生活があった。

 朝食を食べたテーブルも、寝転んで見ていたテレビも、全部。


 全部、消えていた。


 怪獣が吠え、特災庁が応戦する。

 その戦いの中心に、自分の家があった。


 「……俺の家は、許容範囲なのかよ」


 呟いた声は、爆音にかき消された。


 戦闘が終わったのは、日が沈む頃だった。

 怪獣は倒され、ニュースでは「特災庁の迅速な対応により被害は最小限」と報じられた。


 悠斗は、瓦礫の前に立ち尽くしていた。

 救助隊員が声をかけてくる。


 「住民の方ですか? 怪我はありませんか?」

 「……家が、なくなりました」

 「怪獣災害は不可抗力です。補償については、役所の窓口で――」


 不可抗力。


 その言葉が、胸の奥に刺さったまま抜けない。


 翌日、悠斗は役所へ向かった。

 窓口の職員は、淡々と書類をめくりながら言った。


 「怪獣災害による損壊は、原則として補償対象外です」

 「……特災庁の攻撃で壊れたんです。怪獣じゃなくて」

 「作戦行動中の被害は“免責”となります。ご了承ください」


 免責。


 つまり、誰も責任を取らないということだ。


 悠斗は、窓口を離れた。

 怒りでも悲しみでもない、もっと重たい感情が胸に沈んでいた。


 ――このまま泣き寝入りしろというのか。


 役所を出た瞬間、声をかけられた。


 「あなた、家を失った方ですよね?」


 振り向くと、一人の女性が立っていた。

 黒いスーツに、鋭い目。弁護士バッジが光っている。


 「白石玲奈といいます。あなたの件……国家賠償を求める価値があります」


 「国家を……訴える?」


 白石は頷いた。


 「怪獣災害の時代だからこそ、前例を作るべきです。

  あなたの家は“許容範囲”なんかじゃない。

  戦い方に問題があった可能性が高い」


 悠斗は、瓦礫の光景を思い出した。


 許容範囲。

 不可抗力。

 免責。


 その言葉が、胸の奥で燃え上がる。


 「……わかりました。やりましょう」


 白石は微笑んだ。


 「では、始めましょう。怪獣災害補償請求事件(仮)を」


 その瞬間、悠斗の人生は、静かに、しかし確実に動き始めた。


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