「君の兄達が怖すぎて婚約破棄したい」と泣く王太子を、兄様たちが全力で魔改造した結果~半年後、地獄の特訓を終えた殿下が、世界最強のスパダリ(狂)になってハッピーエンド(?)~
※この作品には、敵役に対する身体欠損を含む流血表現があります。苦手な方はご注意ください。
「ナタリア……もう、無理なんだ……ッ! 頼むから、僕と婚約破棄してくれぇぇぇ!!」
王宮の大広間。
数百本の蝋燭が灯る巨大なシャンデリアの下、レナード王太子殿下の絶叫が響き渡った。
優雅にワルツを奏でていた楽団の手が止まる。
談笑していた貴族たちが、グラスを持ったまま彫像のように凍りつく。
私は、扇で口元を隠すのも忘れ、目の前で崩れ落ちている婚約者――レナード殿下を見下ろしていた。
「で、殿下……? 落ち着いてくださいまし。顔色が死人のようですわよ?」
私の前世の記憶にある乙女ゲーム『救国の聖なる乙女』。
そのメインヒーローであるはずの殿下が、今は生まれたての小鹿のように、ガクガクと情けなく震えている。
美しい金髪は脂汗で張り付き、端正な顔は恐怖で歪み、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
断罪イベント? 浮気の発覚?
違う。
殿下の瞳にあるのは、そんな色恋沙汰の感情じゃない。
あれは、捕食者を前にして、自分の内臓が食い荒らされる幻覚を見てしまった草食動物の――根源的な「死の恐怖」だ。
「君のことは好きだ! 大好きだ! 天使だと思ってる! 君の描く下手くそな絵も、焦げたクッキーも、全部愛してるんだ!」
「絵が下手くそなのは余計ですわ!」
「でも……君のバックにいる『あれ』が無理なんだ! 僕の胃壁がもう限界なんだよぉぉぉ!」
殿下は私のドレスの裾を握りしめ、子供のように泣きじゃくった。
会場がざわめく。
「あれ」という単語が出た瞬間、周囲の貴族たちが一斉に「あー……」と納得し、憐れみと同情、そして少しの恐怖を含んだ視線を殿下に向けた。
トリドール公爵家の双璧。
長男アーサー・トリドール。
次男ユリアス・トリドール。
私の自慢の、少々過保護な兄様たちだ。
「目が合うだけで胃が裏返るんだよ! 先週のお茶会だって、僕が君にクッキーを渡そうとした瞬間、アーサー殿が眼鏡を光らせて『殿下、そのクッキーの角度はナタリアの口に対して鋭角すぎます。口蓋を傷つけるつもりですか?』って!」
「そ、それはお兄様流のジョークでは……?」
「ジョークなものか! あの目は本気で『殺すぞ』って言ってた! ユリアス殿に至っては『手が滑った』と言って、僕の足元にサンダーボルトを落としたんだぞ!? 焦げたんだよ! 僕の靴が!」
殿下は靴の爪先を指差した。
確かに、最高級の革靴の先が、炭のように黒ずんでいる。
「夜も眠れないんだ……。窓の外を見れば、フクロウの使い魔がこっちを見ているし……食事をしようとすれば、毒見役が倒れるし……」
殿下の告白に、会場の令嬢たちがハンカチで目頭を押さえる。
あまりにも不憫すぎる。
「もう限界だ。……ナタリア、君にはもっと、こう……生命力の高いトロールとか、物理攻撃無効のゴーストとか、そういう人外のほうが似合うと思う」
「婚約者をモンスターとくっつけようとしないでくださいませ!」
私は叫んだ。
殿下は本気だ。
このままでは、私の幸せな結婚生活が、兄様たちの過保護(物理・魔法)によって破綻してしまう。
「嫌です! 私は殿下がいいのです!」
私は殿下の肩を両手で掴み、力強く揺さぶった。
「お兄様たちは、少しばかり……愛情表現が重戦車なだけです! 慣れれば轢かれても痛くありませんわ! 私なんて、毎日轢かれていますけれど元気でしょう!?」
「君はトリドール家の血を引く『剛の者』だからだよ! 僕はただの王族なんだ! 轢かれたら死ぬんだよぉぉぉ!」
殿下の叫びはもっともだった。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
私は殿下を愛しているし、お兄様たちのことも愛している。
家族円満な解決策が必ずあるはずだ。
私が口を開きかけた、その時だった。
「――おやおや。聞き捨てなりませんね」
室温が、一気に氷点下まで下がった気がした。
大広間の重厚な扉が、ギイィィ……と音もなく開く。
扉を守っていたはずの屈強な衛兵たちが、白目を剥いて壁にもたれかかっていた。
気絶している。
外傷はない。ただ、圧倒的な「何か」に当てられて、意識を刈り取られたのだ。
その間を縫って、二つの影が滑るように入ってきた。
「重戦車とは心外な。我々はいつだって、繊細なガラス細工を扱うように、壊れ物を運ぶように、殿下に接してきたつもりですが?」
漆黒の燕尾服。
燃えるような赤髪をオールバックにした、長男アーサー。
銀縁眼鏡の奥の瞳は、笑っているのに、爬虫類のように冷たい。
その手には、なぜか分厚い医学書のようなものが握られている。
「そうですよ、殿下。サンダーボルトだって、出力は最小限(致死量の一歩手前)に抑えてあげたではありませんか。おかげで反射神経が鍛えられたでしょう?」
純白の礼服。
銀髪の美青年、次男ユリアス。
その背後には、幻覚だろうか、黒い触手のようなオーラが揺らめいて見える。
彼が微笑むたびに、近くの花瓶の花が枯れていくような気がするのは、私の気のせいだろうか。
「ひっ、いぃぃ……!?」
レナード殿下が、私の背中に隠れた。
王太子の威厳などカケラもない。
ガタガタと震えるその手は、私のドレス越しでもわかるほど冷たくなっている。
「ア、アーサーお兄様、ユリアスお兄様……。どうしてここに……」
「可愛い妹が公衆の面前でフラれていると、使い魔から報告がありましてね」
アーサーお兄様が、にっこりと笑う。
「居ても立ってもいられず、執務室から空間転移してきました」
「く、空間転移……!?」
会場の魔導師たちが悲鳴を上げる。
空間転移は国家機密レベルの禁呪だ。
座標計算だけで数十人の魔導師が必要なそれを、この人たちは「ちょっとコンビニへ」くらいの感覚で使ってくる。
「殿下。理由をお聞かせ願えますか?」
ユリアスお兄様が、音もなく殿下の目の前に瞬間移動した。
「な、ナタリアの隣に立つ自信がなくて……君たちが、怖くて……」
「自信がない?」
アーサーお兄様が、殿下の顎を指先で持ち上げた。
品定めするような、冷酷な目つき。
家畜市場で、肉質の良し悪しを確認する業者のようだ。
「……ふむ。確かに、今のままでは羽虫以下ですね。ナタリアの隣に立てば、その輝きに焼かれて灰になるでしょう」
「は、羽虫……」
「ですが、ナタリアは貴方がいいと言っている。……ならば、選択肢は一つです」
アーサーお兄様は、懐から分厚い羊皮紙の束を取り出した。
ドサッ、と重い音がする。
「改造しましょう」
「は?」
「安心してください。陛下からはすでに『身柄引き渡し』の同意書を頂いております。『骨の一本や二本なら構わん。男にしてくれ。再起不能になったら弟を王太子にするから気にするな』と」
「父上ぇぇぇぇ!?」
殿下が絶望の叫びを上げる。
実の親に売られたのだ。
ユリアスお兄様が、殿下の両脇をガシッと掴んだ。
細腕に見えて、その拘束力はミスリル合金の拘束具並みだ。殿下がどれだけ暴れても、びくともしない。
「期間は半年。建国記念祝賀会までです。それまでに殿下を、ナタリアの靴を舐めるのに相応しい……失礼、ナタリアの隣に立つのに相応しい『最強の王太子』に作り変えて差し上げます」
「い、嫌だ! 助けてくれナタリア! 殺される! 目が! 彼らの目が解剖学者の目をしてるんだ!」
殿下が私に手を伸ばす。
その目は必死だった。
けれど、私は思ったのだ。
このまま殿下が「弱いまま」でいたら、いずれお兄様たちに本当に潰されてしまうかもしれない。
ならば、いっそお兄様たちの手で強くなってもらった方が、生存率は上がるのではないか?
私は――その手を握り返し、満面の笑みで言った。
「行ってらっしゃいませ、殿下! 期待しておりますわ!」
「ナタリアァァァァァッ!?」
殿下の顔が絶望に染まる。
「裏切り者ぉぉぉぉ!」
「愛の鞭ですわ! 強くなって、私を迎えに来てくださいませ!」
「では参りましょう。別邸の地下に、素敵な『教育施設』を用意してありますので」
「まずは精神の再構築(洗脳)からですね。ナタリアの幼少期の秘蔵映像を、サブリミナルで脳髄に焼き付けましょう」
「やめろぉぉぉぉ! プライバシーの侵害だぁぁぁ……!」
ズルズルと引きずられていく殿下。
大広間の高価な絨毯に、殿下の爪痕が虚しく残った。
◇◆◇
それからの半年間は、王都中の人々にとって「謎の期間」となった。
レナード殿下の姿を見た者は、一人もいない。
「精神を病んで廃人になった」「トリドール公爵家の地下牢で白骨化した」「実験動物としてキメラの素材にされた」など、ろくでもない噂がまことしやかに囁かれていた。
私はといえば、お兄様たちから届く定期報告書を楽しみに待っていた。
『一ヶ月目:逃走を試みたため、足の腱を一時的に切断しました。すぐに治癒魔法で繋げたので問題ありません。走り回る元気があるのは良いことです』
……え?
『二ヶ月目:魔力枯渇の感覚を覚えさせるため、限界まで魔力を搾り取ってから回復させるサイクルを一日五十回行いました。泡を吹いて気絶しましたが、水魔法で起こしました』
……ええ?
『三ヶ月目:毒耐性をつけるため、朝食にマンドラゴラの根、昼食にヒドラの毒、夕食に私の手料理(失敗作)を与えました。顔色が紫色ですが、生きています』
……お兄様?
『四ヶ月目:ブラッドウルフの群れの中に全裸で放り込みました。「王族のプライドを捨てろ」という課題です。三日後、ボス狼を枕にして寝ている殿下を発見しました。順応性が高くて何よりです』
……野生化してませんこと?
『五ヶ月目:ユリアスと模擬戦を行いました。殿下が「殺してやる」と叫びながら放った闇魔法が、屋敷の半壊を招きました。請求書は王家に回しておきます』
……闇魔法なんて使えましたっけ?
報告書を読むたびに、私の背筋は寒くなった。
けれど、文字の端々から、お兄様たちが楽しんでいる様子が伝わってくる。
殿下は、どうなってしまったのだろう。
不安と、ほんの少しの期待(?)を抱きながら、私は運命の日を待った。
◇◆◇
そして、建国記念祝賀会。
王宮の大広間は、半年前と同じように、着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。
だが、空気は異様な緊張感に包まれていた。
誰もが、扉の向こうに何が現れるのか、固唾を呑んで見守っている。
私は扇を持つ手が汗ばむのを感じながら、深呼吸をした。
お兄様たちからの最後の手紙には、『素材の味を最大限に引き出しつつ、少々スパイスを効かせすぎたかもしれません。返品不可です』と書かれていた。
返品不可。
その言葉の重みに、胃が痛くなる。
「――レナード・ヴァイセ王太子殿下、ご入場!」
衛兵の声が裏返った。
重厚な扉が、ギイィ……と開く。
広間の空気が、一瞬で凪いだ。
そこに立っていたのは、かつての「小鹿」ではなかった。
「……誰だ?」
誰かが呆然と呟く。
漆黒の礼服を纏った青年。
身長が伸びたのだろうか? いや、姿勢だ。
背筋は剣のように鋭く伸び、歩くたびに、圧倒的な「圧」が波紋のように広がる。
鍛え抜かれた肉体は、服の上からでもわかるほど逞しく、無駄な脂肪が削ぎ落とされている。
美しい金髪は、以前よりも少し色が濃くなり、オールバックにかき上げられていた。
けれど、何より変わったのは「目」だった。
かつての、おどおどと周囲を伺う碧眼はもうない。
光がない。
いや、光はあるのだが、それは人間のものではない。
深海の底のような、あるいは獲物を狙う猛獣のような――私の兄様たちと同じ、「こちら側」の狂気を宿した瞳。
殿下は私を見つけると、唇の端を吊り上げた。
ニィ、と。
優雅で、それでいて背筋がゾクリとするような、色気と危険が混在した笑み。
貴族たちがモーゼの海割れのように道を開ける。
殿下は一直線に私のもとへ歩いてきた。
「ナタリア」
私の前に立つ。
その声は低く、甘く、鼓膜を溶かすようなハスキーボイスに変貌していた。
「待たせたね。……いい子で待っていたかい?」
「え、あ、はい……」
私は気圧されて頷くしかない。
殿下は私の手を取ると、指先ではなく、手首の内側――脈打つ血管の上に、熱い口づけを落とした。
ねっとりとした唇の感触。
舌先が、チロリと肌を這った気がした。
「っ!?」
「ああ……君の匂いだ。生きた君の匂いだ」
殿下が恍惚とした表情で、私の手首に顔を埋めて深呼吸する。
「半年間、この匂いを夢に見ない日はなかった。地下牢の湿ったカビの臭いの中で、君の残り香だけが僕の理性を繋ぎ止めていたんだ……」
目が、イッている。
待って。
お兄様たち、地下で何を教えたの? これ、教育じゃなくて調教の結果では?
その時、下卑た笑い声が、ねっとりとした空気をぶち壊した。
「ギャハハ! 出てきたかと思えば、随分と気取った登場じゃねぇか!」
人垣を割って現れたのは、隣国帝国の外交官、ボルグ将軍だった。
脂ぎった肌、突き出た腹。
軍服のボタンが弾け飛びそうだ。
彼は以前から我が国を狙っていて、私のことも「いい尻だ」と公言して憚らない、生理的嫌悪感の塊のような男。
将軍は手に持ったローストチキンの骨をクチャクチャと咀嚼しながら、油のついた指で私を指差した。
「おい若造。その女は俺が貰ってやるよ。帝国に来れば、毎晩可愛がってやるからな。……泣き叫ぶ顔が目に浮かぶぜ、グヘヘ」
唾液の飛沫が飛ぶ。
鼻を突く、獣臭さと古い油の臭い。
私は吐き気を堪えて殿下を見た。
以前の殿下なら、顔を青くして震えていたはずだ。
お兄様たちが助けに来るのを待っていたはずだ。
だが。
殿下は、瞬き一つしなかった。
ただ、道端の汚物を見るような目で将軍を見下ろし――あくびをした。
「……臭いな」
「あぁ!?」
「ドブネズミが迷い込んだかと思ったよ。……ナタリアの鼻が汚れる。消えてくれないか?」
会場が凍りつく。
ボルグ将軍の顔が紫色になった。
「き、貴様ぁ……! 俺を誰だと思ってる! 帝国の『粉砕王』ボルグ様だぞ!」
将軍が腰の大剣を抜き放つ。
常人なら腰を抜かすほどの殺気。
しかし、殿下はクスリと笑った。
「殺気? ……それが?」
殿下は一歩、前に出る。
無防備に。
「義兄上の『お説教』の時の殺気は、そんな生温いものじゃなかったよ。肌が粟立つどころか、細胞が壊死するレベルだった。……それに比べれば、君の殺気なんて、そよ風だね」
「な、何を訳のわからんことを……!」
「死ね!」
将軍が大剣を振り下ろす。
――瞬間。
誰も見えなかった。
殿下が動いたことさえ、わからなかった。
ドサッ。
何かが落ちる音。
重い肉塊が床に落ちる音。
それは、大剣を握ったままの、将軍の両腕だった。
「え……?」
将軍が、自分の肩から先がないことに気づき、遅れて絶叫を上げた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
鮮血が噴水のように吹き上がる。
殿下の手には、いつの間にか細身のレイピアが握られていた。
その刀身には、血の一滴もついていない。
あまりの速さに、血がつく暇もなかったのだ。
「うるさいな」
殿下は冷淡に呟くと、のたうち回る将軍の頭を革靴で踏みつけた。
グリ、と容赦なく体重をかける。
頭蓋骨がミシミシと悲鳴を上げる音が、静寂の広間に響く。
「ナタリアを『可愛がる』と言ったな? ……その汚い口で」
「ひ、ひぃぃっ! た、助けて……!」
「義兄上に教わったんだ。『害虫には最大の苦痛を与えてから処理しろ』とね」
殿下の左手に、どす黒い炎が灯る。
それは王家の聖なる炎ではない。
もっと禍々しい、呪いに近い獄炎。
「再生阻害の呪い付きだ。……死ぬまで焼かれろ」
殿下が炎を放つ。
将軍の体が黒い炎に包まれた。
「ぎゃぁぁぁ! あつ、熱いぃぃぃ! 消してくれぇぇぇ!」
肉の焼ける嫌な臭いが広間に充満する。
貴族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、殿下だけが、炎に焼かれる将軍をうっとりと眺めていた。
その横顔は、あまりにも美しく――そして決定的に壊れていた。
「……綺麗だね、ナタリア」
「えっ」
「君を侮辱するゴミが燃える色は、こんなにも美しい」
殿下が振り返る。
その瞳は、狂気的な愛でドロドロに濁っていた。
愛おしそうに、私の頬に血の付いていない方の手を添える。
「これからは、僕が君を守るよ。……君に近づく男は、全員こうしてあげる」
「で、殿下……?」
「ああ、そうだ。義兄上たちも、そろそろ『邪魔』だよね?」
殿下が、会場の隅をチラリと見た。
「あの二人がいると、君と二人きりになれないから……今度、お茶に特製の毒でも盛ろうか。地下で彼らが僕に飲ませたのと同じやつを」
さらりと恐ろしいことを言った。
私は会場の隅を見た。
アーサーお兄様とユリアスお兄様が、青ざめた顔で震えている。
いつもの余裕綽々な笑顔はどこへやら。
『やりすぎた……』
『あれは、僕たちの手には負えない怪物が生まれたかもしれない……』
兄様たちの唇が、そう動いたのが読めた。
殿下が私を強く抱き寄せる。
血と硝煙、そして焦げた肉の匂い。
けれど、その腕は優しく、そして絶対に逃がさないという鉄の意思――いや、ダイヤモンドよりも硬い執着が込められていた。
「愛しているよ、ナタリア。……死んでも、殺しても、離さないからね」
耳元で囁かれる愛の言葉は、まるで呪詛のように重く、甘い。
私は覚悟を決めた。
かつての気弱で優しい殿下はもういない。
ここにいるのは、兄様たちが作り上げ、私のためにタガが外れた「最強のヤンデレ王太子」だ。
責任は、取らなければならないだろう。
(9割9分、兄様たちが悪い気もするけれど)
「……はい、殿下」
私は引きつった笑顔で、彼の胸に顔を埋めた。
こうして、私たちはハッピーエンドを迎えた。
国にとっては最強の王の誕生。
帝国にとっては悪夢の始まり。
そして私にとっては――逃げ場のない、永遠の監禁生活の幕開けを意味していたけれど。
まあ、兄様たちがあそこまで怯えているのだから、ある意味「ざまぁ」は大成功なのかもしれない。
私の腰に回された殿下の手が、じわりと熱を帯び、もう二度と離れないと言わんばかりに食い込んだ。
いつもの私の作風とは少し違うかと思います……。
ええ、分かってます……。
いつもと違う自分を出したくなる……そういう時、ありますよね……。
最後までご覧いただいて、ありがとうございました!




