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短編版 ツンデレ陰キャ美少女が重すぎる!


新潟市立万代高校一年三組

その教室の一番後ろの窓側の席。

そこで、一人本を読む少女。


目元まで伸びた髪は、その顔を隠してはいるが髪の隙間から覗かせるその瞳は、形容しがたいが、とても美しいものだった。

それに、瞳だけじゃない。美しいのはそれだけじゃない。

イラストのように、綺麗な肌に、絹糸のような綺麗な髪と、そのスタイル。

彼女の身長は160前後。クラスの中では小柄な方だが、クラスで一番の胸の大きさを誇る。


男からしてみれば、このクラスで最も「百点に近い美少女」の一人だろう。

しかし、彼女は絶対に百点にはなれない。そう、絶対に。


彼女の名前は柚木結奈(ゆずき ゆいな)

。彼女が吐き出す言葉は、硫酸や硝酸よりも恐ろしい毒を孕んでいる。


かつて、一人の青年が言った。

「君、可愛いね」と。

彼女のその発言への答えは、「可愛かったら何?私はあなたの性を満たす生き物じゃない」って言ったんだ。


想像がつくか?その男は確かに下心があったかもしれない。でも、たった一言でそこまで鋭く刺されるんだぞ?


その瞬間、彼女は男たちから忌み嫌われる「魔女」と恐れられた。


……俺、伊藤颯太(いとう そうた)を除いて。



「おはよ、結奈」


「おはよ……」


朝、彼女の隣の席に、鞄を置き、挨拶を交わす。

でも、決して挨拶以上の言葉を交わすことは無い。


今、彼女は俺たちで言う、「瞑想」の時間なのだ。

彼女の手にはとある本。何度も読み直しているのだろう。本の隅は、ボロボロ。本のページは、何もしなくても勝手に扇状に広がる。


それほどまで、彼女にとって大切なもの。それを邪魔することは絶対に許されない。


読書が終われば、やっと俺とも話してくれる。でも、彼女の言葉には毒がある。それは誰にでも同じく。たとえ先生であっても毒を吐く。


まるで毒を吐くという行為が防衛本能であるように。


「今日提出の課題もうやった?」


「提出期限に間に合うようにやるのは当然だけど?」


「まぁ、普通はそうなんだろうけどさ、実は俺終わってないんだよな」


アハハと笑う。でも、空気は冷めたまま、カラッカラに乾いている。


「……で、課題を見せて欲しいって言うの?」


「はい。終わりそうにないので見せてください!」


「本当に、君っていう人間は愚かだよ」


「……だめ?」


「いつ、私がダメと言ったの?」


そう言って、彼女はノートを俺に差し出す。そのノートには丁寧に移された課題がびっしりと……。


彼女は、冷たい人間と思われているが、実際は違う。ゆっくり、ゆっくり、確実に彼女のツボを押せば誰でも仲良くなれる。それは、彼女と同じクラスになってからのこの半年で分かったことだ。


俺もまだ、完全に信用されている訳では無いが、少なくとも友達ぐらいには思ってくれているだろう。


「すぐ、返すわ」


ん。と彼女は返す。

彼女は暇そうに、スマホを眺める。

そのスマホの画面に移されているのは、人気アニメの『ダレガタメニ』、そのヒロインの中村香織のイラストだ。


彼女がさっき読んでいた本。それは、『ダレガタメニ』。2024年10月からWeb小説として投稿され、みるみる人気を獲得し、第一話の投稿からわずか半年と少しで、書籍化、そして、アニメ映画化まで果たした超人気作。


一応、俺も読んでいるが、彼女ほど作品に惹かれている人間はおそらくこの世界にはいない。


さっき話した、彼女のツボ。そのひとつがこの作品だった。

たまたま、教室でこの小説を読んでるのを見て、そこから俺は彼女と親しくなったのだ。


「結奈、週末暇?」


「暇だったら何?」


「『ダレガタメニ』のコラボカフェのチケットがここに2枚ありま……」


「私、土曜日しか空いてない。何時集合なの」


彼女の目は、「魔女」なんかじゃない。「魔王」の目だ。決して、獲物を逃がさない、最強の目。


その狙いは、俺の手に掴まれたチケットだった。


「じゃあ、土曜日の午後1時に駅前集合てどう?」


「仕方ないね、君がついてくるのを許可してあげる」


「元々、俺がゲットしたチケットなんですけど……」


そうして、彼女とのデートが決まった。



伊藤颯太は、冴えない男である。身長体重は日本人男性の平均値と全く同じ。

成績は1〜5の中で全て3か4。顔もイケメンと言うには物足りないし、ブスと呼ばれるほど終わっている訳でもない。


何も特徴のない、影のような存在。それが伊藤颯太という男なのだ。

しかし、彼には誰にも知られてはならない秘密があった。



休日ということもあり、新潟駅は多くの人で溢れかえっている。


その中で、一人。見慣れた少女がこちらに向かって歩いている。

彼女はまだ、俺のことに気づいていないようだ。


彼女の耳から垂れる有線イヤホンの白い線がそれを示す。


俺は、彼女の元へ歩き出す。彼女の前に立つと彼女は顔を上げる。そこで俺の存在にやっと気づいたのだろう。


俺のことを見上げる、その顔を俺はただ息を飲み眺めていた。


「早く行くよ」


そう言うと、コラボカフェの会場にスタスタと歩き出した。

彼女が纏う、ホットパンツと、ニーハイ、そして黒いシャツ。

作中で香織が身にまとっていた衣装と同じようなものだが、結奈が着ると雰囲気が全然違う。


香織はかっこいいというイメージだったが、彼女の場合、ただ、エロい。

ニーハイからはみ出る太ももの肉が特に……。


「なぁ、俺さ。お前のこと好きなんだけど」


……やらかした。余計なこと口走った。ここから入れる保険があるなら入りたい。本当にどうしよう。


「……そう」


終わった。そう思ったが結奈の答えはそう呆気ないものだった。いつもなら、「キモイ」とか「は?」とか言ってもおかしくないのに……。


もしかして、ここで俺の機嫌損ねたら、コラボカフェ行けないかもとか思って何も言わないようにしてるだけ?

どっちにしても、俺は心臓が破裂しそうな勢いでバクバクと音を立て、動いている。


一目惚れの初恋だった。入試の時に、緊張で動けなくなっていた俺に邪魔って言ってきた時のあの目。あれを見た時からもう、結奈のことが頭から離れなかった。


そして、入学してからのこの半年。俺は自分の気持ちを隠し、彼女に近づいた。でも、我慢できなかった。

沸騰したお湯が吹きこぼれるみたいに、あっさりと、俺の気持ちが溢れた。



……カフェでの出来事は覚えていない。気がついたら、夕方で、万代シティを二人で歩いていた。


「……さっき、話してた、私のことが好きって、ほんと?」


突然のことにまた、心臓が跳ねる。


「……本当だよ。俺は結奈のことが好き」


「そう、なら、付き合ってあげてもいいよ」


以外な言葉に、俺は呼吸すら忘れ、ただそこに立ち尽くす。

彼女が俺のものになる。それがどれだけ嬉しいものか、想像もつかない。自分のことなのにだ。


全くもって信じられない。それほどの衝撃だった。


「でも、約束して。私以外の女の連絡先は消して」


「わかった」


俺はスマホを取り出して、クラスメイト、友達、妹、姉……。全ての女の連絡先を消した。

もちろん、友達には軽く説明のメールを送ったが。


「それと、隠し事はなし。どんな事でも全部教えて欲しい」


……世間的には結奈は重い人間なのだろう。でも、それでもいい。いや、それがいい。それだけ彼女も俺のことを愛してくれるということなのだから。


彼女が、愛してくれるなら。俺はそれ以上の愛で返す。


俺は、それほど結奈のことが好きだから。



伊藤颯太は、冴えない男である。身長体重は日本人男性の平均値と全く同じ。

成績は1〜5の中で全て3か4。顔もイケメンと言うには物足りないし、ブスと呼ばれるほど終わっている訳でもない。

何も特徴のない、影のような存在。

しかし、彼には誰にも言えない秘密があった。


彼の夢は、「愛した人間の手で死にたい」そんな夢を持っていた。

その為なら、なんだってする。そんな狂気を持った人間だったのだ。

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