ラウンド3・前半:国を動かす知謀〜政治・外交・人心〜
(スタジオ。ラウンド2での奇策を巡る議論を経て、あすかは話題をさらに広げる)
あすか:「奇策と正攻法、そして速さと決断力…戦場で勝利を掴むための様々な要素が見えてきました。しかし、皆様。(対談者たちを見渡し)戦場でどれほど見事な勝利を収めても、それだけでは国全体を勝利に導くことはできないのではないでしょうか?」
(あすか、クロノスを操作。壁面に古代ローマの版図が広がる様子と、凱旋式のレリーフなどが映し出される)
あすか:「戦場の外にある『もう一つの戦場』…すなわち、政治、外交、そして人々の心を掴むための知謀。このラウンドでは、そんな『国を動かす策略』について、皆様のお話を伺いたいと思います。…まずは、やはりこの方にお聞きしないわけにはいきませんね。カエサル殿!」
(カエサル、待ってましたとばかりに笑みを浮かべる)
あすか:「あなたはガリア戦争で空前の勝利を収め、その武勲を背景に、最終的にはローマの最高権力者にまで上り詰められました。その過程において、軍事的な勝利を、いかにして政治的な力へと転換させていったのでしょうか?そこには、どのような『策略』があったのですか?」
カエサル:「(自信に満ちた声で)良い質問だ、あすか君。実に良い質問だ。多くの将軍は、戦場で勝つことしか考えていない。だが、それは半分しか見ていないということだ。戦場で勝つことは重要だ。だが、それ以上に重要なのは、その勝利を『どう使うか』だ」
あすか:「勝利をどう使うか…?」
カエサル:「そうだ。私がガリアで戦っている間、ローマの元老院や民衆に、私の功績をどう伝え、私の名声をどう高めるか。常にそれを考えていた。勝利の報告は、単なる事実の伝達ではない。それは、私の力を示すための『プロパガンダ』だ。そして、この『ガリア戦記』…(自身の胸を軽く叩く)これもまた、私の視点から戦いを語り、ローマ市民の心を掴むための武器だったわけだ」
(クロノスが『ガリア戦記』の書物イメージを表示する)
カエサル:「凱旋式もそうだ。あれは単なるパレードではない。ローマ市民に、私がもたらした富と栄光を具体的に見せつけ、彼らを熱狂させるための壮大な『演出』だよ。兵士たちには十分な報奨を与え、市民にはパンとサーカス(娯楽)を提供する。そうやって、軍と民衆の双方から絶大な支持を得て、元老院の妬みや反対を封じ込めていったのだ。軍事と政治は、決して切り離せない。常に表裏一体なのだよ」
あすか:「はぁー…!戦場の勝利を、報告や書物、そして演出によって、見事に政治的な力に変えていったのですね…!まさに、国を動かす策略…!…諸葛亮殿は、カエサル殿のようなやり方を、どのようにお考えになりますか?」
諸葛亮:「(静かに頷き)カエサル殿の御手腕、敵対する者から見れば恐るべきものですが、国家を指導する者として、学ぶべき点は多いかと存じます。特に、民衆の心を掴むことの重要性については、亮も同感にございます」
諸葛亮:「しかし、亮が考える『国を動かす知謀』は、少々趣が異なります。(カエサルに向き直り)カエサル殿が、いわば『外』に向けて力を示し、人心を得ようとされたのに対し、亮はまず、『内』を固めることを重視いたしました」
あすか:「『内』を固める、ですか?」
諸葛亮:「はい。蜀という国は、元々、他の二国(魏・呉)に比べ国力に乏しく、人材も限られておりました。故に、まず力を注いだのは、法を整備し、農業を奨励し、産業を興すことによる『富国強兵』。内政を疎かにしては、いかなる軍事行動も、外交も、砂上の楼閣に過ぎませぬ」
(クロノスが蜀の地図と、整備された田畑や工房のイメージを表示する)
諸葛亮:「そして、外交。強大な魏に対抗するためには、呉との同盟が不可欠でした。孫権殿との間には、時に利害の対立もございましたが、互いの信頼関係を基盤とし、粘り強く交渉を重ねることで、同盟を維持し、共に魏に対抗する道を選んだのです。外交とは、言葉と信頼をもって戦う、もう一つの重要な戦場なのでございます」
あすか:「内政による国力の充実と、信頼に基づく外交…。カエサル殿とはまた違うアプローチですね。そして、諸葛亮殿といえば、やはり『天下三分の計』が有名ですが、あれも壮大な国家戦略ですよね」
諸葛亮:「(わずかに遠い目をして)あれは、若き日に、先帝(劉備)にお示しした、いわば『夢』でございました。荊州、益州を領有し、呉と結び、天下の変を待って魏を討つ…。その実現のためには、まず、先帝と亮との間に、絶対的な信頼関係がなければなりませんでした。三顧の礼を以て亮を迎えてくださった先帝の御心に応えること、それこそが、全ての計略の根幹にあったのでございます」
あすか:「君主との信頼関係…それがあって初めて、大きな戦略も動き出すのですね」
(ハンニバルが、カエサルと諸葛亮の話を、複雑な表情で聞いている)
ハンニバル:「(苦々しげに、呟くように)…信頼、か。内政、外交…。それが、磐石であったならな…」
あすか:「(ハンニバルの声に気づき)ハンニバル殿…?何か?」
ハンニバル:「(ハッとして口をつぐむ)…いや、何でもない。続けろ」
(ハンニバルの反応に、カエサルと諸葛亮も気づき、視線を送る。スタジオに少し意味深な空気が流れる)
あすか:「(少し戸惑いつつも)は、はい…。カエサル殿の、外に向けた人心掌握と政治力。そして諸葛亮殿の、内を固め、信頼に基づく外交。国を動かす知謀にも、様々な形があるようです。ハンニバル殿の今の言葉も気になりますが…そのあたりは、後半でさらに詳しく伺っていきましょう」