ラウンド2・前半:戦場を支配する閃き〜奇策と機動〜
(スタジオ。ラウンド1の重厚な議論の雰囲気を引き継ぎつつ、あすかが新たなテーマを提示する)
あすか:「いやぁ、戦略の基本原則、本当に奥が深いですね!計算と現実、理想と決断…様々な側面が見えてきました。さて、ラウンド2では、ガラッと視点を変えて、具体的な『戦場の閃き』に迫りたいと思います!テーマは『奇策と機動』!」
(あすか、クロノスを操作。壁面には険しいアルプスの山々を越えるカルタゴ軍のイメージ映像と、「アルプス越え」の文字が表示される)
あすか:「戦況を一変させ、不可能を可能にする『神の一手』。歴史には、そんな常識破りの作戦がいくつも記録されています。そして、その代名詞とも言えるのが、この方…ハンニバル殿!」
(あすか、ハンニバルに注目する。ハンニバルは表情を変えずに前を見据えている)
あすか:「紀元前218年、冬のアルプス越え。誰もが不可能だと考えたこの作戦を敢行し、あなたはイタリア半島に侵入、ローマを震撼させました。さらに、カンナエの戦いでは…」
(クロノスの映像が切り替わり、カンナエの戦いの布陣図と、ローマ軍が包囲殲滅されるアニメーションが表示される)
あすか:「自軍より遥かに多いローマ軍を、巧みな両翼包囲で殲滅。これは軍事史に残る完璧な戦術的勝利と言われています。…ハンニバル殿、このような常識外れの作戦は、一体どのようにして思いつき、そして成功させることができたのでしょうか?その発想の源泉をお聞かせください」
ハンニバル:「(しばし沈黙の後、重々しく口を開く)…源泉、か。特別なことではない。敵が何を考え、何を恐れ、どこに油断があるか。それを見抜き、突くだけだ」
あすか:「敵の油断を突く…」
ハンニバル:「アルプス越えもそうだ。ローマは、まさか冬に、あの難所を越えて大軍が現れるとは夢にも思っていなかった。だからこそ、やる価値があった。敵が『ありえない』と思うこと、それこそが最大の奇襲となる」
カエサル:「(頷きながら)それは同感だ。敵の意表を突く、というのは奇襲の基本中の基本だな。私もガリアで、冬期や悪天候をついて何度も奇襲を仕掛けたものだ。敵の油断こそ、最大の隙となる」
ハンニバル:「そして、機動力だ。(拳を握りしめ)我々カルタゴ軍、特にヌミディア騎兵の機動力は、ローマ軍団を凌駕していた。カンナエでは、その機動力を最大限に活かし、敵の両翼を崩壊させ、背後に回り込み包囲を完成させた。敵が反応する前に、圧倒的な速度で叩く。それが重要だ」
あすか:「なるほど…敵の意表を突く大胆な『発想』と、それを実現する『機動力』。その二つが揃って初めて、奇策は成功するのですね。…諸葛亮殿は、ハンニバル殿の戦術をどのようにお考えになりますか?あなたも数々の奇策を用いてこられたと伺っていますが」
諸葛亮:「(静かに羽扇を動かしながら)ハンニバル殿の戦術、敵の意表を突き、機動力を活かす…実に見事なもの。寡兵を以て大軍を破る要諦がそこにあるのでしょう。亮も、赤壁の戦い(せきへきのたたかい)に際しては、曹操軍の油断と、(周瑜どのとの連携による)火計をもって大軍を打ち破ることが肝要と考えました」
(諸葛亮、少し間を置いて)
諸葛亮:「しかし、ハンニバル殿の奇策は、敵の物理的な意表を突くものが多いように見受けられます。亮が用いる策は、むしろ…敵の『心』の隙を突くことに重きを置く場合もございます」
あすか:「敵の『心』の隙、ですか?」
諸葛亮:「例えば、『空城の計』。あれは、敵将・司馬懿の慎重な性格と、亮に対する警戒心を逆手に取った策。城門を開け放ち、悠然と琴を弾く姿を見せることで、『何か罠があるのでは』と疑心暗鬼にさせ、撤退させたのです。兵力ではなく、心理によって敵を退けた、いわば『心の奇襲』でございました」
あすか:「はぁー!空城の計…!まさに心理戦ですね!敵の将の性格まで読み切っての策とは…!カエサル殿は、このような心理的な奇策についてはいかがですか?」
カエサル:「(面白そうに)孔明殿の策、実に巧妙だ。敵将の心理を読む、というのは高度な技術だな。私自身も、兵士たちの士気を高める演説や、敵に恐怖心を与えるための示威行動など、心理的な効果を狙った手はよく使った。人心掌握は、戦場でも極めて重要だ」
カエサル:「(しかし、と付け加えるように)だが、ハンニバル殿のアルプス越えやカンナエのような大胆な作戦は、また別の次元の凄みがあるな。(ハンニバルに向き直り)あれほどの規模の作戦を成功させるには、相当なリスクもあったはずだ。兵站は?兵士たちの疲労や士気は?そのあたり、どう管理されたのか、非常に興味があるのだが」
ハンニバル:「(カエサルの問いに、少し表情を和らげ)…リスクは当然あった。アルプスでは多くの兵と象を失った。だが、それを補って余りある『時間』と『奇襲効果』を得た。兵站については、現地での調達と、同盟者からの支援を頼りにした。兵士たちの士気…それは、指導者である私が、常に先頭に立ち、苦難を共にすることで示すしかなかった」
あすか:「指導者自らが範を示す…それが兵士を動かすのですね。奇策の裏には、計り知れない困難と、それを乗り越えるリーダーシップがあった、と」
(あすか、クロノスに視線を落とす)
あすか:「敵の物理的な意表を突く奇襲、敵の心理的な隙を突く計略…どちらも『奇策』ですが、その性質は少し異なるようですね。そして、その成功には、発想力、機動力、情報分析、心理掌握、そしてリスク管理とリーダーシップ…様々な要素が絡み合っているようです」