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ラウンド1・後半:『策』の源流〜戦略の本質とは何か?〜

(スタジオ内。前半の議論を受け、場の空気はさらに熱を帯びている。あすかは、特に孫武とハンニバルの間に生まれた対立軸に注目する)


あすか:「計、道、行動力、決断力…戦略の基本原則を巡り、様々な視点が示されました。特に興味深いのは、孫武殿が説かれた『計』の重要性と、ハンニバル殿が指摘された『計算通りにはいかない戦場の現実』。この点について、孫武殿、いかがでしょうか?あなたの兵法は、変化し続ける戦場の現実に、どう対応するとお考えですか?」


孫武:「(わずかに頷き)…兵の形は水にかたどる。水の形は高きを避けて下きにおもむく。兵の形はじつを避けてきょを撃つ。水は地にりて流れを制し、兵は敵に因りて勝ちを制す。故に兵に常勢じょうせい無く、水に常形じょうけい無し。く敵に因りて変化し、勝ちを取る者、これを神とう」


あすか:「水のように常に形を変え、敵に応じて変化する…それが神業である、と。つまり、あなたの言う『計』とは、固定的な計画ではなく、変化に対応するための基礎である、ということでしょうか?」


孫武:「然り。そして、いくさとは、そもそも『詭道きどう』なり。能なるも能ならざるを示し、用うるも用いざるを示し、近くとも遠きを示し、遠くとも近きを示し…利を以てこれを誘い、乱を以てこれを取り、実を以てこれに備え、強を以てこれを避け…」


(孫武の言葉に、ハンニバルが小さく頷くのが見える)


ハンニバル:「…ほう。詭道、すなわち騙し合いか。それは俺も同感だ。戦場とはそういうものだ」


カエサル:「(面白そうに)まさに。敵を欺き、有利な状況を作り出す。戦争の常道だな。孫武殿の理論は、理想だけでなく、そうした現実的な側面も捉えているわけだ」


あすか:「なるほど!孫武殿の兵法は、単なる理想論ではなく、変化や欺瞞といった、戦場のリアルな側面も深く洞察されているのですね。…しかし、孫武殿は一方で、こうもおっしゃっています。『百戦百勝は善の善なる者に非ず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり』と。この『戦わずして勝つ』という理想について、皆様はどうお考えになりますか?ハンニバル殿、いかがでしょう?」


ハンニバル:「(即座に)…甘いな。それは敗者の言い訳か、あるいは、戦う前から圧倒的に有利な者の傲慢だ。(カエサルに鋭い視線を向け)例えばローマだ。彼らが、話し合いや小手先の計略で引き下がると本気で思うか?力には力で応じるしかない。敵の主力を叩き潰し、戦う意志を完全に挫く。それ以外に、確実な勝利などありはしない」


あすか:「力には力で…戦わずして勝つのは現実的ではない、と。…では、諸葛亮殿は?」


諸葛亮:「(静かに首を振り)ハンニバル殿のお言葉、戦場の厳しさを知る者として、理解できぬわけではございません。確かに、戦わずして勝つことは至難の業。しかし…(羽扇を胸に当て)だからと言って、初めから戦うことしか考えぬのは、真の知謀とは言えぬのではないでしょうか」


諸葛亮:「外交による同盟、離間の計による敵の分断、あるいは、威を示して戦わずして屈服させる…。もし、それによって無益な血を流さず、民の犠牲を最小限にできるのであれば、あらゆる知恵を絞ってその道を追求すべきです。それが、為政者、将たる者の務めであり、仁義にも適う道と、亮は信じます」


あすか:「犠牲を避けるため、理想を追求すべきだと…。カエサル殿は、この『戦わずして勝つ』という理想、どう思われますか?」


カエサル:「(腕を組み、少し考えてから)理想としては、美しい。実に魅力的だ。(諸葛亮に頷き)孔明殿の言うように、無駄な血を流さずに済むなら、それに越したことはない。私も外交交渉や買収で、戦いを避けようとしたことは何度もある」


カエサル:「だが、な…(表情を引き締める)現実はそう甘くない。(ハンニバルに同意するように)言葉や計略だけでは動かせぬ相手もいる。その時は、躊躇なく剣を抜かねばならない。重要なのは、『勝つ』ことだ。戦わずして勝つのも『勝ち』。戦って勝つのも『勝ち』。あらゆる手段を尽くして、最終的な『政治的勝利』を掴み取ること。それが私の考える戦略だ。理想に固執して、勝利を逃すのは愚の骨頂だよ」


あすか:「あらゆる手段を使ってでも『勝つ』こと…それが重要だと。三者三様、非常に興味深いご意見です。…最後に孫武殿、皆様の意見を聞かれて、改めて『戦わずして勝つ』ことの真意をお聞かせいただけますか?」


孫武:「(静かに頷き)…善の善たる所以ゆえんは、それが最も損害少なく、国をまっとうする道だからに他ならぬ。故に、上兵じょうへいぼうつ。その次はこうを伐つ。その次はへいを伐つ。其のじょうむ」


あすか:「つまり、まず計略で敵の意図を砕き、次に外交で孤立させ、それがダメなら野戦で軍を破り、最後の手段として城攻めをする…ということですね?」


孫武:「然り。戦わずして勝つは最善なれど、それが叶わぬ時は、次善の策を講じるまで。兵法とは、状況に応じて最善手を選ぶための『ことわり』を示すもの。理想に固執するのではなく、現実を見据え、最も利のある道を選ぶ。それこそが『計』の極意なり」


(孫武の言葉に、カエサルが満足げに頷き、諸葛亮も納得したように目を伏せる。ハンニバルは依然厳しい表情だが、反論はしない)


あすか:「(感嘆したように)ありがとうございます、孫武殿!よく理解できました。『戦わずして勝つ』とは、単なる理想ではなく、損害を最小限にするための最善の選択肢であり、それが不可能なら次善を選ぶという、極めて現実的な思考なのですね」


(あすか、クロノスを操作し、壁面にラウンド1のキーワード「計」「道」「行動力」「決断力」「変化」「詭道」「不戦屈敵」などを表示させる)


あすか:「いやはや、ラウンド1から、戦略の本質を巡る、なんと深く、刺激的な議論でしょう!戦う前の『計算』がいかに重要か。しかし、戦場の『現実』は常に変化し、時には『騙し合い』も必要となる。そして、『戦わずして勝つ』という理想と、それを実現するための『困難』…。戦略とは、実に多面的で奥深いものだと、改めて感じさせられました」


あすか:「さて、基本原則が見えてきたところで、次のラウンドでは、いよいよ具体的な『策略』、特に戦況を一変させる『奇策』の世界に踏み込んでいきたいと思います!常識を打ち破る閃きは、いかにして生まれるのか?皆様の経験をお聞かせください!」


(対談者たちの表情に、新たな興味と闘志が宿る。次ラウンドへの期待感を高めるBGMが静かに流れ始める)

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― 新着の感想 ―
 ははは……、早速劣勢なハンニバル。  彼の崇めるアレクサンダー大王がこの場にいたら、どんな顔をしていたことやら……。  取り敢えず今回は軍師と将軍の意見の違いってことでしょうかね。
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