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ラウンド1・前半:『策』の源流〜戦略の本質とは何か?〜

(オープニングの熱気冷めやらぬスタジオ。あすかは対談者たちに向き直り、手元のクロノスを操作する)


あすか:「『計』、『道』、『勝利』、『意志』…いやはや、皆様の第一声、痺れました!ここからどんな議論が飛び出すのか、本当に楽しみです。さて、最初のラウンドでは、全ての『策略・作戦』の根底にあるもの、その『本質』について掘り下げていきたいと思います」


(クロノスの画面が切り替わり、スタジオの壁面に「戦略の基本原則」という文字と、それを構成する要素を示すような抽象的な図が表示される)


あすか:「まずは、やはりこの方にお伺いしないわけにはいきませんね。孫武殿。『孫子の兵法』は、二千年以上の時を超え、あらゆる戦略の教科書とされています。その教えの中心にある、最も重要な『原則』とは、一体何なのでしょうか?」


孫武:「(静かに頷き)…兵は、国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからず。故に、これをはかるに五事ごじをもってし、これをくらぶるに計をもってし、そのじょうもとむ」


あすか:「五事…と申しますと?」


孫武:「一にいわどう、二に曰くてん、三に曰く、四に曰くしょう、五に曰くほう。これを将たる者、聞かざることなし。これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。故にこれを校ぶるに計をもってし、その情を索むるなり」


(孫武の言葉に合わせ、クロノスが「道・天・地・将・法」の文字と簡単な解説を壁面に表示する)


孫武:「すなわち、君主と民の心が一つであるか(道)、天の時を得ているか(天)、地の利を活かせるか(地)、将は有能か(将)、軍の規律は整っているか(法)。これらを戦う前に徹底的に比較検討する『計』こそ、勝敗を分ける根源である」


あすか:「なるほど…戦う前に、まず自国と敵国の状況を徹底的に分析し、比較検討する『計』が重要だと。ありがとうございます。…諸葛亮殿は、孫武殿のこの考え、どのようにお聞きになりましたか?」


諸葛亮:「(羽扇でゆっくりと頷きながら)孫子曰く…誠にその通り。兵法の祖のお言葉、深く感銘を受けました。特に『道』、すなわち君主と民の心が一つであることの重要性は、亮も身をもって経験してまいりました」(諸葛亮、わずかに遠い目をする)


諸葛亮:「我が主、先帝(劉備)は、仁義を以て民を導き、その御心は常に民と共にあられました。故に、寡兵かへいなれども、強大な敵に抗うことができたのです。いかに優れた計略があろうとも、この『道』、すなわち大義名分と人心の掌握なくしては、砂上の楼閣に過ぎませぬ」


あすか:「大義と人心…それが計略を支える土台であると。孫武殿の『道』を、より具体的に示してくださったように感じます。…しかし、ハンニバル殿。(ハンニバルに視線を向ける)あなたは、数々の戦場で、劣勢を覆す勝利を収めてこられました。このような『計』や『道』は、実際の苛烈な戦場において、どれほど有効なのでしょうか?」


ハンニバル:「(腕を組み、厳しい表情で)…フン。机上の計算は重要だろう。だがな、(孫武と諸葛亮を交互に見やり)戦場の現実は、お主らが考えるほど甘くはない。天候は急変し、地形は裏切り、兵士は恐怖に駆られる。敵がこちらの計算通りに動くことなど、まずない」


あすか:「と、申しますと?」


ハンニバル:「『道』や『大義』?(鼻で笑う)結構なことだ。だが、飢えた兵士に美しい言葉が何の役に立つ?敵の圧倒的な物量の前に、民の心がどれほど持ちこたえられる?計算も大事だろう。だが、それ以上に、予期せぬ事態に対応する『即応性』、そして何より、敵の意表を突く『行動力』こそが、勝利には不可欠だ」


(ハンニバルの言葉に、スタジオにピリッとした空気が流れる)


あすか:「なるほど…実践家の立場からすると、計算や理想だけでは勝てない、と。行動力と即応性…。非常に興味深いご指摘です。…では、カエサル殿。あなたは将軍でありながら、優れた政治家でもあられました。孫武殿の『計』、諸葛亮殿の『道』、そしてハンニバル殿の言う『行動力』。これらをどう捉え、ご自身の戦略に活かしてこられたのでしょうか?」


カエサル:「(面白そうに口角を上げ)ほう、これは実に興味深い議論になってきたな。(孫武に頷き)孫武殿の言う『五事七計』、戦う前の徹底した分析と比較。これは、私がガリアで行った情報収集と周到な準備そのものだ。敵を知り、己を知る。基本中の基本であり、極めて重要だ」


カエサル:「(諸葛亮に視線を送り)そして孔明殿の言う『道』と『人心』。これもまた然り。兵士たちに『なぜ戦うのか』を示し、ローマ市民に『勝利の果実』を約束する。これがなければ、彼らは私についてこなかっただろう。指導者は、兵士や民衆の心を掴む術を知らねばならない」


カエサル:「(ハンニバルに向き直り)だが、ハンニバル殿の言う通り、戦場とは常に変化するものだ。計算通りにはいかない。だからこそ、『行動力』、いや、敢えて言おう。『決断力』と『指導力』が不可欠なのだ。状況を瞬時に判断し、最善と信じる道を選び取り、兵士たちを鼓舞してそれを実行させる。それこそが将たる者の務めであり、策略を真に生かす鍵だと私は考えるがね」(カエサル、自信に満ちた表情で全員を見渡す)


あすか:「(感心したように)ありがとうございます!孫武殿の理論を認めつつ、人心掌握とリーダーシップの重要性を加えられましたね。計、道、行動力、そして決断力…。戦略の基本原則を巡る議論、早くも様々な視点が提示されました」(あすか、クロノスに視線を落とす)


あすか:「特に、孫武殿の説く『計』の重要性と、ハンニバル殿の指摘する『戦場の現実』との間には、興味深い対立軸が見えてきたように思います。この点について、もう少し掘り下げてみたいですね」

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― 新着の感想 ―
 二人の軍師と二人の将軍、それぞれの意見が出たようですけど、やはりハンニバル劣勢ですかね。  彼の語る内容は己の情報とその分析の至らなさを自ら示しているようなものですし……。  傲慢な諸葛亮が鼻で嗤っ…
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