エピローグ 少女の50621週前から変わらぬ後悔。
やっぱエピローグに対して、プロローグが長いんですよねぇ。
プロローグはもっと短くしたかったけれど、本文でやりたくない設定開示的なものを終わらせようとすると、このくらいの長さにになってしまった。
今は欧州と呼ばれるその土地で、村一番の美貌を持った少女がおりました。
少女はその美貌から持て囃され、貢がれ、決して豊かであるとは言えぬ農村の中でも、不自由のない暮らしをすることができました。
しかしある日を境に、その日常は終わりを迎えました。
戦争です。戦いの闘争が膨れ上がり、小さな村など意図も容易く呑み込みます。
夕日に焦れた時間に兵が辿り着き、少女の住む村も例外はなく何一つ言葉すら発せずに、虐殺されていきました。
ですが一人の男が叫んだのです「この村には、息を飲むほどの絶世の美を持った少女が居る。そいつ献上を献上するから見逃してくれ」とすると兵士たちの歩みは一度止まります。
どこに居る。どこのどいつだ。そう兵たちに問われると、皆が皆、少女に指を差しました。
兵士の目の色が変わります「コイツは上玉だ、俺の下に持ってこい。持ってきた物には褒美を出す」すると兵士たちは、目の色を変えて獲物狙う狩人の目をして走り出しました。
少女は必死に走ります。何をされるかの想像が付くからこそ、少女は恐怖と絶望を包まれても。僅かな可能性に賭け村人たちの耳に残る絶叫を背に、それでも少女は走ります。
茜色の空の端が、紫に帯びてきた頃。
擦り傷と切り傷、それに捻った足をそれでもと前に進み、森の中で少女は倒れました。
呼吸もままならぬまま、少女は仰向けに空を眺めます。
とても美しい夜空がそこにはありました。数多の星々に少女は状況も忘れ目を奪われます。茂みの先からなる足音が聞こえても、もう少女には聞こえません。
それに少女が気づいたのは、牙の様なとがった歯を持つ男が視界に現れた時です。
少女の足は動きません、そして少女は自身の運命を受け入れました。
これが最後の苦しみだと、少女は納得し受け入れたのです。
けれども少女は何もない廃屋の中で、真夜中に目を覚ましました。
状況を理解もできず、少女は外へと足を踏み出します。
雨が降ったのでしょうか、水溜まりに足をつけると少女は違和感を覚えます。
そこにあるべきモノがないのです、それはあるはずの少女の現身でした。
その時少女は気が付いたのです「私は何者?私は人間?今の私は」そう頭を悩ませ時間が経った頃、朝日が昇りました。
無限にも感じた夕焼けの空から、ようやく朝を迎えられたのだと、それでも少女は満足感を得られたのです。
怖かったけれども、少女は平和の象徴とも言える朝に辿り着いたのです。
その時でした、少女の身を焦がしていくのは。
慌てる暇もなく、少女はその耐え難い激痛を耐えます。
水に肌をつけても、身を焦がす痛みは取れません。少女は助けを求め、何もないと理解している廃屋に足を運びました。
すると何ということでしょう、痛みが徐々に引いて行き、そしてみるみる内に焦げた肌が治っていくではありませんか。
痛みが引いた安堵よりも、少女は更なる絶望を覚えます。
なぜなら少女は、平和の象徴である日の下に、二度と出られないと悟ったからです。
少女は考えます、こんなことなら助かりたくなかった、と。
少女は自身が吸血鬼になったことを理解できず、そしてこれからの生涯拒み続けるでしょう、この肉体が永遠に老いぬ事に絶望しながら。
誰もが欲に塗れ、少女に寄り添おうとはしなかった現実を逃避しながら。
もし少女が救わる時が来るとするならば、それはきっと少女を美しい少女でも、不老の怪物でもない。
何者でもない、ただ一人の少女として見てくれる。
欲望を向け続けられた少女に、欲望を向けない誰かに出会えた時。
少女は初めて、誰でもない誰かに心を許せるでしょう。
1000年も待てば、きっといつかはそんな人が現れると信じ。
その願いだけを頼りに、少女はこれからも生きるのでした。