吸血野郎は醜女がお好き
美しい女性の血を吸い続け生きる事で有名な吸血野郎、千尾崇太には、計り知れない悩みがある。崇太は恋をしており、その相手の血を味わいたい……のだ。え?吸血野郎なんだから吸えば良いだと?んな事してみろ!吸われた相手が吸血娘になるではないか!ご存じの通り吸血野郎が血を吸った相手は、それと同じ種族になるのだぞ!恋をしている相手を吸血族にさせるなんて……血も涙もない行為だ。(吸血野郎だけに)……好みではない美女の血なら平気で吸えるのだが、好きな相手ともなれば出来るわけない。それはそれで血も涙もない行為だと?良いのだ。美女だって美しいと思われ、吸血娘になろうとも命は落とさないのだからな!崇太は顔より内面的な部分で恋をするので、その相手は隣の女子校に通う醜女の雑杉カヨ……花の高校二年生だ。人柄が良いためそこはやはり崇太と同じ考えを持った男子達が、カヨに会いに帰宅待ちをする毎日なのだ。(ああ、また今日も雑杉さんに会いに男子の皆さんが正門前で待機してる!しかも昨日より多い……)崇太が少し出遅れ、男子達が集まる正門を見ようとするが、周りの者が長身過ぎて見る事が出来ない。(一目、だけでも……!)平均身長である崇太は必死に飛びはねるが、群衆の身長には勝てない。「出てきたぞ!」「雑杉さん!」男子達が歓声を上げて、正門から出てきたであろうカヨを見つめる。崇太もカヨを視界に映そうと頑張るが、やはり変化はない。「雑……す……!」呼び声を出すものの、男子達が巻き起こす歓声にかき消されてしまう。「雑杉さん!」一人の男子、加成衣笥照が早くも動いた!「まずい!加成くんが行動に出たぞ!」「町内一かなりイケてる、加成くんが!」「阻止……出来ない!」(加成くんが出てきたら、僕には勝ち目がない……!)崇太は絶望的な気持ちになった。どんな女子も夢中になる加成がライバルなんて、もう諦めるしかない状態。「雑杉さん、付き合って下さい‼」言った。もうこれでカヨの心は加成に向いてしまった……全員思った。「はい、構いませんよ」男子一同言葉が出ず、ショックを隠せない。(雑……杉さん!)崇太も勿論ショックだ。加成をフル女子なんているわけない。そう思った。次の瞬間までは。「では……いっきまあああああす!」カヨが掌を素早く出し、加成を弾き飛ばした。「!」加成の身体は光の速さで低空移動し、地平線の彼方までダイブした。……。目をパチクリさせ男子達が見つめる中、カヨはポケッとした顔で言う。「突き合いになりませんでしたね」暫し呆然としていた男子達は、感動した表情へと代わる。「あれが噂の神張り手!」「流石は雑杉さん!張り手部のエースなだけある!」「惚れ直したぞ!」カヨはひたすら張り手活動に励む『張り手部』のエースなのだ。常に張り手の努力を続け、張り手を極める女子である。(凄い、かっこいい!諦めるなんて嫌だ!)崇太の恋心バロメーターが通常レベルを越えた。「雑杉さん!血を飲ませて下さい‼」勢いで告白した崇太は、皆の視線を浴びた。「吸血野郎の千尾くんがコクったぞ!」「決してイケメンではないが、イケハートの千尾崇太くんの告白!」「雑杉さんはなんて答えるんだ⁉」二人の間を何人もの視線が行き交う。「はい、ちょうど今日は歯茎から出血して、ちり紙で拭いたんです。このちり紙、どうぞです」カヨは血まみれのちり紙を崇太に渡した。「これなら私が吸血娘にならないで済みますから」(その手があったか……)「ありがとうございます!この歯茎血永遠に大事にします!」一斉に二人に向けて、祝福の拍手が起きた。一方その頃地平線にダイブした加成は、二人がカップル(?)になれた事を知らず、カヨに再度告白する次の作戦を考えていた。