ep.67 原体験
昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。
「今日は何して遊ぶ?」
「仮面セイバーごっこがいい!」
「やろう!」
「俺セイバーやりたい!」
「僕も」
「じゃんけんで決めろよ」
「じゃあ。最初はグー。じゃんけんほい!」
「やったー!」
「じゃ僕はFBI捜査官!」
「俺はカマキリ怪人やる!」
「◯◯は怪人好きだなー」
「そらそうよ。大幹部妖鬼将軍の正体なんだもん。べこは女戦闘員な」
「うん」
「ふはは! セイバー! よくぞここまで来たな!」
「妖鬼将軍! カマキリ怪人はどこにいる?!」
「イー!」
「くくく……はーっはっは!」
「なに?」
「ギエェェッ」
「妖鬼将軍の正体がカマキリ怪人だったのか!」
「そうだセイバー! 妖鬼将軍は仮の姿」
「イー!」
「喰らえ! カマキリミサイル」
「わーっ! ◯◯! 本物のカマキリ投げるなー」
「うるせー! リアルでいいだろ!」
「わっ! いてて! 頭に登ってきた」
「行け戦闘員よ」
「イー!」
「おのれカマキリ怪人!」
「あっ」
「う……う……ゔえええええん!」
「おいべこ!」
「ごめんて! 手が当たったんだよ。べこちゃんごめんな」
「べこももいつまでも泣かないで」
「えぐっ……ひっく」
「あ?」
「ふふ。起きた?」
俺の顔を覗き込む形の佐藤優子。
俺はいつの間にか寝ていたらしい。
って!
「なんで佐藤さんが膝枕してんの?」
「寝心地よかったでしょ?」
「……それはまぁ」
起き上がりながら顔が赤くなるのを自覚する。
なんてことしてくれるんだ!
……嬉しいけど。
『「そうだセイバー! 妖鬼将軍は仮の姿」』
柚木が夢の中で俺が言ったセリフを言う。
「柚木……」
「先輩の寝言です」
「……まじで」
「ずっと言ってましたよ、寝言。すごく楽しそうでした」
「流行ってたもんね、仮面セイバー。私も妹と観てたよ」
「飯田……女子なのに観てたのか」
「う、うん、セイバーカードも集めてたし」
「今も持ってるか?」
「え? うん、どこかにしまってると思う」
「そ、それ今度でいいから見せてくれ! 俺、全部集めてたけど母親に全部捨てられたんだよ」
「うん、いいよ。瑛子ちゃんに戦闘員役やらせてたんだ」
「だってべこに出来る役は他にないし」
「よく泣かしてたの?」
「してないよ! あれはセイバー役の手が当たって、転んだから。俺たち、べこに怪我させないように最大限注意してたよ」
「先輩の話についていけません」
「私もね」
「逆に佐藤さんが仮面セイバー観てたら怖いわ」
見た目高校生ぐらいの姿のまま生きてきた佐藤優子。そんな彼女が特撮番組を観てたら……うーん、それはそれで?
「柚木は……まぁ観ないよな」
「フィクションには観察価値があまり無いので。ニュースとドキュメンタリーばかり観てました」
「それもある意味変わった子どもだよな」
「にゃほー! 帰ったよ〜」
「あ、お疲れ様です」
「もう街にはいないとは思う。山は警察が捜索するそうだ」
俺たちは交代制にして残りの向日葵人間を捜索することにした。
瑛子、王戸ちゃん、みさおさん、みさえさんがチームだ。
「◯◯君は良い子にしてたかなぁ?」
「すみません、俺居眠りしてました」
『そうだセイバー! 妖鬼将軍は仮の姿』
「おい柚木!」
「なにそれ〜?」
「お兄ちゃん、それって」
「俺、子どもの頃、瑛子と遊んでた夢を見たんだ。で、寝言を言ってたらしくて」
恥ずかしいが聞かれたものはしかたない。
「俺も遊んでたぞ、セイバーごっこ」
「みさおさん! やっぱ男の子はそうですよね?」
「にゃは! 私は怪人役やらされてばっかりだったなぁ」
「みさえさんが?」
「そうだよ〜。みさおにやられるばかりなのもシャクだからさ、たまに反撃してたよん」
「さすが……」
「みさえのやつがムキになり過ぎてな、本気で取っ組み合いになる度に親に叱られてた」
「それは……」
なんていうか怖すぎる。
「あの頃の◯◯君は可愛かったわね」
「やっぱり近所に住んでたんでしょ? 佐藤さん」
「瑛子ちゃんのお守りよ」
俺はそれ以上聞くのはやめた。
俺の年上好きがこの人の影響かもしれないから。




