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俺が通う高校は人外魔境だった  作者: はるゆめ


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ep.59 一日目 十九時四十二分まで

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。


 ◼️十九時十四分


 グロテスク博覧会───、しばらく進んだ先にはそんな光景が広がっていた。


 俺たちが住む地球には嫌悪感を抑えきれない奇想天外な姿の深海魚や不快害虫と呼ばれる一部の虫、毒々しいキノコや気持ち悪い植物が存在する。


 父親が一時期、マムシ草なる不気味な山野草を庭に植えてた。

 花がまるでヘビの鎌首みたいな形でまだら模様。名前の由来らしい。 

 その後赤い粒々の実がなるが、それの一部が黒く変色したりして悪夢のような姿になった。

 俺は地獄が実在するならそこにふさわしい植物だと感じたのを覚えてる。

 母親が『気持ち悪いものを植えるな』と激怒して父親に撤去させた。


 それら地球産のあれこれを軽く上回るおぞましさ。

 何かの生物の内臓を思わせる腐った緑と狂った黄色の肉塊みたいなモノ。

 血管を連想させる毒々しい紫色の触手が規則性を無視して張り巡らされて。

 無秩序に毛や爪、耳らしきモノ、触覚、花弁が散りばめられている。


 さらに悪臭。

 腐敗臭が充満していて、飯田が身じろぎしている。嗅覚が鋭いゆえに俺たちが感じる何倍もの苦痛が彼女を苦しめているはずだ。



 幼児にゴミバケツと絵の具を使って好きにぶち撒けて遊んでいいよと言えば、これが出来上がるだろうか。


 全員無言だ。

 俺たちを圧倒する狂気じみたパノラマ。



 一際暗い場所に黒い球体がある。

 直径は十メートルはあろうか。

 そこから極太の触手が、何かを探すようにゆらめいてる。

 闇よりも暗いその奥に何か、いやエレボスがいる。

 全身の細胞ひとつひとつが猛烈な拒絶感を示して、身体が震えているのを感じてどうにか抑えようとしている。

 しっかりしろ俺!


 立っている女が一人。

 河野涼子、姫巫女ナラバスを名乗るやつ。

 服はいつか見た異国風の衣装。


 頭から触手を何本も生やして、腕も触手になってタコの怪人みたいな容貌。

 もう人間をやめたらしい。

 喜色満面で俺たちを見下ろしていた。


「皆さん、ようこそ」


 身体が重い。

 皆も同じようだ。

 圧倒され息苦しい。


 アレのせいだ。


 全校集会も商店街もこの時の準備だったんだな。 

 俺たちはいつも後手に回ってたんだ。


「これからこの星は我が神のものになります」


「あいにくと私、上の方から止めろって命令が来てるので」


 柚木の一言がきっかけだった。


 静止衛星から破裂音と共に光弾が連続して黒い球体に撃ち込まれた。


 しかし変化はない。


「質量弾では効きませんか」


 次に閃光が発せられる。思わず目を覆う。

 これもまた効果が無いように見えた。


「そんなオモチャで我が神に?」


 いやらしい笑顔を浮かべる河野涼子。


「反陽子ビームでもダメですか……」

「今になって私を殺めても我が神の顕現に影響はありませんので、念のために」 

「そうかいっ」


 一瞬でみさえさんが河野涼子の首を落とす。

 俺にはみさえさんの動きが何も見えなかった。


 落ちた河野涼子の首は、頭の触手を使って器用に立ち上がり笑う。


 身体の方は素早い動きでみさえさんを捕まえようと動いたところへ、飯田の腕による突きが決まる。


 が、その勢いは変わらず。

 まず飯田の方へ跳躍し、触手を巻きつけ、それを阻止しようと近づいたみさおさんを払いのける。


 次に飯田を拘束したまま佐藤優子へ接近、これは王戸ちゃんに弾かれる。 


 俺は首の方へ走る。

 迫る触手はみさえさんと佐藤優子が捌いてくれ、その隙に俺はデアソードを突き立てた。


 赤黒い粉となって崩壊する河野涼子の首。

 同時に身体の方も動きを止める。


「あうっ」

「がっ」


 俺たちは極太の触手に跳ね飛ばされることになった。

 黒い球体からの触手だ。

 俺たちを狙った風ではなく、ただデタラメに動いてる。


 飯田とみさおさんが切断したが、すぐに再生して元に戻る。無敵かよ。


 各自が何とかしようと触手に攻撃を加えているが、切っても燃やしても再生するからキリがない。

 このままじゃ体力が尽きたらジ・エンドだ。


「瑛子っ!あれ頼む」

「でもっ」

「ここで止めないと地球が終わるぞ」


 全校集会の時、デアソードは確かに有効だった。


 瑛子の力が面だとするとデアソードは点だ。

 そんな気がする。


 代償は俺の寿命?

 全部ってわけではないんだろう?



 瑛子が俺に唇を重ねてきた。

 身体が一瞬熱くなり、やけに頭が冴え渡る。

 自分の身体じゃないみたいな感覚。

 何か温かい風に覆われてるような。

 奥底から湧いてくる光のような感触。


 足が腕が普段よりずっと速く動く。

 近くの触手を斬り落とす。


 俺が斬った触手は再生せず、切断面から赤黒い粉となって崩壊。


 それにしても邪魔な触手だ!


 すると。

 一本の触手が黒い光に包まれ霧散した。 


「極小の反物質弾です!」


 柚木が叫ぶ。

 対消滅してるのか!


「でかした!」

「先輩がそのデアソードでエレボス本体を仕留めきれなかった場合!極小ではない反物質弾を撃ち込みます。その時は皆さん!瞬間移動をお願いします!」

「わかった!」


 斬る。

 斬る。

 片っ端から極太の触手を斬り落とす。


 エレボスめ!

 案外芸がないな! 


 ……こう考えた俺はバカだったと知ることになる。


 ◼️十九時四十二分

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