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ep.57 一日目 十四時五十六分まで

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。


 ◼️十四時七分


 飯田は柚木が別室で輸血中。

 みさおさんはかすり傷。

 仁科亜矢子は未だ意識は回復してない。

 佐藤さんはかすり傷かな。

 王戸ちゃんはまだ動けない。

 無傷なのは、瑛子、柚木、みさえさんの三人。


 ポケベルが鳴ったので、アンネさんへ電話をかける。瑛子の謎家は急速に電化が進んでいて、テレビ、冷蔵庫、洗濯機まであるのだ。


「結界の範囲はこの街。人形の襲撃はあちこちで実行されて、警察署や封鎖区域の機動隊も襲われたよ。引っ越してきた私達の同族とイタチ、狐、飯田さんの親族が対処してるけど、数が多すぎる」


 封鎖区域。何かことを起こすにはあの地下空洞が向いてるってのは俺でもわかる。


「地下空洞にいた人達と連絡がつかなくなってるから、あそこが河野涼子の儀式場と思った方がいいね」

「すぐに向かいますか?」

「そっち、怪我人が多いでしょ?もう少し回復してからにしてね。私達がまず行くから」


 電話を切る。今は動けない、か。


「お兄ちゃんの傷もだけど、王戸ちゃん、飯田さんも急所を正確に刺されてる。やり方も巧妙。親しい人を操って、動きを封じてから襲わせてる」


 皆、同じパターンで刺されていたのか。

 やり方がえげつない。


 河野涼子も必死だ、どんな手でも使う。俺もまだまだ甘ちゃんだ。よーし。とことん邪魔してやるぞ。待ってろよ。


「まずは飯田と王戸ちゃんに精のつくもの食べてもらうか。それと柚木、点滴っぽいものやれる?」

「輸血と同時にやりました」

「すごいな。内容は?」

「乙女の秘密です」


 前から不思議だけど、どうやってるんだろう……などと考えつつ柚木をじっと見つめていたら、


「先輩のえっち!」


 と怒られた。なせだ。理不尽すぎる。

 布団に寝かされた二人。


「飯田、王戸ちゃん、無理せず治してくれ」

「あ、う、うん。ごめん。足引っ張ってるね」

「それは気にするな。俺も刺された」

「◯◯君も大丈夫なの?」

「仁科がな、その場で応急処置をしてくれたんだ。悪魔なのに」

「そうなんだ」

「◯◯様、申し訳ないです」

「それはさっき言った。気にしないようにしよう」

「……」


 王戸いゃんの頬を涙が伝う。


「敵も必死だ。大切なのはどう勝ちを拾うかなんだよ」


 子どもの頃によくやった缶蹴り。

 鬼役以外、ほぼ見つかって捕まってもたった一人が缶を蹴ったらそれで勝利だ。


 俺達の場合、エレボスと命名されたあのおぞましいヤツをこっちに来させないことが勝利。けど彼女らにはなるべく傷を負ってほしくない。


「今はゆっくり、な?」

「は、はい」

「お兄ちゃん、後で私がもう一回手当てしとく」

「頼む」


 瑛子のいう手当ては文字通り手を患部に当てる。何やら謎の効果を発揮するありがたい治療だ。


 ◼️十四時二十二分


「外はどうなってるかな」


 両親は無事なのか。


「ちょっと見てくるよ」 


 みさえさんが飛び出していく。早い。


「誰もいないねぇ。住民の人らは家にこもってるみたい。人形はいないよ」


 少し安心する。親父はサバイバルとか凝ってるから、こんな時はウキウキして籠城の準備をしているだろう。


「なら、やはり封鎖区域周辺か。アンネさん達大丈夫かな」

「◯◯君も見たでしょう? アンネもかなり強いのよ。ヨーロッパは異端に容赦なかったから、戦いの数は私よりずっと多くこなしてる」

「他の人もかなり?」

「この街に越してきた人達全員が戦闘のプロ」

「それは心強い」

「にゃは! 狐も強いよ〜?」

「頼もしいですね」

「人数はあまり来てないけどね、引越しか大変だから」

「あ、そうか。色々なところから」

「そうそう」


 そして瑛子が色々と食事を持ってきた。


「お昼まだの人多いでしょ?」

「にゃは〜美味しそう〜」

「少しは遠慮しろ、みさえ」

「あ、もう一つ訊いていいですか?」

「なんだい?」

「そのぅ……狐の耳や尻尾が出たりはしないんです?」


 またしても笑い転げるみさえさん。


「にゃはははは! そんなのありえないよ〜。ひーひひひ。狐だってバレちゃうじゃ〜ん」


 何となくわかってたが一応、場を和ませるために質問したんだけど、ここまで笑われるとは。


「◯◯君、もっと現実を見ようよ? いくらマニアだからってね」


 な!

 空想上の存在みたいな人に諭された!


「先輩がSF小説や映画、漫画が好きなのはよく知ってますけど、それと線引きして考えることをお勧めします」


 な!

 遥か遠くの星からやってきた異星人製の恒点観測体を名乗る謎の存在に呆れたような顔されたぞ!



「瑛子、俺、なんか切ない」

「私はいつだってお兄ちゃんの味方」

「ふふっ。◯◯君も可愛いとこあるのよね」

「佐藤さん、その年上目線やめてください……」


「でも見たいなら、ほら!」


 みさえさんの頭に狐耳が生えた!

 そしてヒップからフサフサの尻尾が!


「おおっ! おおおー」

「お兄ちゃん……」

「いやだって見ろよ、瑛子!」

「くくくっ……ふふっ」


 佐藤優子は腹を抱えて笑ってる。


 俺は黙って瑛子の振る舞いを黙々といただくことにした。美味い。


 ああ俺のこの気持ちをわかってくれる彼女が欲しい。



 ◼️十四時五十六分

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