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俺が通う高校は人外魔境だった  作者: はるゆめ


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ep.51 商店街の決闘 終了

 昭和のいつか。どこかにある街。 季節は冬。


 後始末はいつも大人の仕事。俺たちに出来ることはない。


「河野涼子のやつ、色々とパワーアップしてたな。あれが神の力か」

「巫女を名乗るだけあって権能の一部を使える、あれはもう半分人間じゃないよ」


 瑛子の表情は険しい。


 女子達は入浴中。

 目の前で瑛子はクリーニング店の如く、彼女らの服を洗浄し修復していく。

 まさに神業。

 それを風呂場に持っていく瑛子と入れ替わりにアンネさんがやってきた。


「もう回復したかな?」

「はい、何とか」


 折れた(あばら)も瑛子によって元通りだ。


「街の人たち、大半は寝過ごしたって認識みたいね」

「無事なんですか?」

「うん。予想だけどさ、生贄っていうより手駒として使う気だったのかも」

「黒い羽女になった紀子って誰だったんですかね」

「捜索願や失踪届はたくさん出てるから、そのうちの一人でしょうね」 


 違和感なしに楽器店の看板娘として存在していた彼女。悪魔に憑依され、操られ人間兵器にされた。


「特撮番組に出てくる悪の組織そのまんまですね、やつは」

「悪っていうのとはちょっと違うかな」

「どういうことです?」

「河野涼子はさ、自分が悪だって自覚してると思う?」

「え……」

「彼女が呼ぼうとしてたものは混沌を司る神。混沌と対になるのは秩序」

「……?」


アンネさんの真剣な眼差し。


「物事にはプラスとマイナス、正と負、相反する性質があるでしょう?」

「作用反作用とか、反物質とかですか」

「そう。私たちは基本的に秩序あるものを求めてるけどその逆を求めることもある」


人間は皆が聖人ではない。


「私たちはいつも秩序と混沌の間を揺れ動く。河野涼子は、真ん中にいる私達を混沌の方へ導く存在ってわけ」

「俺たちも完全に河野涼子の反対側にいるわけではない───ですか」   


主に男が好む飲酒、喫煙は緩やかな自殺。夜遊びやギャンブルは破滅願望の発露って何かで読んだ。


「それを自覚するだけでも違うのよ。人はその辺から目を逸らしているって感じかな」

「自分は正しいと思って生きてますからね」


アンネさんやトーマスさん達吸血鬼は長いこと人に弾圧されていた、はず。佐藤優子からの話で察する程度だけど。


ヨーロッパの十字軍遠征に関する本を読んだが、敵対宗派への行いは胸糞が悪くなる逸話ばかりだ。アンネさん達への迫害も、何が行われたか容易に想像出来る。



「なんだ? なんの話だ」


 湯上がり第一号は仁科亜矢子だ。くそっ。少し色っぽくなってるのが腹立つ。


「お前はこれからどうするんだ」

「上司に言われた命令は果たしたからな。とりあえずはこの街で仁科亜矢子として過ごすさ」

「悪さすんなよ?」

「俺は元々観察が好きなんでな。お前さん達のする事をじっくり鑑賞させてもらうことにするぜ」


 姿が消える。

 心配はない……のか?


「あいつには監視を付けるから安心して」  

「監視……」

「君の学校、優子以外にもいるから」

「そうなんですか!」


 思ってたより吸血鬼人口は多いのかもしれない。


「優子も迂闊だったからねー」


 意味ありげな視線を俺に向けるアンネさん。

 ん?


「余計なこと言う首は引っこ抜いてあげようかしらね?」

「佐藤さん……それ怖いよ」


 湯上がり第二、三号は佐藤優子と飯田奈美。


「ふふっ。優子は怖い怖い」

「悪魔は?」

「帰ったよ。しばらくこの街にいるって」

「問題ないの?」

「監視は怠らないから大丈夫」


「◯◯君、先にお風呂ごめんね」

「レディーファーストに決まってるから気にするな。飯田、すごく頑張ってたじゃないか」

「あ、うん。でも」

「そこは気にしない。飯田はよくやった。OK?」


 頭を撫でておく。


「私には何も?」

「佐藤さんには助けられたよ。あの時下手したら俺は触手に貫かれてたもん」


 反射神経も運動神経も、俺は彼女達に遠く及ばない。それを今更ながら痛感してる。


「そう。なら良かった。母が心配してるでしょうから、帰るわね」

「あ、私も」


 佐藤優子は姿を消し、飯田は普通に玄関から帰っていく。


 湯上がり第四、五号の柚木と王戸ちやん。


「ひ、檜のお風呂、初めてでした!」

「良いもんですね、皆が温泉へ行く気持ちがわかります」

「柚木、エミリさんは?」

「彼女は先に帰りました。色々と補給しなければならないので」

「補給」

「質量弾は彼女が身を削って作ったタングステン製です。威力あったでしょう?」

「あれか。凄かった」

「柚木ちゃん、あの衛星はどこまでカバー出来るのかな?」


 アンネさんの質問。


「移動出来ますから、どこにでも」

「それはまた便利だね」


 湯上がり第六号は本田紗代子先輩だ。


「あ、手が」

「そりゃそうよ、◯◯君。いつもじゃないよ」


 と言って猫の手を見せてくれる。一瞬だな。


「まっ私は大人しく傍観してるよ。君の周りには頼りになる女子も多いからさ。じゃあね!」


 猫ってだらけてる姿が真っ先に浮かぶから、本田さんもそうなのだろうか?

 この人は普通に玄関から帰った。


「私もこれで失礼します。今夜にパパとママが帰宅しますので」

「わ、私も。母に報告したいので」

「おう!またな」


 王戸ちゃんは姿を消す。


「王戸さん、佐藤先輩、仁科さんの移動方法は気になりますね。今度解析してみます」


 柚木は玄関から。


 最後は瑛子だ。


「アンネさん以外は帰ったの?」

「そうだよ」

「私は瑛子ちゃんに伝えることがあってね」

「なんでしょう?」

「パパから、これ。お供物ね」

「……ありがたく」


 アンネさんが瑛子に渡したものは小さな鏡だった。なんだ?神器とか?

 訊きづらい雰囲気に俺は黙っておく。


「じゃ私も。またね!」


 すっと消えるアンネさん。


「俺も今日はほんと疲れた。精神攻撃って心を抉られるな」


 抱きしめられる。

 身体が、いや、心が洗われる。そんな感覚。


「これで大丈夫」

「おお。すごくすっきりした。ありがとうな」


 帰宅する。

 両親はいつもと変わりなかった。


 自室に帰った俺はあれこれ考える。

 死体を操られてた山根や『アナザーワールド』のメンバー。

 バンドは終わりだ。その気にもなれない。


 あと何か引っかかることが……いかん……眠い。

 鈴木留美子の夢を見た……と思う。

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