ep.47 商店街の決闘 中編
昭和のいつか。どこかにある街。 季節は冬。
「もう邪魔されたくないの。消えてくれる?」
楽器店の看板娘、紀子を名乗る女はそう言って姿を変える。
黒い羽のようなものが次から次へと生えてきて身体を覆う。
口元、唇周りだけ白く、それ以外は真っ黒な羽。
まるでカラスだ。
手をこっちに翳すと、飯田と佐藤優子の身体に黒い羽がいくつも突き立っていた。
「大丈夫!」
飯田はそう言うと走り出す。
何かが動いた。
黒羽女の背後に王戸ちゃんが現れたと思うと頭を蹴り上げたが……逆に足を掴まれ二十メートルは投げ飛ばされる。
デアソードを構え飯田に合わせて俺も前へ出る。
横から佐藤優子、俺に並ぶ。
羽が刺さったままだけど平気なのか?
飯田が尖った腕で黒羽女を殴ったが、金属音がして弾かれバランスを崩す。
デアソードが光る。
突き! 喰らえ!
痛ぇ!
岩を突いたような衝撃で手首が痛い。
佐藤優子に抱えられ横へ体が浮く。
そのまま後ろの柚木にフリースローみたいに投げられ宙へ。
柚木は俺を受け止め髪の毛でガード。
黒羽がそれに弾かれる。
飯田が西洋甲冑みたいな姿で俺の前に。
王戸ちゃんはやつの足狙いで突っ込んできた。
足首を掴まれ姿勢を崩す黒羽女。
飯田が飛び乗り押さえつける。
王戸ちゃんも足に絡みつく。
今だ!
デアソードを突き立てようとした瞬間。
横へ体が飛ぶ。
佐藤優子が俺に体当たりしたんだ。
彼女の身体を貫く灰色の、触手。
黒羽女の脇腹から伸びてる。
「この!」
駆け寄り触手を斬る。
斬れた!
「瑛子! 佐藤さんを」
瑛子が彼女の身体に手を当てているのを確認。
飯田と王戸ちゃんが触手に巻きつかれていた。
「こなくそっ!」
斬る!
斬る!
「ぐえ」
息ができなくなる。
首に巻きつきやがった。
飯田が握り潰す。
助かった!
斬る!
とにかく斬る!
触手は一本斬るたびに一本生えてくる。
きりがねぇ!
デアソードを持つ手に力が入らなくなってきた。
奴らの演奏か!
黒羽女の唇が笑ってる。
あーくそ!
その時。
黒羽女の胸に大穴が開く。
なんか知らんがチャンス!
その穴にデアソードを突っ込み、下から奴の頭を貫いた。全体重をかけて。
黒羽女は動かなくなる。
「生命反応が消えました」
見上げると柚木。そして仁科亜矢子?
「この人が空間に直径十五ミリほどの穴を開けてくれたので、武装監視衛星に質量弾を撃たせました。五十グラムの弾頭を秒速千メートル、二万五千ジュールの一撃です」
「お、おう。あ! 佐藤さんは!」
「無事よ、お兄ちゃん。吸血鬼のしぶとさね」
佐藤優子は意識がないのかぐったりしたまま。
「飯田! 王戸ちゃん!」
「大丈夫」
「私も何ともありません!」
仁科亜矢子が覗き込んでくる。
「お前さん達だけで仕留めるとはねぇ。おかげで俺様の手間が省けたぜ」
「……?」
「その女に取り憑いてたのが俺様のターゲットだよ。傀儡にまでされやがって。同族の面汚しが」
黒羽女の頭を蹴る仁科亜矢子。
あれが悪魔の強さ……強すぎるだろ。
「その人が穴を開けてくれたおかげで各所へ通信も出来ました。アンネさんと飯田さん、王戸さんのお家です。アンネさんが各機関へ連絡してくれます」
「苦労して開けたんだが、今は塞がれてる。チッ。大した術者が仕切ってるな、ここ」
仁科亜矢子が空を見上げて吐き捨てるように言う。
「さっさとあの演奏を止めないとな」
「ひっ」
「王戸ちゃん?」
肩に乗せられる手、手?
長い爪が、でもこれってまるで。
「◯◯君、やるねぇ」




