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俺が通う高校は人外魔境だった  作者: はるゆめ


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ep.44 この宇宙の片隅で

 昭和のいつか。どこかにある高校。 季節は冬。

 冬休み前の終業式は長かった。

 臨時休校が続いたので三年生は休み中も補習がずっとあるそうだ。


 さて冬休み。

 バンドの練習日程が詰まってる。毎日三時間はスタジオにて缶詰だ。


「◯◯先輩、今日は顔合わせです」

「へいへい」


 俺たち『アナザーワールド』含めて五つのバンドがスタジオに集まった。

 この前出会った『感情警察』以外は普通のバンドばかりで、俺があまり好きじゃないニューミュージックコピーをやるらしい。


 ニューミュージックねぇ。名前を変えたフォークソングか演歌だろ。

 元は女々しいフォークソングを歌ってたのに何を勘違いしたのか途中から『俺はロックだ』と宣うシンガーとか。


 けど歌詞の内容は以前と変わりなく、アレンジが変わっただけ。おめでたいな。

 俺は音楽に慰めて貰おうとは思わん。


『感情警察』の面々も無口で俺と同じように浮いてる。流行ってきたとは言え、こんな地方じゃ聴いてるやつ少ない。


 居心地悪いので喫茶店でのだべりは遠慮して俺はさっさと帰ることにしている。瑛子が住む祠の裏にある森でデアソードの素振りをやっているからだ。


 俺の冬休みはこうして過ぎていく。


 そんなある日。


 柚木由香里の家に招かれることになった。

 俺、佐藤優子、飯田奈美、黒瀬瑛子、王戸めぐみの五人。

 とにかく立派ででかい家だ。


「皆さん、ようこそ我が家へ。パパとママは開店二十周年の記念旅行でいません。店の常連さん達と一緒にハワイへ出かけてます」 


 へぇ豪勢なこった。さすがは高級クラブ。

 柚木に案内された応接間には一人の女性が待ってた。


「こちらは私の同僚です。水星探査任務に就いていましたが、一段落ついたのと、私のサポートに来てくれました」


 まるでスポットライトが当たったように背景から浮いて見えるこの感じ。柚木も最初はこうだったのを思い出す。


 ザ・色っぽいお姉さんって感じだ。ありとあらゆるパーツが男の目を惹きつけるように構成されている。

 そしてどことなく柚木に似ている。親戚だと言われても違和感がない。


「うちの店で働いてもらう関係上、大人の身体にしました」

「皆さん、よろしくお願いします。店ではエミリと呼ばれています」


 声まで色っぽい。そして優雅な仕草で頭を下げる。

 横を見ると三人とも面食らってるみたいで無言だ。


「同僚ね」


 佐藤優子が歩み寄り、エミリを見つめる。


「血を分けてくださる?」


 え?


「どうぞ」


 あっさり承諾したエミリの首に、佐藤優子がキスするように唇をあてる。

 少しドキドキする俺。なんかエロい。


「ご馳走様。人間と全く同じね」

「柚木由香里の遺伝子情報をベースにしましたから」

「私が出産しました。いやぁ大変でした」


「ええええーっ!!!!」


「あれ?培養するって先輩に言ってませんでしたっけ? 私の子宮内で全て行いましたよ。圧縮して受精から出産まで三日、その後は彼女自身が身体を成長させました」


 こともなげに爆弾発言をする柚木に俺たちは言葉が出ない。

 処女懐妊ってやつだ。


「それで彼女の役割は」


 エミリの輪郭がモヤと化すと消えた。

 かと思うと、やたら背が高く、大人びた姿へと姿を変えた柚木。


「このように私と融合し、肉体を強化します。大抵の事態には対処出来ると思います」


 微笑む柚木。成長して大人になったらと思わせる姿。艶っぽい。


「これで戦闘面での脆弱性を解消出来ました」


 踊るように回り、ポーズを決める柚木はバレリーナみたいだ。


「……宇宙テクノロジーすごすぎる」


 やっと言えたのがこれ。俺、動揺してる。


「さ! 皆さん、コーヒーでいいですか?」


 もう二人に戻ってた。エミリが応接間を出ていく。


「あなた達の造物主は随分と発達した技術を持ってるのね」


 瑛子が感心したように言う。


「地球人類も不慮の事故で滅びなければ、あと二百年で実現出来ますよ」


 エミリはそう答えるが、思ったより近未来だった。文明の発達は産業革命以降、加速度的に進んでいる。

 昔の人が想像した「百年後の世界』などは悉くトンチンカンなものだ。なぜなら技術は何かをきっかけにすると爆発的に発展し、世の中を塗り替えるから。


 その何かは、重大な発見だったり、発明だったり。

 或いは戦争。

 ジェット旅客機に乗って短時間で外国へ行けたり、レーダーがあったり、宇宙へロケットを打ち上げたり。

 それらは第二次世界大戦がもたらした技術の恩恵だ。

 だから二百年後の未来なんて見当もつかない。


 米ソが軽はずみなことしなければいけるか?

 それか巨大な隕石。疫病。文明を滅ぼすと想定されるものは幾つかある。頼むぜ人類。乗り越えてくれよ。


「◯◯君、大丈夫?」


 飯田が心配そうに話しかけてくる。


「あーちょっと人類の未来に思いを馳せていたところだ」

「柚木さんには驚かされてばかりだね」

「ほんとにな。あれはもう魔法に見える」


「お待たせしました。どうぞ」


 柚木がコーヒーにケーキを出してくれる。女子はケーキ好きだよな。


「佐藤先輩のお母様に負けないよう、私も頑張りました」

「すごいテクノロジーの無駄遣いな気がしてきた」

「そんなことないですよ。食も貴重な文化ですから」

「で、エミリを紹介したかっただけか?」

「いえ、もうひとつ。この街の上空に武装監視衛星を待機させました」

「な、なんだそれ」

「エミリが幾らかの資源を持ちこんでくれたので、この街で手に入る材料を足して作り上げたんです」

「衛星軌道までよく打ち上げたもんだな」

「上空二百メートルですよ?」

「低っ! て言うかそれ大気中だろ」

「即応性を重視しました」 

「見つからないのか?」

「野球のボールほどの大きさですので」

「ちっさ!」

「大きいと目立ちます」

「それはそうだが……。何が出来るんだ?」

「そこそこな威力の各種ビームと質量弾を少々」

「その大きさで撃てるんだ……」

「次元接続でステイシスフィールドと連結してますから、その気になれば超新星爆弾も落とせます」

「地球が吹っ飛ぶじゃねえか!」

「もちろんそんなもの落としませんよ」


 佐藤優子と飯田奈美、王戸めぐみ、それに瑛子が説明を求める目を俺に向ける。


「あーつまりだな、ステイシスフィールドってのは、時間の流れを極端に遅らせた空間だ。そこに入れたものは劣化しない。柚木の説明だとその衛星と繋がってて、そこから色々な武器で攻撃出来るってこと」


 知ってはいたけど、それをこともなく使う柚木がすごすぎる。


「超新星爆弾ってのは、あー、太陽よりずっと大きくて重い恒星が最後には爆発するんだ。その恒星の規模にもよるが太陽系なんかはすっぽり入る大きさの爆発だ」

「さすが◯◯先輩です」


 全員柚木の方を見る。


「それを使えるってだけで、使う機会はないでしょう。河野涼子さんが呼び出そうとしてたあの生命体がこの地球を飲み込む規模にまで成長しそうでしたら、躊躇せず使用しますが」


 やばいやばいやばいやばいやばいやばい!

 よし! 頑張ろう! 絶対地球を守るんだ! そうしないと柚木に滅ぼされるぞ!


「なかなか物騒な話をしてるじゃねぇか」


 仁科亜矢子。

 普通にいる。当たり前のように。


「そのお嬢さん、出自はアンドロメダの真ん中あたり、宇宙の監視者ってやつらの差金か」

「私の母星を知ってるんですか?」

「知ってるよ。俺たちの娯楽には向かない星だがな」

「柚木と話をするために来たのか? 仁科」

「いや違うさ。お前さん達、河野涼子の居所は突き止めたのかい?」

「……まだだ」


 全く見当もついていない。


「吸血鬼さんの捜査も大したことないのかねえ」

「そう言うお前はお仲間を見つけ出したのかよ」

「くくく。残念ながら俺もまだなんだよ」


 お嬢様然とした仁科亜矢子が口を歪めて笑い、この口調で喋る違和感に慣れない。


「いざとなれば俺も協力するのはやぶさかでもない。ま、頑張って見つけて阻止しろよ」


 いつ間にかケーキを食べている。それ俺のだぞ!


「こりゃ美味いな。まっせいぜい励めよ」


 そう言って跡形もなく消える。神出鬼没なやつが多くないか?

 やつがくれたヒント『違和感』はどこにあるんだ?

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