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俺が通う高校は人外魔境だった  作者: はるゆめ


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ep.43 ままならないことも多々ある

 昭和のいつか。どこかにある高校。 季節は冬。

 期末テストが始まる。 

 数学と化学以外はまぁまぁ。

 普通科高校イコール進学校、俺は予備校だと思っている。

 だから成績さえ良ければ少々の素行不良もお咎めはない。などと考えつつ陸上部の部室へ顔を出す。

 冬休みなどの休暇前はそうしなきゃならない。


「◯◯君、久しぶり」


 加藤弥生である。


「加藤も元気そうだな」

「私はいつも元気だよ」


 同学年の中根と原もいる。

 中根は不機嫌そうな顔して俺から目を逸らす。

 ああ、ショッピングセンターで飯田由美に突っかかってた修羅場に俺が居合わせてたからか。そりゃ罰が悪いだろう。


「◯◯先輩、これを」


 よそ行きモードの瑛子がプリントを差し出す。


「お、サンキュ」 

「◯◯君、終わったらヤマサキでタコ焼き奢りね」 

「加藤、何だよ突然に」

「前に言ったでしょ。ずっと奢りだって」

「あーそうだったな。へいへい」

「あ、瑛子ちゃんもね」

「◯◯先輩、ご馳走になります」


 その時だった。


「チッ、幽霊部員がイチャコラしてんなよな」


 中根である。

 鬱陶しいから無視。


「ちょっと中根君、何それ」


 加藤が反撃。おー言ってやれ、言ってやれ。

 瑛子の目が怖い。君は黙っとこう、な?

 祟るなよ?


「なんでもねぇよ」

「感じ悪〜い」


 俺は知らん顔。前々から中根が俺を見下してるの知ってる。

 ナルシスト型カッコつけマンである中根からすれば、その辺に無頓着な俺はさぞかしダサい存在だろうよ。

 だから俺は無視する。関わらないのが一番。


「集まってるな。始めるぞ」


 顧問が入ってきた。


 まごうことなき幽霊部員をやってる俺。実はデアソードを使いこなすために剣道部へ入ることを考えている。何か鍛えておかないと、そんな焦りがあるからだ。

 そうなれば陸上部はやめないとな。


 陸上部ミーティングが終了したので、名物激安タコ焼きの店ヤマサキへ。


「さっきの中根君、感じ悪っ!」

「俺は気にしないから加藤も気にするな」

「◯◯さん、私もひどいと思います」

 

 実は俺、他人行儀モードの瑛子がお気に入りだったりする。


「いいんだよ。見下したいやつにはそうさせとけばいいの。何も実害ないし」


 これは本心。俺が反応すればあいつの思うツボだ。


「あ、うちのクラスでも騒がしかったけど、全校集会のこと」

「誰も覚えてないってやつだろ」

「うん。何となくだけど瑛子ちゃんが助けてくれたって思うんだ。何でだろう」

「ほう? 詳しく頼む」

「う〜ん、私たちが危ない目にあって、それを瑛子ちゃんが止めてくれた感じ?」

「私は倒れた人の手当てをしただけです」


 瑛子と浅くない関わりがある加藤には細部はわからなくても、本当のことがうっすら残ってるのもあり得る話か。人の脳はまだまだブラックボックスだし。


「黒瀬は女神みたいだからな。加藤がそう思うのも無理はないよ」

「◯◯君、すごい例えをするねぇ。女神って……」


 加藤が笑い、瑛子は照れたような顔になる。

 いいのだ。こうやって地道に信仰を広めていけばいい。


「中根君も時々瑛子ちゃんをじとーって見てるもんね」

「へぇ。だからあの発言か?」

「だと思うよ」


 河野涼子による仕掛けだから、中根も被害者ではある。酒巻と同じやり方で誘導されたんだろう。少し気の毒ではあるが、催眠や洗脳じゃないから同情は出来ない。


「お、忘れるところだった。まだ先だがな、春休みに商店街のステージで俺たち演るから加藤も来てくれ」

「一年女子のバンドよね?」

「そうだ。チケット買ったら椅子に座れる。他校のバンドも一緒にだ」

「◯◯君のバンドはうるさい音楽だからどうでもいいけど、他のは何かな?」

「うるさい言うな。まだ顔合わせもしてないから全然知らん。工業高校や商業高校のバンドだけど」

「それなら行く! ◯◯君、声援欲しい?」

「それはやめてくれ」

「あれぇ? 照れてる? なら友達誘ってみんなで声援送るよ!」

「加藤! 頼む! やめて」

「楽しみ〜」

「それとな、加藤と黒瀬には言っとくか。俺、剣道部に入る」

「ええ!? どういうこと」

「心境の変化だ」

「◯◯君が剣道? 似合わな〜い」

「似合う、似合わないで部活はしない」

「陸上部やめちゃうの?」

「そうなるな」

「寂しくなるなぁ。あ! でもヤマサキでの奢りはよろしく!」

「へいへい」


 翌日。

 剣道部へ入部するのは諦めた。

 部活スケジュールとバンドの両立が無理だったからだ。 

 我が校の剣道部、けっこうな強豪校だったの知らなかった俺のミス。


 先に陸上部の退部手続きしたので、今日から俺は晴れて帰宅部だ。


「何やってんの」


 加藤が呆れ顔。

 今日もまたヤマサキに、加藤、瑛子、俺の三人。 


「内申書……」

「あはは! 入試で頑張ればいいんだよ」

「加藤は簡単に言うなあ」

「◯◯君はどこ志望?」

「うちの親と話したんだけど、条件に合うのは地元国立か隣りの県の文系私立しかない。でも俺数学が絶望的だから国立は無理」

「ふ〜ん、もう決まってるんだ」

「加藤は決めてないのか?」

「私は地元の短大かな。保母さん志望」

「似合いそう」

「子ども好きな加藤さんにピッタリです」


 それから俺たちは解散。別方向の加藤とはそこで別れ、瑛子と並んで帰る。

 途中で中根とすれ違うが、その際また舌打ちしてた。ご苦労なことだ。


 自宅前で瑛子が聞いてきた。


「お兄ちゃん、剣道部に入ろうとしてたのは……」

「デアソードを使いこなすためにな」

「やっぱり」  

「あのさ瑛子、ずっと気にはなってたけどさ、聞いてもいいか? 鈴木留美子の時のこと」

「う、うん」


 俺も瑛子もあの時のことには触れなかった。

 そろそろ聞いてもいい頃じゃなかろうか。


「瑛子がさ、耳元で『ごめん。お兄ちゃん、奥の手』と言った途端、意識が飛んで。気がついたら俺、人間離れしたことやってた」

「うん」

「あれは何をしたのか、教えてほしい」

「……あれはね、神降しの初歩的なもの。私の力を少しだけお兄ちゃんに降ろしたの。肉体の限界以上のことが出来る代わりに魂を、少し、ほんの少しだけ削る」


 予想通りかな。


「気にするな。そうでもしなきゃ俺たちやられてたよな、あの時」


 倒した後。巨大な鈴木瑠美子の身体はまず青銅色に、次に緑青錆が広がるように変色、最後には砂鉄の山へと変わった。

 瑛子が言う混沌と破壊の神の力によってまともな生き物ではない巨人となった鈴木留美子。


「だからさ、俺は何も思わない。それがあの場で取れたベストな選択だったんだろう?」

「お兄ちゃんの魂を少しだけとはいえ削ったんだよ?」

「それで寿命が十年ぐらい縮んだとしても、あの場で身体を乗っ取られるより百万倍マシだ。考えるまでもない」

「……あれはもうしない」

「そうなるようなことが起きないことを願うよ。でもな、またあそこまでの危機に直面したら遠慮なく使ってくれ。何もせずやられるよりずっといい」


 俺がダメ出しをするタイプのホラー映画。

 モンスターなり幽霊なりに襲われた側が、キャアキャア悲鳴をあげ逃げ回るだけで、一方的に蹂躙され、何一つ反撃しないパターン。

 たとえ敵わなくてもいい、せめて一太刀浴びせるぐらいのことをしやがれ!と思ってしまう。

 猫に追い詰められたら、ネズミだって噛むぞ?


「お兄ちゃんが危ない目に遭わないように、私が守るから」

「それはそれでありがたい。けど俺も何もせずにはいたくないんだ、わかってくれるか?」

「……うん。でも無茶はしないでね?約束して」

「別にヒーロー願望はないからな。ヤバければ逃げるさ」


 俺はただの男子高校生だ。それ以上でもそれ以外でもない。

 ずっと怪事件に巻き込まれ続けて改めて思ったんだ。逃げるが勝ちってこともあるって。


 しかしおかしな出来事は遠慮なく俺の生活をぶち壊してくるんだよな、これが。


 彼女が欲しい。

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