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俺が通う高校は人外魔境だった  作者: はるゆめ


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ep.28 平和な日々

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初冬。


 授業の合間、休憩時間。

 酒巻と俺はいつものグランドウォッチング。


「◯◯聞いたぞ」

「何が?」

「お前ぇ、女子バンドにぃ入ったって〜」

「なんで知ってるんや」

「サッカー部の後輩から。そいつがバンドメンバーと付き合ってて『◯◯さんって知ってますか?』と訊かれてな」

「あーそっちからかー」


 酒巻はニヤニヤしながら続ける。


「可愛い子ばっかりらしいな」

「さぁ」

「なんだなんだ? 照れてるのか」


 初練習を一緒にやってもう一週間。

 彼女らはそこそこ上手い。

 それはいい。

 問題は練習が終わってから、楽器店の向かいにある喫茶店へ入ってからが辛い。


「◯◯さん、付き合ってる人いるんですか?」

「黒瀬瑛子さんと仲良いですよね?単なる陸上部の先輩後輩の関係じゃないって」

「私は飯田由美のお姉さんと仲良いって聞いたけど?」  

「本命は誰です?」


 そんな話題しかないのかね? 君達は。

 そうでなくても下級生女子と喫茶店でダベるのはきつい。辛い。


 一応リーダーの河野涼子に苦情を入れたが効果無し。ちなみに酒巻に俺のこと尋ねたのはこの子の彼氏だ。


「でも◯◯さんのドラム、凄いですね」

「スティックが太い」 

「ドラムに引っ張られてますね、私たち」

「すまん、走るのは俺の癖なんだ」

「いいですよ、モタるよりずっと」  


 走ると言うのは段々とリズムが速くなると言う意味で、モタるはその逆。

 どちらもよろしくない。


「んじゃ俺帰るから」

「あ、◯◯さん、これ後で読んでおいてください」


 河野涼子が封筒を手渡してきた。

 黙って受け取りカバンにしまう。


 冬の日暮は早い。我が家の隣にある祠。そこに瑛子が立っていた。


「おかえり。お兄ちゃん」

「おう、ただいま……って何か用か?」 

「その手紙」 

「例の下級生だよ」


 河野涼子のバンド『アナザーワールド』に入ってから渡されるようになった手紙。

 差出人は名無しの一年女子。

 内容は読んでてこっちが恥ずかしくなるような俺への賛美、そして彼女の想いが綴られている。


 最初はドッキリだと思って河野涼子に確認すると「彼女は本気なんで」と、えらく真剣な顔で言われた。


 別にこの手の手紙をもらうのは初めてってわけじゃないが、名前も名乗らず何通も渡してくるのは怖さも感じる。


「河野涼子が渡してくるんでしょ?」

「見てるから知ってるだろう……」


 俺には二十四時間体制で瑛子の使い魔が密着している。

 見た目こそ童女だが中継機能有り。


「あの子は『恋のキューピッド』、略して『恋キュー』って呼ばれてる」

「世話焼き?」

「特定のグループに属さず顔が広い。だから色々とそういうことしてる」

「河野涼子はそのタイプだったか」


 男子にはあまりいない、友人の恋に協力するタイプ。


「でもカップルの成立は少ないし、付き合ったけどすぐに別れた人も」

「成功率なんて高いもんじゃないだろう。意中の子にはフラれて意識もしてない子から告白されたり。世の中そんなもん」


 俺の勝手な偏見だが。


「だから私は河野涼子が苦手。縁結びやるならちゃんとしなさいよって」

「瑛子は出来るの?」

「お祈りされたらするよ? お兄ちゃんも私と結ばれるように祈ってくれたらいいのに」

「それ……インチキじゃねぇか」

「だって」

「何を気にしてるかしらんけど、名前すらわからん、しかも年下。何も起こらんよ」


 翌日。教室にて飯田奈美に話しかけられる。


「バンド、始めたんだね」

「それなんよ、飯田。聞いてくれー」

「え? どうしたの」

「何と俺以外は一年女子」

「うん知ってる。妹に聞いたから……」

「そこはもう諦めて開き直ってるがな。練習の後に拷問」

「◯◯君……拷問されてるの」

「精神的な方な。女子の雑談に混ざる俺の気持ちわかる?」

「あ、うん」

「歌番組の話とか芸能人のこととか、誰と誰が付き合ってるとか」

「女子は大体そうだよ」

「心底どうでもええわ。あいつら読書しないしSF映画も見ないし」

「あ……うん」


 酒巻が入ってくる。


「贅沢は敵だぞ! ◯◯」

「なーにが贅沢だ。俺はだな、あの宇宙モンスターの続編の話でもしたくてだな」

「はいはいストップ。そんなこと言ってるから彼女出来ないんだぜ」

「お前も一緒やん」

「ふふふ……」

「な、なんだ酒巻」

「今週末はデートなんだ、俺」


 酒巻が! 

 デート?


「……相手は誰だよ?」

「一年の子だよ」

「それ、美人局じゃないのか」

「アホか! 高校生がそんなことするか」

「チッ。じゃあドッキリだな」

「妬くな妬くな。来週月曜日を楽しみに待つんだな、◯◯」

「へいへい」

「酒巻君、モテるから」 

「飯田、何か知ってるの?」

「バスケの後輩や妹によく聞くよ。人気あるんだあの人」

「エロエロ小僧、いやエロおっさんなのにか!」

「サッカー部の人は皆んなモテるよ。商業の子にも」


 酒巻がどこか遠くへ行ってしまった。


「お、そう言えば」

「な、何?」

「飯田の妹ってさ、河野涼子と同じクラスだよな?」

「河野……?」

「バンドのリーダーだよ」

「あの子ね、うん、そうみたい」


「何か用ですか? ◯◯先輩」

「びっくりしたぁ!」


 飯田の妹、飯田由美の登場である。

 不意打ちで登場する女子ばかりだが、この子の場合、恐ろしく速く移動したんだろう。仕組みが分かってるだけまだマシか。


「河野涼子ってさ、恋キューって呼ばれてるんだって?」

「そうですよ」

「昔から?」

「いえ、中学に入ってからです。小学生の時はコックリさんをやってるような暗い子でした」

「オカルト少女が恋のキューピッドに変身か」

「私はあの子、苦手です」

「お? 瑛子と同じか」

「黒瀬瑛子さんの理由は知りませんけど、あの子はしつこくて」

「何が?」

「『好きな人いる?』って訊いてくるんです。何かの拍子に」

「女子ってそんなんばっかりやん」

「違いますよ。それにあの子と私、そんなに仲良くありませんから」

「はぁなるほどな」


 河野涼子はやたらとお見合いを勧めてくる親戚のおばちゃんということか。


「◯◯先輩にも手紙を届けてるでしょう?」

「え? そうなの? ◯◯君」

「飯田くん、落ち着きたまえ」

「その子にも『◯◯先輩がバンドに入ったから、わたしが間を取り持つよ』ってこそこそ話してました」

「耳が良いもんな、君らは」


 飯田姉妹の前では隠し事は無意味だ。聴覚以上に驚異的な嗅覚がある。


「その子が誰か知りたいんじゃないですか?」

「それは違うな。本人が名乗らないなら聞く気はない、知ろうとも思わない」

「そうですか。私は三人も彼女がいる◯◯先輩にその子を焚き付ける河野涼子が好きになれません」

「飯田由美くん、何か変なこと言ったね?」

「じゃ、私はこれで」


 見ると飯田奈美は顔を赤くしていた。コタツみたいだ。

 河野涼子よ、お前さんの目論見は最初から失敗なのだ。

 俺はもうそういう気は失せてるんだよ。

 鈴木留美子のこと、忘れたら可能性あるかもしれんが。 


「◯◯君……」

「あー心配無用だ」


 そこへ河野涼子がやってきた。 

『ねぇねぇ彼女できた?』と聞いてくる近所のおばちゃんみたいな表情してる。


「あれえ? 良い雰囲気ですねぇ。やっぱり噂は本当だったんですかぁ?」

「アホなこと言うなよ、河野。飯田とは付き合い長いんだよ。何か用か?」

「私、急用が出来たので今日はお休みです」

「ほい了解。明日は?」

「いつも通りです」

「わかった」

「それと先輩にドラムを教えて欲しいって子がいるんですけど

「はああ? 俺に?」

「私と同じクラスの子です」

「それ無理。俺は独学の自己流。譜面も読めないの知ってるだろう」

「それも説明してます。どうしても◯◯先輩に教えて欲しいそうです」

「絶対無理……もしかして手紙の子?」

「別の子です」

「悪いけど断っておいてくれ」

「わかりました。あとこれを」


 いつものように封筒を手渡される。


「河野も世話焼きだな……」

「命短し恋せよ乙女ですよ」

「人生長いからそうとも限らないと思うけどな」  


 今でも仲が大変よろしい両親を思い浮かべる。

 結婚は人生の墓場? それは自分自身で招いているのさ。知らんけど。


「それじゃ」


 足早に去る河野涼子の後ろ姿が消えた時。


「あの河野って子、使命感が凄いよ」

「匂いで嘘はつけない……か」

「人のために一生懸命になれる子なんだね」

「あれな、多分あの子自身の楽しみでやってると思うぞ」

「そ、そうかな」

「もちろん百パーセントじゃない。もし零パーセントなら本物のキューピッドさ」


 帰宅して開封した手紙の内容。それに俺は少々驚くことになる。

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