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俺が通う高校は人外魔境だった  作者: はるゆめ


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ep.21 子どもの俺は非力である

 昭和のいつか。どこかにある商店街。季節は初秋。 


 あれから二日経った日曜日。俺、飯田奈美、黒瀬瑛子、佐藤優子とアンネさんの五人は商店街に来ている。

 いつもいつも佐藤優子の家に押しかけるわけにはいかないので、今日は楽器店のスタジオを借りることにした。


「お?◯◯君、女の子四人も連れて……乱行パーティでもするのかい?それは困るよ」

「おやっさん……高校生に言うセリフじゃないですって」


 娘が五人もいる店長に言われたくない。向かいの喫茶店じゃ、この人は種馬って言われてるの知ってるぞ、俺。


「最近の高校生は進んでるからねぇ」

「ちょっと込み入った話をするのに誰にも邪魔されない場所が必要なんで」

「ほほう。それなら修羅場かな?◯◯君はモテモテだねぇ」

「違います」

「はい、スタジオの鍵。十二時までだね?」

「はい。延長は多分ないです」

「バンドの方はどう?」

「やっぱ学校があんなことになって、メンバー全員やる気が……」

「そうか。それは仕方ないよね。その気になったらいつでもおいでよ」

「その時はよろしくお願いします」


 髭が似合う楽器店のオーナー兼店長。何かとお世話になっている。

 スタジオのドアを開ける。懐かしい匂い。俺のドラムセットにアンプが数台。


「私、こういうとこ初めて入った」

「飯田、普通はそうだろ」

「これがお兄ちゃんのドラムセットなの?」

「おうよ。実はな……俺、元々ここに置いてあったドラムセットを壊しちゃったから……」  

「ええ?」

「いや、シンバル二枚に亀裂が入ったのと、バスドラムのビーター、ほらこれ、足で踏むやつな、これが壊れてなぁ」

「◯◯君も相当人間離れしてるんじゃないの?」

「吸血鬼さんにそう言われると複雑ですけど……人間の範疇にいます……たまによくあるんです」


『◯◯君はうちのスタジオに恨みがあるのかな?』


 あの時の店長の目が未だに怖い。弁償はいらないと。俺は申し訳なさすぎるので、自分のドラムセットをここに提供することにした。バカ高いシンバルなので割れることはない。ウッドビーターにチェーンペダルだし。


「ここは防音スタジオなんで、秘密会議向きってわけだ」

「そうね。音が漏れないってのはいいわね」

「誰か外に出て確かめてみる?」

「あ!私!」


 可愛く手を上げたと思ったらアンネさんが外へ走り出る。


「えっと、みんなちょっと耳を塞いでてくれる?特に飯田」 

「う、うん」


 飯田は嗅覚だけじゃなく聴覚もすごいからな。

 俺はまずスネアを軽く叩く。そしてクラッシュシンバル。


「すごい音……」

「外に逃げないからね、音が」


 アンネさんが入ってきた。


「ちょっとだけ聞こえたけど、話し声なら絶対漏れないね」

「よし。早速反省会始めよう」


 まず瑛子の爆弾発言から始まった。


「お兄ちゃんの魂に異物が混ざっているよ」

「……予想はしてた。どんな感じだ?」

「お兄ちゃんの魂に楔が打ち込まれてる感じ」

「あの時だな。もしアンネさんの応援がなかったら……そのまま乗っ取られてオシマイ……怖っ!!」


 鮮明な風景の記憶。それと感情。自分のものみたいに認識している。


「多分だけど鈴木瑠美子が生まれ変わるのに、相性というか適性があるんだと思う。誰でもいいわけじゃない。俺の仮説。『適合体』とか言ってたろ?」

「◯◯君に拘る理由にも納得出来るわね」


 俺が見た光景を話す。

 どこか地球じゃないっぽい砂漠の風景。

 たくさんの動物の死体。それは同胞ということ。

 次は多分、狼の記憶。狐を狩ってた。

 その次は昔のヨーロッパみたいな麦畑。いつの時代かはわからん。

 そしてあれは昔の日本。SL、蒸気機関車の客車だ。人々の服装からして大正あたりか。

 そしてトンネルを抜けた瞬間に差した陽の光であの砂漠を照らす太陽を思い出した。


 そして問題の最後にみた光景。


「あれはナチスドイツだった。それの科学班?ていうか研究所の記憶だったよ。秘術とか言ってたな。人体実験とかなんでも有り。吸血鬼の実験もしてた。だからもしかしてアンネさんかなって」

「そもそもナチスになんか関わらないよ。あいつら頭おかしいのばっかだし。もしかしたら、それは姉かも?」


 姉妹いるのか。


「似てる?お姉さんと」

「結構似てるって言われるよ。髪の色も瞳の色も一緒だから」

「鈴木瑠美子はお姉さんに何かしてたか、何かされたかと思います」

「ふ〜ん。そうなんだ。ナチスにねぇ」

「鈴木瑠美子は地球じゃないどこからか、何かの手段を使って地球に魂だけやってきた存在。元々はあのウサギっぽい生き物の女王的な存在。次々と生まれ変わって、今に至る……」


 この地球で同胞を増やして繁栄を願う強い意思。


「同胞を増やすって考えてた。まるで女王蜂だよな……」


 あの宇宙モンスターのクイーンを連想する。


「増やす方法、あの寄生虫アンテナを仕込んで中身を入れ替える……。受信するのはあの生き物達の魂か」

「どこにも行けない魂はね、次第に哀れな存在に成れ果てる……。お兄ちゃん、あいつらは歪な形で留められてると思うんだ」


 沈黙が支配する。


「瑛子の言う通りだとすると、元々歪に入れられた魂だ。最初はいいとして段々とおかしくなっていくとしたら?身体の形態も文化も何もかもが違う生き物になって。それ、耐えられるかな。俺があの生き物になったと考えたら、正気を保つ自信ない」


 佐藤優子を見る。


「佐藤さんが町で見かけた変な血の匂いがする人々。もう頭おかしくなっているから、まともな食事をしていないし、人間らしい感情もないから体内が相当おかしなことになってる。だから血の匂いが変になる」


 飯田は何かに気がついたような表情をする。


「じゃあ他の三人は……。普通の人だったよ」


「おそらく血縁者。何代も遡れば人類は親戚だらけになるよ。それで考えると鈴木瑠美子の子孫ってそこそこいるんじゃないかな。遺伝子に少しだけ自分の魂の欠片を入れるなりして、味方になる子孫を増やしたんだ。ずっと時間をかけて。日本で何度も生を受けたそうだからな」


 そうだとすると以前の疑問がまた浮かぶ。

 ここまで用意周到に準備が出来るなら、今になってこんな性急で大胆、見方によっては杜撰なやり方をするのは何故だろう。

 人知れずにやるのは簡単に思えるが。

 あと五十年もすれば、もっと技術も進歩するだろうから、さらに確実性が上がるはずなのに。


 ここで目立って何かいいことあるのか?


「急がなければいけない理由がある……かしらね?」

「佐藤さん、それだ!何かわからないがタイムリミットがあるんだ」


 そこまでわかると俺は今になって気がつく。


「これ……俺たちでどうにか出来るスケールを遥かに超えてるよ。相手がデカすぎる」

「だからアンネに来てもらったのよ」

「え?どういうこと?」

「私の父がね、日本政府と、ほら、知り合い?」


 微笑むアンネさん。ちくしょう可愛いな。佐藤優子が前に言ってた吸血鬼の人脈。政府やその背後にも。


「◯◯君……私も関わったから、私たちの一族からも国へ報告が行ってるんだ」

「そっちも?」

「うん。けど私に一任されたの。一族としては介入しない」

「それはわかる気がするな。波風立てたくないんだろ?」

「うん、そう」


 アンネさんが俺の顔を楽しそうに覗き込む。


「だからね、◯◯君。一緒に東京行こ?」

「え、アンネさん、そんな気軽な旅行みたいに」


 この人お気楽すぎない?


「パパや政府と警察庁、それぞれののお偉いさんと会ってもらうよ?」

「……マジですか、それ」

「君たちの高校が地下に落ちた時から、彼らは動いてるのよねー」

「そうなんですか……」


 国は何でもお見通しか。


「私も行くからね、お兄ちゃん。東京楽しみ」

「瑛子……遊びに行くんじゃないからな?それで自分のこと向こうになんて説明するんだ?」


 代わりに佐藤優子が教えてくれた。


「警察庁には専門の部署があるのよ、昔から。蛇神さんもね、その管轄」


 事実は小説より遥かに奇なりだった。妄想が膨らむ。警察庁特別怪異機動捜査隊!決め台詞は『拳銃は最後の武器だ!』とか。いかん、止められん。


 でも納得だ。ただの高校生が関わるには大きすぎる事件。あとは大人の出番だろう。


「アンネさん、それで……いつ行けば?」

「いつでも?」

「え?」

「ほら、私たちならいつでもどこへでも連れてってあげられるでしょ?」


 そう言ってウインクするアンネさん。実際にやる人を初めて見たぞ。


「まぁ準備もあるから、明後日の午後でいいかな?」

「学校は……」

「もちろん手配は任せてね!」

「よろしくお願いします。俺、授業はサボっても休んだことだけはないんです」

「安心してね、◯◯君」


 あ、親になんて説明しようか?


「心配顔だね?そんなに時間はかからないと思うし、大方はこっちが説明しておくから」

「アンネさんもテレパシー使える?」

「顔に書いてある」

「え?」


 慌てて顔に手を当てたら全員に大笑いされた。


「◯◯君はね、匂いもそうだけど、表情によく出るから……」

「飯田くん、それは弁護してくれてるのかい?」

「うん。だから◯◯君が誰に対しても公平だって、わかるんだよ。周りの人にも」


 おおぅ。飯田に不意打ちくらった。

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