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ep.19 再び地下へ

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初秋。


「◯◯見ろよ、商業の女子は可愛い子ばかり」

「うっすらメイクしてるのも多いな。うちとは大違いだ」

「女子の方が多いしな」


 ここの男女比率が違いすぎるのに酒巻も俺も最初は驚いた。


「でもここじゃ野球部以外はさっぱりらしいぞ」

「サッカー部のかっこよさを見てもらうんだ」

「酒巻がんばれ。俺は応援してる」


 ここじゃ野球部だと言うだけでモテモテらしい。


「……◯◯、鈴木先輩のことは吹っ切れたのか?」

「今それ言うかぁ……まあ何ともないけどな」

「そうか」


 本当はダメージ残ってる。


「あの時はすまんかった。取り乱したけど、もう何ともない。年上が好きなのは……これからも変わらない」

「懲りない奴だぜ。黒瀬瑛子が気の毒だ」

「あの子は小さい頃を引きずってるだけで、そのうちふさわしい相手を見つけるよ」

「それはお前じゃないのかよ」

「多分違う」

「あれ見てみろ、あの子のヒップいい形」

「酒巻はキャバレー通いのおっさんすぎるだろ」

「二人とも教室でスケベな話するエロ男ねー」


 振り返ると加藤弥生。元気そうには見える。


「加藤、男がエロくなくなったら人類は滅亡するんだぞ」

「はいはい。顧問の先生から連絡よ。希望する人は市のグランドで練習出来るって。◯◯君はどうする?」

「俺はパスしとく。いよいよやる気は無くなった」

「瑛子ちゃんが寂しがるよ?」

「そりゃーない」

「あの子、ファンの男子が多いから取られちゃうかもね?」


 瑛子への信仰心が増えるのはいいことだ。文化祭でも鼻の下のばした野郎が多勢押しかけてたしな。

 と言うか瑛子め、加藤を陣営に引き込んだな。


「加藤も勘違いしてる。瑛子は確かに可愛いとは思うが、それは親戚のおじさんとして見てる目線だ。恋愛要素はない。ご理解のほど宜しく」


 瑛子に再会してからと言うもの、やたらと昔の記憶が思い出される。

 小さい頃、まるで嫁さんみたいに俺の世話を焼いていた瑛子。子どもだから大人の真似事だが、それを笑顔で見ていた母親達。俺が新聞広告の裏に書いた瑛子の似顔絵を後生大事にしていたのを見た時『妹がいたらこんな感じかな』という気になったものだ。


 再会して魅力的に成長していたとしても、それらを忘れるわけじゃないからどうにも、な。


「瑛子ちゃん、頑張らないとねー」

「そういう加藤はどうなんだ?」

「え?何のこと?」

「俺も気になるな!加藤、誰が好きなんだ?」

「酒巻君まで?そんな人いないよ」

「加藤、さっさと吐いたほうが楽になれるぞ」

「◯◯の言う通り!ゲロっちゃいな?」


 加藤は出入り口へ小走りで行ったかと思うと


「エロ男には教えないよーだ」


 と、あかんべーする加藤。実際にやるやつ初めて見たぞ。


「エロ男の称号を賜ってしまったぞ」

「酒巻にふさわしいじゃないか」

「お前もだろうよ」

「エロは地球を救う」

「だよな」

「んじゃ部活行ってくる」

「頑張れよサッカー部。部室でタバコばっか喫うなよ」

「ほっとけ。パワーの源なんだよ」


 酒巻と入れ替わりに体操服姿の飯田が教室に入ってくる。


「飯田は忘れ物?」

「そういうことにしてちょっと抜けてきたの」

「どした」

「今夜だね」

「ああ」

「◯◯君は……怖くないのかな」

「いや全然…って嘘はつけないな。怖いよ。どうしようもないほどじゃないけど」


 当事者だもん、俺。


「……私が守るから」

「そのことだけどさ、飯田、無茶はするなよ?」

「必要なら」

「この前の時、甲冑みたいに変化してただろう?」

「う、うん」

「あれが……そのいわゆる戦闘形態なのか?」

「対人戦用の……基本型。そういう研究を代々している一族がいてね……たまにそこへ習いに行くことがあって」

「刃物は防ぐ?」

「大抵のものなら、平気……かな」

「銃弾は?」

「拳銃弾までならって聞いた」

「過去に戦ったんだな、人と」

「……ずっと昔はあったみたい。今はないよ。私も経験ない……。明治の頃に私達の代表が政府と約定を交わしたから」


 それまで色々とあったのか。異民族の排除はいつの時代にもつきものだ。


「なら、余計に無理しないでほしいな。いざとなれば逃げることを優先してくれよ、飯田」

「で、でも」

「相手がただの人間なら何とかなるだろうさ。でも正体不明の奴らが相手、何してくるかわからないしな」

「……それでも◯◯君を守るよ、私」

「その気持ちはありがたいんだ、すごく。けど飯田が傷つくのも避けたい。本音だぞ?」

「そ、それはわかるよ」


 飯田は頬だけじゃく、顔全体が赤くなる。

 嗅覚で人の感情まで読み取る本人は、気持ちが顔に出まくるというのが何かおかしい。


「私はあまり無理しないかな」

「うへっあ」

「なぁに、今の声」

「佐藤さん、ドッキリはやめてくれよ」

「慣れてもらうしかないけどね」

「佐藤さん、合気道か何か習った?前見た時そう思った」

「習ってはないわね。昔からね、色々な場で少しずつ覚えて試した結果よ」


 長い時の中で自分を守るために身についた自己流というわけか。時間をかけて。


「この前の戦争が終わってからは平和なものよ。政府の中枢にもその背後にも同族がいるもの」


 ほほぉ。飯田達も佐藤さん達も政府の管理下にはあるわけだ。


「今回の件、同族の一人には伝えた。ことが大きくなりそうだから」

「そりゃあ……そうだよな」

「相手は組織だって動いてるのは間違いないでしょう?ならこちらもある程度は、ね?」

「なるほど。なら佐藤さんも無理しないでほしいな」

「あら、気遣ってくれるの?」

「俺を何だと思ってるの……。犠牲者はNG。それは前提条件」

「覚えておくわね」


 夜になった。9時半ぐらいに俺は学校近くの駐車場に自転車で滑り込む。うちの親は早寝だから抜け出すのは容易い。だからビールラッパ飲み徘徊が出来るわけだが。


 既に三人揃ってる。


「すまん、待たせた?」

「今来たとこよ」


 雑誌のデートマニュアルそのままのやり取りだ、男女逆だけど。


「お兄ちゃん、何組?」

「D組。階段すぐ横のだ。佐藤さんも自力で移動出来るけど、何があるかわからないから三人一緒に頼めるか?」

「もちろんいいよ」


 正門があったところには警官が二名立っているので、瑛子の不思議パワーで移動だ。


 目の前の風景が駐車場から教室へ。電気がついてる。この電気どんな仕掛けだ?警察官の高橋さんも言ってたな『電気が来てるのがありえない』と。


 教室は無人。


「いないじゃないかよ」

「あっ」


 突然膝をつく瑛子。


「力が入らない」


 支えようとした俺、殴られ跳ね飛ばされる。八重島に。

 俺は机と椅子にしこたま身体を打ち付けながら倒れ込んだ。

 耳鳴り。

 俺の方を見やる八重島。

 学校で見た表情じゃない。

 そのまま瑛子を踏みつける。

 やめろ。


「!」


 飯田と佐藤が後ろから羽交締めにされてる。

 田中と山本!


「ひどいなぁ◯◯君。三人も女の子を侍らせるなんて。浮気はダメだよ」


 鈴木瑠美子。

 立ちあがろうとした俺を馬乗りになって阻止する。


「しかも三人とも厄介な子たち」


 飯田は脱力したように倒れているのが目に入る。

 佐藤優子は三人に拘束されていた。喉元に当てられてるナイフ。


「やっと見つけた完璧な適合体だもの、邪魔はさせない」

「適合体?」

「そんな顔しないで。まずは血流を活発にしなきゃね」


 服を脱ぎ始める鈴木瑠美子。


「動けないでしょう?あの時にね、ちょっとだけ入れたから」


 妖しい笑みを浮かべながら、鈴木瑠美子は俺の口を塞ぐ。その形の良い唇で。

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