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プロローグ、もしくはエピローグ

「お前さえ生まれなければ」

「お前のせいだ」


 しゃがれた声が。女の冷え切った心に刃を突き立てる。憎悪そのものが地の底から這いずり出て、地獄に引きずり込もうとする。


 ぬるりと濡れた何かに足首を掴まれ、ついっと顔を向けた。赤く染まる祖父母二人が、女を見上げた。憎しみの炎を宿し、焼き尽くさんばかりに言葉を紡ぐ。


「お前のせいで死ぬ」

「間違いの子。生まれてはいけない子」

「次は、お前の番だ」


 つらつらと死に際に、元気だなと他人事のように思う。


 初めて出会った祖父母は繰り返す。次はお前が殺されるのだと。お前に巻き込まれたと。


 二人のかすれた呼吸音は、やがて小さくなり。ついには消えてしまった。無音の中で、女はようやく腰を曲げて、ぴくりともしなくなった物体へと顔を寄せた。目を見開いたまま、醜く歪んだ形相で固まっている。


「あは」


 吐息まじりに声が出た。力の抜けた手から足を外して、一歩下がる。鉄臭さが充満した部屋、酸素を吸えば肺に重くたまる気がした。


「あはははっあははははははははははっざまぁみろッッ!」


 あははは、あははは、は、ぁ。


 気が狂ったかのように、女は叫ぶ。頭が痛む、目尻から何かがとめどなく、あふれて、滑り落ちていった。



 ――月音。



 ふと、ついぞ呼ばれなかった名前が幻聴として女の頭に響いた。今となればあり得ない。


 瞼の裏に、鮮明な映像が映し出される。


 目の前に立つ者が女――月音を見つめる。悲しみと嫌悪、それから隠された感情ひとつ。


 複雑に歪めた顔に、涼やかな瞳から一筋の涙がこぼれるのを見た。かさついた唇が月音に向かって動く。儚さが美しさを増した、弱々しい声が囁く。皮と骨だけになった手が伸びる。


 お母さんって、とても――。


 それが陽野はるの月音つきねが、最後に聞いた母の言葉だった。

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