第三話 ある朝の話②
読んでいただきありがとうございます。
「うぃ~おはよう~」
「・・・・・・・・・・・」
朝六時。咲が起きてきた。
まぁ何というか予想通りで見た目が酷い有様だった。
長い髪はぼさぼさだわ。
寝間着ははだけているわ。
とういうか下はどうした!
そんな様子の咲は朝食が並んだテーブルに直行してくる。
下履けよなぁ・・・もう。
そして俺の対面の席に座ると、コーヒーを一杯。
「ぶほぉっ!にっ苦い!」
「ぷぷぷっ」
まんまと引っ掛かりやがった。
咲よそのコーヒーはブラックだよ!
俺はいつも咲がコーヒーに砂糖を二杯入れることを知っている。
だから仕掛けるのはたやすかった。
朝のお返しだぁぁぁ!
しかし、朝のことなんて知らない咲は普通にイラついた。
彼女からしたら突然身に覚えのないイタズラをやり返されたようなものだ。
当然こうなる。
「おぃいいぃ賢兎くう~ん。これはどういうことだぁぁあ?」
「ははははは、はは、は?えっちょちょちょっとストップ!ごめん、ごめんって!いやぁぁあ襲われるぅぅううう!」
激昂した咲に賢兎は身ぐるみはがされた。
男としての自信はズタボロにされた。
◇◇◇
時は流れて時刻は朝七時。
二人は出勤のために歯を磨いていた。
ちなみに二人の職場は違う。
二人ともこの街にある大手で働いているが二つとも結構な距離が離れている。
距離的に賢兎の職場の方が遠い。
シャカッシャカッ
沈黙の中、歯磨きの音だけが響く。
咲はどうやらまだ朝のコーヒーのことを怒っているようだった。
あれっきり会話がない。
「ん」
「あっありがとう」
先にうがいをした咲からコップが渡されてくる。
それを受け取ると俺もうがいをし歯ブラシを入れて洗面台に置く。
そこに咲も歯ブラシを入れて二人とも洗面所から出た。
まったく、いつ歯ブラシなんて持ってきたんだ?
そんなことを疑問に思う賢兎だったが、この一連の様子に「お前ら、本当に付き合ってないの?」と思う読者たちであった。
◇◇◇
朝七時三十分。
俺の通勤の時間が訪れた。
俺は自分のバッグを持つと咲に声をかけようとしたが、咲を見てやめた。
まだご立腹のようだ。
仕方なく玄関へと向かう。
靴を履いてから気配を感じて振り向くと咲が立っていた。
ところでスーツはどこから持ってきたんだ?
そんな空気の読めない疑問を俺は振り払うと咲の顔を見た。
「仲直りと行ってきますのチューは?」
「えっ?」
チュー?
こいつ今チューと言ったか?
聞き間違いだと期待を込めて咲を見るがどうやらあっているらしい。
自分の唇に指を指して俺の返答を待っている。
カチカチカチカチ。
時間だけが過ぎていく。
俺は覚悟を決めて咲の唇に俺の唇を近づけていき・・・・・
「はい!ストップ~。むっつりな賢兎君~」
咲の手で止められた。
くそっ。男の子の純情を弄びやがって!
きょとんとする俺に咲は笑いかける。
「はいっこれでチャラ!仲直りのチューをどうぞ!」
「いやっやらんわっ!」
そう言うと俺はドアを開けて出ていこうとする。
「いってらっしゃい。賢兎」
「・・・・・・あぁいってくる。咲」
手を振っている咲を横目に俺はドアを閉めた。
鍵なら咲が閉めるだろう。
あの無許可の合鍵で。
そう思う俺の心情を表すように今日の天気は快晴だった。
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それではまた。次の話で。