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暗闇に沈む陽  作者: sakura
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魔王(裏)…②

 「限りがあるから、美しい。」

  …

 「大事だから、もう一度言うぞ、限りがあるから、人は美しい。だから限りがあるから、我も美しいのじゃ。」

  …

 「どうじゃ、我は美しかろう?」

 魔王は、無い胸を張り、得意そうな顔で、翡翠色の小さな身体でポーズをつけた。


  …

 

 魔王とは、子供の頃から、いつも一緒だった。

 嬉しいときも悲しいときも。

 今までの思い出が甦える。

 …ああ、まったく、思い出せば出すほどに、碌でも無い奴だ。

 良い記憶がまるでない。

 それでも、いつも側にいてくれた。

 彼女は僕にしか声が聴こえない、僕の中の魔王だ。

 その魔王が、消えてしまうという。


 「これこれ、泣くでない…出会いがあれば別れもあるは必定じゃ。」

 魔王が、まともなことを言っている。

 ビックリだよ。

 僕は、泣いてない。湯気が水滴となり滴っているだけ。

 湯船に浸かりながら、手の平でお湯をすくい顔をぬぐう。


 「ふふん、人類の敵、魔王たる我の心配をするとは呆れたやつじゃのう。オマエ、我が消える意味が分からんのか?」

 魔王は、精一杯悪どそうな顔をしている。


 でも、僕は魔王を知っている。

 今まで互いに影響しあっていたのだ。

 僕が、つらい時には、いつも側にいてくれるのを感じていた。

 あの時も…この時も…ああ…やはり、碌でも無い。

 …

 そんなことを、アレコレ考えていたら、魔王は元気いっぱい喋りだした。

 「…願いが叶うとき、我は消えるのじゃ。終わり、終わり、このままでは人類は一巻の終わりじゃ。まだ我がスイーツを全て堪能していないというのに!…なんたることじゃ。大変じゃ。大変じゃ。…オマエラ、自分のことばっかり考えてないで何とかせんかい!他人事じゃないわい、一人一人が、人類の未来の有無を担っているというのに、自己の利益ばかり、理屈ばかり捏ねて他人様から簒奪することばかりに知恵を搾って努力してないで、まずは他人様に分け与えることを為して、地に足を着けて生活せんかい!…全ては我のスイーツのためにキリキリ働くのじゃ。」

 あまりにも身も蓋もない独りよがりの言い方は、いつもの魔王だ。

 「オマエラの為に、言っているわけじゃないんだからね!」

 魔王は湯気に浮きながら、プリプリした態度で勝手なことをほざいている。

 …いやいや、その物言いは魔王がスイーツ食べたいがために、僕たちを叱咤激励してるとしか思えない。

 ん?思惑が一回転して、まさに魔王の言ったとおりである。


 「…と、兎に角、人類の岐路なんだから、シッカリするのじゃ。全ては我のスイーツの為に。」

 魔王は、言いたいことを言うと、「また来るぞ、次はスフレのパンケーキを所望じゃ。」と捨て台詞を言い、消えてしまった。


 僕もスイーツは、好きだけど魔王ほどではない。

 そして、御別れには、まだしばし余裕があるようだ。



 

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