雨に沈む
雨に沈む
シトシトと雨が降る
空が白く瞳にうつる
白いのに暗い
灰色なのか 濃淡のない暗くて白い雲が天を覆っている
それは人類が逃げられないように蓋をしているのだ
このまま降り続ければよい いつまでもいつまでも
雨が降る音が好き
全ての雑音を吸い込み消してくれるから
アンインストールだ
リセットだよ
空間から、音を消して掃除をしてくれている
綺麗も汚いも関係なく全てを消して流して無くしてくれる
ああ、だから雨が好きなのか
このまま降り続ければ良い いつまでも
そして地面を覆うのだ
何もかもが多過ぎる
水よ、雨よ、その恵みで流してしまえばよい
だってこの星は、水の星なのだから
小煩い大陸などは沈めてしまえばよいのだ
海は敬うもので、支配するなどと傲慢に過ぎる
借りているだけなのに勘違いも甚だし
自然のものは自然に、神のものは神に返すべし
そんな怒りが穂口の火のようにジリジリと焦がす
相応しくない
そんな怒りも哀しみも理屈も正義も欲望も、何もかもが水の底に沈めば全てが平等で静かな世界が出来上がるだろう
それは皆が望んだ理想郷そのものだ
そこでは何もしなくてよい
ただゆらゆらと揺蕩いし
心配も苦労も疲労も束縛も誘導も何もかもがありえない
ああ、だから雨よ、そのまま降り続けたまえ
しばし降り続け人類を心胆震わせたまえ
僕も私も君もあなたも、その全てが青い海の底に沈み消えていく
そんな夢想を、猫が眠るように夢見ています
ああ、なんて素晴らしい世界であろうな
恍惚としながら夢見る
溜め息をつく
…なのに残念ながら、止まない雨はないのだ
灰色のなんでもない空を見上げる
明日はきっと晴れであろう




