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樹
胸に蔓延る撚糸
また一つ咳がでる
咳こむと希望が消える
もう歩けない
皆と一緒には行けない
歩むのを辞めてしまった
咳が出る 希望がこぼれていく
鼻が詰まる 香りが思い出が色褪せる
目がショボついて周りが良く見えない 僕以外が消えていく
疲労と諦めの因子が、粘菌のように身体中の先々まで撚糸を伸ばす
もう、いい 僕、よくやった、がんばった
ここは、終焉の地か
やがて朽ちて、撚糸が根を張り
いつしか若葉が芽を出して、木になり、大樹となるのだろうか
川沿いの土手に金魚を埋めたんだ
いまでは、そこは草が生い茂っている
水槽に近づくと、寄ってきて、水面から口をパクパクさせていたのを思い出す
あの日、底に座るように動かなくなっていた
ついさっきまで泳いでいたのに
僕も、分解して、何もかも消えて、それでも世界は続いていくのだろう