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暗闇に沈む陽  作者: sakura
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青森君の長い一日(前編)

 電話が鳴る。

「はい、こちら24時間受付、営業兼苦情受付一係 青森です。」

 周りの席では、電話が鳴りっぱなしである。

 でも取らない。僕しかいないから無理です。

 電話の向こうは、あらゆる電話アナウンスを掻い潜ってきた猛者達です。

 話しを聞くだけで、済む場合もあるけど、基本現場に行きます。

 用件を聞き終わった後に、現場に行く準備を手早く済ませる…やれやれ。


 営業職と苦情処理係を合併させた営業兼苦情受付課は、24時間勤務を交代で回す三つの係と、総務係で成り立っている。

 苦情を営業に即時にフィードバック出来る画期的な部署として鳴物入りで発足した我が課は、当初は一係30人いました。

 それが、周りを見渡せば今は僕一人…寂しくなったものだ。


 当係は実質2人。

 隣りの席の相方の岩手君は、夏休み中なのだ。

 今頃、温泉にでも入ってるんだろうか…いいな。


 車に乗り、エンジンを掛ける。


 当初30人居た我が係は、一年前に突然定員を削減された。

 25人が定員になりました。

 まあ、それまでもプロジェクトの為、5人取られていたので実質変わりませんが。

 それでも、プロジェクトが終了すれば、人が返って来るからと、居ない人達の分までの仕事を、苦労して肩代わりしていた先輩の、定員削減を知った時の愕然とした顔は忘れられない。

 うん…何しろプロジェクトは遅れに遅れ、最初は一年だったのが、終わってみれば3年の長期に渡った。

 元気で真面目な先輩だった。


 車を発進させる。


 実質25人が定員25人になっただけだから、変わらないだろうとお思いの諸兄は処刑です…ぷぷぷ。


 定員は伊達に決まっているわけではない。

 僕が知っている限り、40年前から、ずっと定員は変わっていなかった。会社というものは遊ばせる人を作らせないから、30人分の仕事量が、此処に必ずあるわけです。

 つまり、このプロジェクトが終了するまでの3年間は30人分の仕事量を25人で担ったのだ。

 一律に担った訳ではない。

 仕事の出来る先輩らが、5人分の負担を、自分らの能力を伸ばし効率的に仕事して時には残業して、担ったのだ。

 一言で言うと3年限定で無理をしたのだ。


 それが人が帰って来ると喜んでいたら、無理が報われると涙を流していたというのに…これからは、無理が常態化すると知った先輩の顔が愕然とするのも無理はない。


 悪い知らせ程、下には知れせずにいきなり来る。

 何しろ課長さえも知らなかったらしい。本当?


 愕然とした顔をした先輩らは、もういない。

 辞めたわけではない。定期異動で居なくなっただけですから。


 車を運転していると、色々と考えてしまう。


 あー、退職したい。

 でも僕は、大学を中退して親に迷惑を掛けた時に、二度と途中では辞める事は無いと決めてしまっている。

 定年退職までの年数を気にすると、気が遠くなり気絶しそうだ。


 しかし、話しはそれだけに終わらない。

 定員は25人と決まっただけ、実員と定員は違うのだ。

 早速、人が減る。

 転用、応援、定期異動で出るけど入って来ない。何故?

 少しずつ削り節のように削られ実員が20人になる。


 何ということか…30人分の仕事量を20人でやれというのか?

 この頃から、苦情処理の仕事が主となり、営業の仕事量は自然と減った。営業目標未達成が常態化する。

 当たり前です。無理だから。


 信号待ちで車を止める。

 首や肩を回す。

 慢性疲労かな?倦怠感も常態化です。

 週休は疲れて一日中寝てます。


 でも、話しはここで終わらないのだ…。




 


 

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