異世界から帰ってきたら、人類が魔法少女と化していたんだが?
頭を空っぽにしてお読みください。
「ついに帰って来たんだ……!」
僕は心の底から喜んでいた。
僕の名前は、井瀬誡。高校へと進学したある日のこと、突如として足元から魔法陣が展開し、気が付いた時には見知らぬ場所へと転移させられていた。
そう。僕は、世界を救う勇者として召喚されたんだ。
けど、僕だけじゃなくて他の世界からも何人か勇者が召喚されていた。中には、僕と同じ地球から召喚されたという子も居たけど、聞いた限り僕の知っている地球とは何かが違った。
所謂パラレルワールドというやつだろう。
僕が知っている地球じゃない、もうひとつの地球から召喚されてきたんだ。
その他にも、色んな世界から召喚されており、僕達は色んな苦難を乗り越え、一年半の時を得て、ようやく世界を救った。
そして、神様の力により僕達は元の世界へと帰還した。まあ、中にはそのまま異世界に残ると言った人達も居たけど。やっぱり僕は、家族のところへ帰りたい。
その願いがようやく叶った。
「一年半か……地球ではどうなっているんだろう?」
僕が転移させられたのは、自宅の前。
よくある設定だが、世界同士同じ時の流れとは限らない。僕が異世界で一年半を過ごしたけど、地球では数分の出来事だった、とか。
家の外観は、全然変わっていない。
やっぱり数分の出来事だった? それとも。
「よし」
意を決し、俺はドアノブに手をかけ捻る。
「ただいま!! 父さん! 母さん! 兄さん! 僕だよ! 誡だ!!」
僕の家族は、父さん、母さん、兄さんが居る。
父さんの周大は、建設会社で働いている筋肉盛り盛りのマッチョマンだ。日に焼けたその体は、まさに男の中の男。
しかし、趣味はアニメやゲームで、母さんともその関係で知り合い結婚までいったのだ。
「反応は、ないか」
母さんの弓依は、主婦兼ライトノベル作家。
主婦をやる傍らで小説を書いている。
主なジャンルは、異世界ファンタジーやラブコメ。ちなみに、僕が転移した日には、母さんの書いた作品のアニメ第一話が放送されることとなっていた。
もし一年半が経っているなら、すでに放送終了しているだろう。
「リビングに気配を感じる……」
そして最後に兄の空久は、俺より四つ上の大学生。
頭もよく、めがねが似合うイケメン。
面倒見がよく、僕のことを本当に可愛がってくれていた。でも、彼女がいないのは不思議だった。結構モテていたはずなのに……。
「父さん? 母さん? 居るんだろ?」
気配があるのに返事がない。
僕は、リビングへと入るとすぐテーブルに座っている謎の少女を発見した。褐色で黒髪ロングヘアー。胸は結構あり、服の上からでもわかるほど。
僕と視線が合うと、その深紅の瞳でじっと見つめてくる。
だ、誰なんだ? まさか妹? 僕が居ない間に新しい家族ができました、とか?
「帰って来た、ようだな」
少女の姿をしているのに、この落ち着きよう。
そして、その発言から僕のことを知っているということは明白。
僕はすぐに警戒心を高め、少女を睨む。
「君は……何者なんだ?」
伊達に世界を救ってはいない。少女から感じられる力……魔力持ちだ。まさかパラレルワールドに? じゃあ神様が間違って転移させた?
「落ち着いて。私達は敵じゃないわ」
すると、台所の方からもう一人の少女が姿を現す。
栗色のサイドテールがよく似合うお姉さん系。
水色のエプロンをしており、俺の警戒心を解こうと話しかけてきた。
「君も魔力持ちだね。この家の人達はどうしたんだ?」
「……」
「……」
何も答えない、か。
「もし、この家の家族に手を出したっていうなら、僕は容赦しない。さあ、答えてくれ!」
「落ち着くんだ、誡」
「なんで僕の名前を……いや、父さん達から聞いたんだね」
「いいえ、違うわ誡」
「何が違うって言うんだ?」
僕は徐々に魔力を高めていく。
「信じられないかもしれないが……」
いったいなにを。
「俺が、父の周大なんだ」
「――――は?」
黒髪の少女からとんでもない発言が飛んでくる。
待って待って……。
「何の冗談なんだ? 君が、父さん? 嘘をつくならもっとマシなことを」
「本当のことよ。彼女は、あなたの父親である周大。そして、私が母親の弓依よ」
「……いや! 信じない! そうやって僕のことを油断させるつもりなんだな! だって普通に考えてそうだろ? 君達のような可愛い子が父さんと母さんなわけが!!」
「本当のことなんだ、誡」
次は背後から? どうやらついさっき帰って来たようだが。
玄関には、金髪碧眼の少女が立っていた。
眼鏡をかけており、なにやら魔法少女を思わせる可愛らしい衣装を身につけている。
「帰って来たか、空久」
と黒髪の少女が言う。
「今度は空久兄さんのことを!」
「ま、待つんだ誡! 俺は本当に空久なんだ!」
「確かに兄さんは眼鏡をかけていたけど、それだけじゃ兄さんとは認めない! 君達もだ!」
確かに、僕が転移した異世界では女の子のような男の子が居た。変身魔法で男なのに女になっていた敵も居た。
けど! ここは地球だ。そう簡単には信じない。
「やっぱり信じてもらえないか。なら、これを見てくれ」
そう言って黒髪の少女はリモコンを操作し、テレビをつける。
映し出されたのは、とあるニュースだった。
けど、そこに映っていたのはどう見ても十代前半ぐらいの少女。ニュースキャスターの恰好をして、普通に進行している。
いや、それだけじゃない。
映像に映っている全ての人達が、少女? いや、偶然だろう。たまたま小学校の映像だっただけで……しかし、次のニュースはスポーツ。
そこでは見慣れた球場で、少女達が野球をしている光景だった。
しかしも……投手が投げたボールが燃え上がり、竜の形となっている。打者も、金属バットに魔力のような光を纏わせ全力で打ちにいっている。
「……」
「今から全てを説明するから、座りなさい誡」
黒髪の少女の言葉に、僕は警戒心を解かないまま従う。
金髪の少女も僕の隣に座り、なにやらもじもじしている。
「もう一度言う。信じられないかもしれないが、俺が父親の周大だ」
「そして、私が母親の弓依よ」
「最後に、俺が兄の空久だ」
「……もし、それが本当のことだとして。どうしてこんなことに?」
本当に彼女達が、僕の家族だったとしたら一年半ぶりの再会に喜びたい。喜びたいが……。
「俺達にもわからないんだ。とりあえず言えるのは、お前が行方不明になった直後。地球全体を光が包み込んだ。そして、気が付いたら……」
「こんな姿になっていたのよ」
「俺達だけじゃない。……人類全てが、少女。いや魔法少女になってしまったんだ!」
兄の空久を名乗る金髪の少女が叫ぶ。
……えっと。
「なんで魔法少女?」
確かに、金髪の少女は魔法少女感は出ている。それに魔力も感じられるから、魔法が使えるのだろう。
「俺達にもわからない。だが、こんな姿になった瞬間に声が聞こえたんだ。お前達は、魔法少女となった、とな」
「あれはおそらく神様……それか神様に近い存在。目的はわからないけど、私達を魔法少女にして何かをしたいのよ」
「しかも、しかもだ! 人類が魔法少女となってしまった影響が出ている。見たこともない生物が大量に出現したり、魔力を持った兵器が見つかったり。もう世界はめちゃくちゃになっているんだ!」
僕も、異世界召喚を経験して、かなりそういう方向の耐性がついたと思っていた。まあ元々父さん達の影響で二次元とかにどっぷりはまっていたけどさ……。
まさか、異世界から帰還したら人類が魔法少女になっているだなんて、そんなとんでもないことを……。
「えっと、と、父さん?」
「なんだ?」
うーん、慣れない。目の前に居る黒髪褐色少女が父さんなんて! 誰だってそうだと思う。久しぶりに会った父親がなんかエロい雰囲気の黒髪褐色少女になってましたー、とか。
簡単に信じられるか? 異世界帰りの僕でも簡単には信じられなかったよ……。今でもかなり違和感があるし。
「ちなみに僕が行方不明になってどれくらい経ったの?」
「一年半だ」
てことは、地球と僕の召喚された異世界は同じ時の流れだったわけか。
「じゃ、じゃあ次は母さん」
「なにかしら?」
正直、やばい絵面だ。だって、明らかに年下の少女のことを母さんなんて呼んでいるんだから。
異世界だと見た目と年齢が合わないなんてよくあることだったけどさ。
「どうして僕が帰ってくることを知っていたんだ?」
「そうね……感じたのよ。誡が帰ってくるって」
「か、母さん……」
これが家族の絆!
「それに息子が異世界に召喚されたんだったら、それをネタに小説を書けるじゃない! だから私ずっと誡が帰ってくる! って言っていたのよ!」
「……」
「あ、でも誡が帰ってくるって感じたのは本当よ?」
「そう信じたいよ、母さん……」
それにしても、まさか僕が異世界に行っている間に、地球がとんでもないことになっていたなんて。
「ところで誡」
「どうしたの? 父さん」
「今度はお前について聞きたい」
やっぱり、そうだよね。正直、まだまだ聞きたいことはあるけど。家族としては、行方不明になっていた僕のことを聞きたいよね。
「いいよ。それじゃあ」
僕は家族に異世界での出来事を話した。
異世界に召喚されたのは、僕だけじゃなかったこと。最初は能力はあったけど、大変だったこと。仲間達との助け合いで、世界を救うことができたこと。
僕が帰って来た時は、丁度十三時だったけ。話し終える時には、すっかり日が暮れていた。
「―――てことがあって。僕は地球に帰って来たんだ」
全てを話したわけじゃないけど。僕が印象に残ったことは全て話した。
すると。
「うん。実に冒険しているって感じだな!」
「ええ。私の書いている小説よりも、苦労があってまさに異世界冒険譚って感じだわ!」
「俺もそう思ったよ。でも、ひとつ気になるところがあるんだが……誡の能力って何なんだ?」
……僕は、自分の能力についてはふわっとした感じで話していた。それはどうしてか? ……うん。まあなんていうか。
結構凄い能力なんだ。それは確かだ。
「えっと、僕の能力は」
異世界に召喚された者達には、それぞれ固有の能力があった。僕とは違う地球から召喚されてきた人は、かなり戦闘向けで魔法創造という能力。
その名の通り、ありとあらゆる魔法を組み合わせることでまったく新しい魔法を創り出すというもの。
他の人達も、それぐらい凄い能力を得ていたので、僕も期待した。
そんな僕の能力は。
「【強化】」
「【強化】? 身体能力を強化する、なのか?」
「後、魔法とかそういう技系の威力も」
「へえ。なかなかいい能力じゃないか」
「ということは、誡はサポート系ってことなのね?」
「う、うんまあ」
「……誡。まさかとは思うが、まだ何かあるんじゃないのか?」
さ、さすが父さん。鋭いな。
そう。僕の能力である【強化】は、相手を強化するためにあることをしなければならない。
「実は、この能力を最大限にするには……強化する人の好感度を上げなくちゃならないんだ」
「ほう……つまりお前と仲良くなればなるほど武装も身体能力も強くなるということか」
「ということは、誡。あなたには好感度が見えているのね?」
「ま、まあ」
正直、そんな余計な要素居るか!? と思った。けど、実際好感度が見えるというのはかなり便利だった。例えば、外面上ではニコニコとして、さすが勇者様! とか言ってきた男の人が居たのだが、実際は僕への好感度は全然高くなく、逆にマイナス。
その男は、魔族が人間に擬態して僕達を殺さんとしていたのだ。
「へえ、マイナスなんてのもあるのね」
「つまりプラスだと仲良し。マイナスだと不仲ってところか?」
空久兄さんの言葉に、僕は頷く。
「でも、好感度は僕に対してっていう限定だけどね」
他人同士の好感度は見ることはできない。
だから、便利そうでそうでもないのだ。まあ、自分に対する好感度が見えるだけでも凄いことなんだが。
「いや、だが今のこの世界にとっては便利だ」
「ど、どうして?」
「今や、地球には男がいない。居たとしてもそれは映像の中や紙の中」
「そ、それでどうして便利なの?」
いや、なんとなくわかる気がする。
この地球で、僕だけは男。
そして、一年半経った今もなお、戻る方法はわからず。
「誡。お前が、この地球の新たなアダムとなるんだ」
ですよねー。
「って、無理だよ! というか、父さんは元に戻ること諦めてるの!?」
「俺だって、できることなら元に戻りたい」
「俺もそうだ……」
「私も。でもね、いまだに元に戻る方法が見つからないうえに」
母さんは、再びテレビをつける。
そして、チャンネルを変えると、とあるライブシーンが映された。自由に空を飛び、マイク片手に楽しそうに歌っている。
元の地球だったら、ワイヤーで飛んでいるようにしていると思うところだが……実際に飛んでいるのだろう。
「この映像が、どうしたの?」
「彼女ね。元は男だったのよ」
「まあ、それはわかるよ」
「心も、なのよ」
「……えっと、つまりもう男としての自分を忘れて女として生きているってこと?」
「ええ。彼女、元は有名な男性アイドルだったんだけど。今となっては身も心も女に染まってしまったの」
おそらく母さん達の反応を見る限り、一人や二人じゃすまないのだろう。もう男だった頃を忘れ、新たな人生を送っている。
もちろんまだ諦めていない人達も居るだろう。
けど、このまま本当に元の姿に戻れないのだとしたら……。
「で、でもさ。そんな急に僕がアダムとか」
「じ、実は誡」
兄さん? そういえば最初から兄さんは、どこかもじもじとしていた。
ま、まさか!
「お、俺なんだか誡を見ていると体が疼いて……」
「に、兄さん! しっかりするんだ!」
「ひゃっ!?」
ひゃ、ひゃ? 落ち着かせるように兄さんの肩を掴んだのだが、まるで女の子のような甲高い声を出す。
「ご、ごめん。でも、今は触らないでほしい……」
「実はな。父さんもずっと高ぶる感情を抑えているんだ。あぁ……久しぶりの生の男だって」
よく見ると、父さんの目がまるで獲物を見つけた獣かのように鋭くなっている。
これは本能なのか?
本能までも女になってしまっているというのか? じゃあ、母さんは? 母さんは元々女だったから多少は。
「……」
よ、よかった。母さんは、二人と違って大丈夫そうだ。
「心配しないで誡。お母さんは……同性愛に目覚めちゃったの」
「……」
全然大丈夫じゃなかったぁ!! そうか。そういうことになる可能性もあるのか。この世にもう男はいない。だから、もう女の子同士でもいっか! みたいな。
「ち、ちなみにだが隣に住んでいるお前の同級生の信乃くんだが」
「まさか信乃も!?」
「ああ……彼は、いや彼女は魔法少女として楽しい毎日を過ごしている」
信乃……! そういえばあいつは魔法少女好きだった! それがまさか自分自身が魔法少女になってしまうとは。
「はあ……はあ……だめだ。そろそろ、限界」
「に、兄さん! 父さんも!」
「ふふ。心配しないで誡。お父さんのことは私に任せなさい」
「あ」
そう言って妖艶な表情で、母さんは父さんの体に絡みつく。そして、そのまま父さんと共にリビングから消えていった。
……待ってほしい。まだ兄さんが残っているんだけど。
「兄さん! しっかりするんだ! 兄さんは男! そして僕の兄なんだ!!」
「そ、そう……俺は、男……そして、誡の兄……」
あ、ちょっとやばいかも。本能を堪えようとしている兄さんの表情が凄くエロく感じる。というか、いまだに魔法少女の恰好をしているから、なんだかやばい雰囲気なんだけど。
それに、兄さんは見た目の割に胸がある。
僕も男だ。つい胸の方にも視線がいってしまう。
「だめ、だ誡。感情が……!」
ど、どうすればいいんだ。
とりあえず。
「逃げる!」
「そ、そうだ! とにかく俺から離れるんだ……! 誡!!」
近くに男が居るからああなっているんだ。今は、離れて兄さんの感情を抑えるのが最優先。
兄さんがまだ堪えているうちに!
「あっ……あっ……」
「ふふ。お父さん、まだまだこれからよ?」
「……」
リビングから出て二階へと駆けあがると、父さん達の寝室からお楽しみな声が聞こえた。
僕は、聞かなかったことにしようと自室へと入る。
そのまま鍵を閉め、深く息を漏らす。
「……これからどうしよう」
世界を救い、異世界から帰還したと思ったら、地球は魔法少女で溢れていた。
今、地球に居る男は僕だけ。
これから、僕は……。
「か、母さん……!! い、行く……!」
「イッちゃえ! イッちゃえ! マジカルステッキで!! イッちゃえ!!」
「んアーッ!!!」
……本当にどうしよう。
これが本当のハーレム?