表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜景の見えるレストランで

作者: タケノコ

「クルーザーに一生、一緒に乗ってくれませんか?」

 私はドキドキした。心躍るプロポーズに。全身がこそばゆい。しかし、その返答をしたのは私ではなかった。

 二人はエレベーターから降り腕を組んで歩き去る。ルンルン気分が高揚したような足取りだ。夜景の見えるレストランの帰りだろう。

「はあ、私は……永遠に一人」

 このエレベーターの地縛霊である私は怒りから髪をガシガシかきあげた。私がこのエレベーターで服毒自殺をして早五十年。誰にも見えず、誰にも触れず、ただこのスペースに滞在していた。

「ちょっと寝よう」

 赤いチャイナドレス姿でゴロンと横になり憂鬱になる。捨てられて自殺なんてばかだったわ。エレベーターをガンとグーでどつく。

「私と結婚して!」

 自殺した日も叫んでたなあ……。また叫んじゃった。私ったらどうかしているわ。さっさと成仏して天国に……。

そこでエレベーターが左右に開いた。

「ほほほ、わしが願い事をかなえてやろう。金婚式のお祝いじゃ」

「え、本当に?」

 私は痙攣でもあったように起き上がった。ところで金婚式って?

 おじいさんは白髪を背後の地面に引きずりながらうなずく。そして手をふっと上下に動かした。一陣の風がおじいさんを消失させた。

「久子さん」

「誰? さっきのおじいさん?」

 コホンと咳をしてからその声は「内縁の夫です」と言葉を出した。

「内縁の? 結婚詐欺ね!? って私死んでいるか」

「いえ、私はエレベーターです。初めて私と出会っ日にプロポーズされて……悩みましたが

こんな機会は二度とないだろうとエレベーター語で受けることにしたのです」

「は?」

 何言っているのこのエレベーター? 本気?

「あんたに言ってないわ」

「監視カメラにあなた一人で私に乗っている時に大声で叫んだ場面が記録されています」

「え?」

「今日は金婚式の日です」

 私は立ち上がりエレベーターに蹴りを入れた。ガッと。

「痛いですね。五十年も連れ添った夫に」

 私は頭にきてエレベーターをにらみつける。どこが顔か分からないけど。何が連れ添ったよ! ああイラつく。いくら幽霊でもエレベーターなんかと結婚するもんですか!

そこでチンとエレベーターが音を放ち扉を開ける。

「おばあちゃん、おじいちゃん、はじめまして。孫の幽霊エレベーターの幸吉です」

 透けた小さな箱が宙を漂い、中に入ってきた。

「パパとママは幽霊じゃなくてただのエレベーターだから来れないから僕だけ来ました」

 私はふるふる体が揺れた。なんたること。なんたること!

「会いに来てくれてありがとう!」

 私はその孫を抱きしめた。もっともっと一緒にいたい。話したい。私の唯一の孫。ああ、幸せ、もう消えてもいい。中空から光が私を包み込む……。

「あ、おばあちゃん!」

 成仏寸前に孫に呼び止められた。危ない。

 私は一度に夫と子供と孫をたまわった。しつこく地縛霊していてよかったー。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ