表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉子の子供  作者: 青嶋幻
5/6

第五話 地下

 空洞はコンクリートの階段になっていた。そういえば、懐中電灯があったはずだと思い、葉子が飛び出してこないか注意しながら棚を探った。


 あった。取っ手が付いた大型だ。

 スイッチを入れるとちゃんと点いた。地下を照らし、慎重に覗き込む。

 階段が続いていたが、奥まで光は届かない。

 反撃されることはないと思ったが、この下に何があるのかわからない。

 安西は足下を照らしながら、ゆっくり階段を下りた。

 奥からは、なぜか生臭い臭いが漂ってくる。ネズミでも死んでいるのかと思う。


 室内は生臭い空気が充満し、息苦しいほどだ。どこにいやがるんだ。安西は階段を下りきったところで、懐中電灯を左右に動かし、あたりを探した。


 一瞬、左手で何かが見え、懐中電灯を戻すと、ブルージーンズが照らし出された。

 裾が上の状態だ。


 上を照らす。

 ロープに縛られた生白い足が突き出ていた。


 光を下へ向ける。

 めくれ上がったピンクのTシャツと、蝋のように白くなった腹が照らし出された。


 更に光を下げる。

 鮮血にまみれ、陶器のように真っ白い肌をした女の顔が照らし出された。

 目は瞳孔が開ききり、口は何かを叫ぼうとして止まってしまったかのように、あんぐりと大きく開いている。

 垂れ下がった髪の毛から、血がしずくとなって、金だらいにポタリポタリと落ちていた。


 化け物のように凄惨な顔をしていたが、間違いなく瑠衣だ。


 心臓が破裂するように激しく鼓動しているが、金縛りに遭ったように体が固まっていた。

 状況を理解しようと、頭がめまぐるしく回転するが、ただただ空回りするだけだ。


 瑠衣の背後から、懐中電灯の光の中へ、葉子の顔がふわりと現れる。


 ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている。


「ああっ……」

 悲鳴とも、うめき声ともつかない声を上げ、懐中電灯を取り落とす。同時に足に力が入らなくなり、床へへたり込んだ。


 転がった懐中電灯の光で、小さな影が近づいてくるのがわかる。


「助けてくれ」

 安西ははじかれるようにして階段へ向かって動き出す。

 腰へ力が入らず、這うようにして階段を上がった。


 納戸へ出ると、床の蓋をたたきつけるようにして閉じた。あえぐようにして息をしながら、逃げなければと思った。立ち上がり、廊下へ出た。


「どうしたの」

 玄関から声がした。


 黄色いワンピースの葉子が、ニタニタ笑いながら安西を見ていた。


「何で……そんなところにいるんだ」

 葉子は確かに地下にいた。安西より早く移動できるなんてあり得ない。


 足がもつれて床に倒れた。這うようにして奥へ進む。


 車の鍵を。

 リビングへ行き、ソファへ手を掛けて、なんとか立ち上がり、鍵箱を開けてメルセデスの鍵を取った。


「みーっけ」


 キッチンから黄色いワンピースの葉子が現れる。

 驚いた安西を小馬鹿にしたように、笑っている。


 玄関からキッチンへ行くには、リビングを横切るか家の外へ出て、勝手口から入るしかない。

 リビングには安西がいるし、外を回るには時間的にあり得ない。

 頭の中が真っ白になっていく。


「よせっ、あっちへ行け」

 叫びながら廊下へ出る。

 ガレージに繋がるドアを開け、メルセデスへ乗り込んだ。ロックを掛け、エンジンを掛ける。

 震える手でリモコンのボタンを押した。


「早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ」

 シャッターの開く速度が思いのほかゆっくりに思えて、ハンドルを握りしめながら呪文のように唱えていた。


 ようやくシャッターが開ききり、メルセデスを発進させた。門も開けて道路へ出る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ