中継の町
翌日、前世ではもっと嵩張り、重たくなるはずのバッグを持ち、街へと出発した。
簡単に旅程について説明すると、街に降りるにはまず村のある山を徒歩でくだり、ここよりも大きな町に出る。次に、街道を通る定期乗合馬車に乗って王国きっての市街地に到着する。
往復でそれなりの時間を使うので、市街に行くとなると泊まりがけになることが多い。
「今日乗る馬車はちゃんとバネが効いてるといいなぁ」
山をくだり、中継地点になる町へと向かう道中ひとりごち、乗合馬車に揺られる数時間、自分の尻が痛くなるかどうかを心配していた。
ここのところの乗合馬車ガチャは良くない傾向である。
1時間も歩けば到着し、馬車を待っていると、いつもより人の活気がることに気付いた。
特に若い女性が井戸端会議に精を出しているようだ。
行儀が悪いがこういう女性たちの会話には時々思いもよらないすごい情報があったりするので聞き耳を立てる。
「昨日勇者様が旅立たれたとき、この町に寄って行ったそうよ」
「かっこよくて直視できなかったわよぉ」
「金の髪がまさに光り輝く勇者様って感じよね」
「どうも西の森林地帯で魔物を退治しに行くらしいよ」
「西の?」
「なんでも最近魔物被害が多いらしいんですって」
「高レベルの魔物の目撃情報もあったわよね」
「この町にもいつ魔物の被害が出るかしら…怖いわね」
今をときめく勇者様の話題。
昨日旅立ちの報告をされたはずなのに知らない情報が…
そういえばどこに行くのか聞かなかったな。
西の森林地帯といえばそこまでレベルの高い魔物がいない初心者冒険者向けのダンジョン、ジルコニアの森のことだろう。
出てくる魔物も知られているものが多く、だいたいレベルも10くらい、高くても15となっている。
私も数年前に一度、欲しいスキルを獲得するために行ったことがあるので知っている。
そんなところに高レベルの魔物がいたとなっては初心者の身が危険である。
もう少し高レベルの魔物の情報が出てこないか耳をそば立てるも、井戸端会議あるあるの急速な話題切り替わりによって安売り店情報合戦にすり替わってしまった。
騎士団でも小隊長を務めていたシエルにとってはそう難しい仕事ではないはず。
心配しなくても大丈夫だろうと結論づけ、ちょうど到着した乗合馬車に乗り込んだ。
馬車には乗ったことがないですが、板張りの椅子に長時間座っていると尻が煎餅になったような気分になります。