勇者去りて
旅立っていった背中に手を振り、見えなくなったところで手を下ろす。
「さて、仕事するか」
私ことリリィディア・カイヤナは少しばかり田舎すぎる環境の中、平々凡々体現したかのような容姿の女である。
卵型の頭に高すぎず低すぎずな鼻、大きすぎず小さすぎない目、身長は少し低め、榛色の瞳にキャラメル色の髪、現在19歳、この世界では、行き遅れ一歩手前という微妙な年齢。
そう、”この世界では”
特異な点を挙げるならこれにおいて他はない。
自分には前世の記憶がある。しかもこの世界ではない、どこか別の世界の記憶。
初めてそれを自覚したのは木製の橋を渡っているときに、ふと口をついて出た「京都みたい」という感想であった。
もちろんこの世界にはそんな地名は存在しない。
電気のない時代にタイムスリップしたのかとも思ったが、目の前で呪文とともに灯る明かりやどこからともなく流れ出る水に、その線はないな、と見切りをつけた。
今はこの世界のリリィディアとして、楽しくやっていけてる。特に魔法。
この世界では魔法は使えて当たり前、生まれたばかりの赤ん坊にも明日の命の老人も、少なからず魔力を持っている。
それはこの世界に転生してきた自分も例外でない。
「水よ、流れ出よ」
どこからともなく流れ出てきた水が、鍋を満たすと魔力の流れを止める。
あ、ちょっと多かったかな…
次に、コンロに手をかざすと、温かい何かが手のひらに集まるような感覚がした後、火がついた。
現在は魔道具の発展とともに魔力を流すだけで適切な魔法を使うことができて便利である。
もし自分で火をつけろと言われたら調節をミスって焦がすか、途中で火が消える。
お湯ができたらそこに薬草を入れ、しばらくかき混ぜる。
薬草独特の匂いが出てきたら火を消して冷ましておく。
冷めるのを待つ間に昨日茹でて冷ましておいた鍋のチェック。
よしよし、レシピ通りの紫色だ。
「よいしょっ、と」
別に容器にザルを置き、鍋の中身を濾していく。
ザルにかかったものは捨て、鍋に残ったものを覗き込む。
「よしっ!」
透き通った紫色をした液体が目に映ると、思わずガッツポーズ。
「鑑定」
“薬用ポーション(中級):体力が50%回復する”
「おお!今回は中級!」
最近は下級続きだったから家計が助かる!
と、いった感じで山の薬草でポーションを作り、売って細々と生計を立てているのです。
ようやく名前出せました。
ファミリーネームは直前まで迷ったからこっそり変えるかもしれない。