染み
もう用意してあるし、とりあえず夕飯を食べよう、とルラキルナを宥め、ちょっとぎこちない晩餐することとなった。本日のメインはハンバーグである。記憶を思い出してからはたまに前世の味が恋しくなって料理を作って食べていた。時々私の手料理を食べていたシエルは、特にハンバーグをいたく気に入っていたので、帰ってきた時に材料があれば作って出すことにしているのだ。
「見たことのない料理ですが、とても美味しいですね」
「ありがとうございます。お口にあったようでよかったです」
素晴らしいテーブルマナーで食べる彼にもハンバーグは好評のようでよかった。さすがお子様の大好きなメニューベスト10に入る定番料理である。
「リリィが作る料理はなんでもうまい」
もぐもぐとハンバーグを平らげたシエルがおもむろにお皿を持って立ち上がる。そのままスタスタと歩いてキッチンまで行くのを無言で見送り、ルラキルナはどこに行くのかと不思議顔だが疑問を口にしなかった。
「おかわりいりますか?」
「あ、では、いただきます」
ハンバーグは私が1個でお腹いっぱいになるサイズに作ってあるので、成人男性にはちょっと物足りない量になっている。いくら細身のルラキルナでもやはり足りなかったらしい。
「シエル!もうひとつ焼いてー!」
「勇者が焼くのですか!」
「そういう約束なので」
最初は大食いのシエル用にたくさん作っていたのだが、出来上がるまで食べずに待っているから冷めてしまうしおかわりのたびに私が席を立つのも悪いと、焼くだけよそうだけの料理はおかわりしたい人がおかわりしたい分だけキッチンで調理する、という約束になったのだ。
間もなく聞こえてきたジュウジュウと肉の焼ける音と匂いが食欲をそそる…どうしよう、もう一個食べたい気もしてきた…
「そういえば、なにか聖女様の痕跡とか手がかりとか見つかったんですか?」
なんとなくこの話題はシエルに聞きにくいので、こっそりルラキルナに聞いてみる。自分が聖女であるのに“聖女様”と言うのはかなり恥ずかしい。でも基本的に一般人は元々勇者と聖女を神聖視しているし、信仰する宗教すら存在するため、様を付けないと逆に目立ってしまうのだ。
「いえ、10年も前の出来事で、私にも痕跡を辿ることはできませんでした」
内心ホッとして気が緩んだ。そうだよね、10年も前だもの、何も残っていないはずだ。
「しかし、10年経ったにもかかわらず、あの川辺、いや、山全体にも瘴気が全くありませんでした。そんなこと、聖女様の持つ力でしか説明がつかないです」
神妙な顔つきで、素晴らしい力だと、神の加護がと、聖女の偉大さを語る姿を目の前に、思わず萎縮してしまう。ヴァイスネージュでの一件も、到底自分の力だといまだに信じられないでいるところなのに。
そして、ポツリと、
「なぜ、聖女様は我々の前に現れてくれないのでしょう」
つぶやきひとつが心に染みをつける。自分勝手でごめんなさい。




