幼馴染の事情
「帰った」
太陽が沈み、空に宵闇のカーテンが敷かれた頃、ノックの音に扉を開くと、ルラキルナを連れたシエルの姿があった。
「おかえり。もうご飯できてるよ」
昼間の出来事からなんとなく気まずく感じ、ふい、と顔を逸らし、家の中へと促せば、平然とした様子のシエルの後を少し疲れたような歩きぶりでルラキルナが続いて入り、椅子に腰掛けるのが背中越しの気配で分かった。少し早めのお昼にパンケーキを食べて出かけて行ってから7時間は経っているだろう。となると、私が歩いて30分くらいにある川辺で6時間近く過ごしたことになる。それは疲れもするだろう。
「先にお風呂入る?」
「そうする」
いつもの調子で尋ねると、ガタガタッと音がする。
くるりと振り向くと客人が椅子からずり落ちているのが見えた。
「どうかしましたか?」
「い、いや。あなたたちは幼馴染と言っていたと思ったのだが、夫婦の聞き間違えだっただろうか?」
「え、幼馴染で間違いありませんよ」
シエルの方に顔を向けると、「何を言ってるんだ、こいつ」みたいな目線を彼に向けているのがわかった。
「夫婦でもない、しかもここはあなたの家であって勇者の家ではないのに、風呂に入る…?」
わなわなと小刻みに震えるルラキルナ。私としては普通の幼馴染の感覚でいたのだが、もしやこれは全国の幼馴染的にはNG案件だっただろうか。
「やっぱ…」
「相変わらず頭が硬いな。貴族の当たり前を平民に押し付けるな」
やっぱなし、と言おうとした私の言葉を遮り、珍しく不機嫌なことがわかる表情を表に出してムスッとして答える。あ、やっぱりルラキルナさんは貴族様なのか。何となく立ち振る舞いや最初の私への態度から、そうかな、とは思っていたけれど。そりゃあ、お貴族様の幼馴染事情と比べたらこんな辺鄙な田舎の村の幼馴染事情が違っているのは当たり前…って、シエルもお貴族様じゃないか。よく忘れてしまうけど。
「それにしても未婚の女性の家で風呂に入るなど、そんな…!」
震える彼の顔をよく見るとほんのり赤く染まっているのがわかる。わあ、なんてウブな…ちょっとキュンとしてしまった。前世と今世を合わせるとおばさんの域なのも手伝って、きっと婚約者にも結婚するまで指一本触れないんだろうな…と妄想を膨らませてしまう。
貴族のマナーとしては確実によろしくないのだろうけれど、互いの家を行き来して泊まったり、私の家でシエルが汗を流したりすることなんてもう当たり前にしていることなので、いまさらな感じだろうか。
「まあ、きょうだいみたいなものですし、私は何にも気にしていませんよ」
ルラキルナを宥めるように話すと、シエルがなんとも言えない顔を浮かべていたのは知らない話。
お久しぶりです。ようやくWiFiのある環境に帰ってこれました。




