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氏名と案内


「賢者様はなぜここへ?」


 勇者パーティーに対する村人の対応を心がける。

シエルのことをいつも通り(ぞんざい)に扱っているが、勇者は勇者、パーティーに適当な人をあてがったりはしないだろう。

賢者となればきっと、王室お抱えの魔術師団の人に違いない。

貴族がほとんど占めているので、下手に馴れ馴れしいとかなりの不興を買うことになるだろう。


「勇者が休養日だから帰りたいと言うので私が転移させることにしたのです。彼に比べれば私の転移の仕方の方が魔力の消費が少ないですから」


 ツン、と澄ましたかのような物言い、なんだかお高い猫ちゃんみたい。


「自宅に帰るかと思ったので、てっきり使用人か何かかと」


 スイッと目が泳ぎ、チラとこちらを見る。手に持ったフォークが止まる。


「すみませんでした。勘違いしてしまって」


 ああ、この人もしかして、と思ったけど、やっぱりツンデレか。

めちゃくちゃ気まずそうな本人に対して申し訳ないけれど、なんだかほっこりしてしまった。


「いえいえ、この人が悪いのは明確ですから、お気になさらず」


 にこ、と笑って後ろを振り向く。

ルラキルナに席を譲って私の後ろに立っていたシエルには、後で説教が必要だろう。

それにしても、


「シエルが名前で呼ぶなんて、珍しい。とても仲がいいんですね」


 先程ルラキルナが現れた時から驚いていたのだ。

この村の人に対しても基本的にはファミリーネームで呼んでいるのに、知り会ってそこまでの時間がたっていない人に対して名前で呼ぶなんて。前世なら赤飯でも炊くほどの珍事だ。


「いや、勇者は私の名前を呼んでいるわけではありません。変わっていますが私の出身地はファミリーネームが先なので、サイファが名になります」


 氏名の順番が逆の地域…日本と同じだ。なんだか妙な親近感を覚える。


「この後はご帰還されるのですか?」

「いや、勇者から聖女がこの村に現れたことがあると聞いたので、興味本位ですが見に来たのです」


 彼の口から急に飛び出して来た言葉に内心ぎくりとして動きがぎこちなくなる。

もう十年以上も前のことだ。痕跡も残っていないはずである。


「ああ、シエルが見たと言う」


 目の前にいますよ〜と思いながら、平然を装って話に乗る。


「勇者、案内をお願いします」


 私の後ろにいるシエルに話しかけるも返事が返ってこない。

不思議に思ってくるりと後ろを向くと、無表情ながらも「行きたくない」と訴える顔をしているのは、幼馴染の私しかわからないのだろう。

分かる人にはバレていたかもしれないですね。

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