休養日
ヴァイスネージュでの勇者の活躍?は数日遅れでセレスト村付近にも伝わることとなった。
しかし、伝わってきた内容はシエルから聞いたことと異なっている部分が多分にあった。
たとえば高レベルのモンスターを倒したのが聖女ではなく勇者になっているところは事実と全く異なっている。
勇者であるシエル自身が倒していないことを知っているのに…
「ううーん…」
器にパンケーキの生地を練りながら、悶々と考える。
やはり聖女の存在について隠したがっている何者かがいることは確かであることがわかったのだが、理由が分からないのが不気味で仕方ない。
私が何をしても周りに伝わらない、と良い方に考えることもできなくはないが、何者かに聖女だとバレた時のリスクを考えると、もう少し慎重にことを進めなければならないと改めて実感する。
こねた生地を火魔法で温めておいたフライパンに、油を引いて混ぜた生地を流し込む。
ふわりと美味しそうな匂いが漂い、陰鬱とした気分が少し晴れる。
2、3枚焼いてさらに盛り付けていると自宅のドアがノックされる音がした。
「はーい」
ドアを開けると、
「帰った」
勇者様の姿があった。
「えっ!?」
思わずドアを勢いよく閉めてしまった。
「レベル上げの旅を続けてるんじゃなかったの?」
「各地の冒険者ギルドから、ランクB以上でないとこなせない依頼を受けて旅をしている。今日は休養日ということになった」
ひとまず前回宿に来た時のように防具をつけていないところを見ると、どうやら彼が言っている休養日、というのは間違っていないのだろう。
「ちなみに今日はどこにいたの?」
「港町にいた。グラブクラブの討伐の依頼があった」
「グラブクラブ?こんなに小さいやつじゃなかった?」
ヴァイスネージュより少し南下したあたりには港町が点在している。
グラブクラブは手のひらサイズのカニで、海辺にならどこにでも存在していたような気がする。
魔物ではなく、生物なので、食用として広く色々な地方で食べられている。
私は唐揚げにしたものが好きだ。
「浜辺を埋め尽くし、町中にも溢れていた。原因の究明に時間がかかっているのも休養日になった理由の一つだな」
一匹一匹処分するのは簡単だが人手が要るし、原因がわからないと続く可能性もある。
とはいえ、まあ、今回は聖女の出番はないかな。
「食べる?」
ちょうど焼きたてのパンケーキの皿を取りに行きがてら聞いてみる。
昔から私の得意料理でシエルもよく食べていたものだ。
コクリとうなずいたのを見るも、本当はすでにもう一枚焼いているのだった。
生き物の名前もっと簡単にしたい。




