力
「ぐあっ」
ついにレットがスフィアトルの土魔法に捕まった。
致命傷は避けたようだが血飛沫が散るほどの出血。
「レット!」
攻撃を受けた際に雪の上に吹き飛ばされた私はレットに駆け寄り声をかけるもすでに意識はない。
すぐに止血しなければ!
「ここで使うっきゃないでしょ!」
手のひらに流れる魔力に集中すると、衝撃で落ちた帽子からこぼれた髪が色を変えていく。
「治癒」
傷つた箇所は脇腹、左太もも、右上腕。
出血は左太ももの太い血管が切れたことによるもの。
まずは血管をリペアして出血を抑えて、脇腹の傷の治癒、最後に腕。
脇腹の傷は内臓までは傷んでいないが骨折あり、それも治す。
頭に勝手に負傷した傷の情報が流れ込み、ほとんどオートで治癒していく。
聖女の使う魔法は勇者のように膨大な魔力量が必要なものではない。
発動の条件を満たせば魔力の消費はほとんどない。
巷ではまるで一般人とはかけ離れた存在かのように語られているが、本当にそこら辺にいる少女と同じなのだ。
治癒に関しては条件は3つ。
ひとつは負傷者に触れること。もうひとつは、まあ、追々。
一番重要な要素である最後のひとつは周囲に瘴気があること。
瘴気が濃いほど聖女の力は発揮される。
逆を言うと瘴気のないところではなんの力も持たない。
聖女の力はまだ世に隠されている秘密があるのだ。
以前民衆に能力を打ち明けた聖女はバカではない。ただのうっかりでもない。強かな女である。
レットの傷は治ったが、いまだに意識は戻ってはいない。
「さあ、仕事仕事」
すでに目の前まで迫った敵の姿はなぜかその場で止まっている。
私たちを踏み潰したり土魔法で攻撃したりすることもなくこちらの様子を窺っているようだ。
治癒で使ったことで瘴気が減ったことに戸惑っている?
傷はそんなにひどくなかったからあまり瘴気を減らせていないけれど…
「もしかして、この青い髪を認識しているのかしら」
さらりと髪をすくって見せると地面が揺れる。
攻撃かと身を固めるも、どうやらスフィアトルの足元が沈んでいくのが見えた。
「ちょっと、逃げる気!?」
逃げても無駄だけど。
再び手のひらに魔力を集める。
地面に向かって手を押し当てると、あとは一言、言えば事足りる。
「収斂」
ズズッと空気のようなものが動くのを感じる。
瘴気、といっても人間の目には何かが見えるわけではない。
雨の日に感じるずっしりとした感じや沼に入ったようなどろりと皮膚を舐めるような感覚が瘴気の存在を確かめる唯一の方法である。
だから変異した魔物がいるかや何かしら魔物が大量発生しているのは現地に行ってみなければわからない。
聖女の目はそれを捉えることができる。
黒い霧のような、水に浮かぶ油のような、人によって表現は違うだろうそれが手のひらに集まっていく。
オオオオオオォォォォォン…ッッ
断末魔のように叫びをあげ、瘴気を吸って膨らんだ巨体がボロボロと崩れていく。
ああ、終わりだ。あの時と同じ。
ああ〜終わったぁ〜




