勇者と聖女
「おい!勇者が来たぞ!」
「きゃああっか、かっこいい〜!!」
「勇者様バンザイ!」
街道を人が埋め尽くしている。ここにいる誰も彼もが一目でも馬上の人物を見たくて集まっていた。
数日前、神殿に神からの託宣が下ったという。
“勇者の覚醒あり”
前回から約300年ぶりの勇者の覚醒に、国中が沸き立ち、お祝いムードとなった。
勇者の名前はアンシエル・トパズ。代々王家に仕える者を輩出するトパズ伯爵家の御子息である。
体が弱く、病気がちだったため、伯爵領の中でも南寄りの温暖な山村で過ごしたという幼少期でありながら、騎士団に入隊するやメキメキと頭角を表し、剣の腕も去ることながら類稀なる魔法のセンスを有し、最年少で小隊長となった。
権力、名声、財力、実力、さらにはそのご尊顔。輝くばかりの金の髪とお揃いの長い睫毛から覗く青空を閉じ込めたような空色の瞳。神の作りたもうた芸術と女は惚け、神は贔屓がすぎると男は嘆いた。
勇者の役割は大きく2つ。一つは国の脅威となる魔物の討伐である。
この世には人以外にも獣人や妖精などいろいろな種族が多少の相性もあるが対立することなく暮らしている。しかし自然発生的に他の種族を恣に殺すもの、それが魔物である。勇者以外ももちろん倒すことができるが高レベルのものにもなると勇者の人間離れした能力が必要になる。
ここ数年は魔物の被害が多く、レベルも高くなっていたため、世を救うために勇者を覚醒させるという。
もう一つは聖女の捜索である。勇者と同じように魔物の活動が深刻になる時、神々が遣わせる少女である。
魔法でさえできない治癒の力と魔物自然発生の元凶である瘴気の発生を抑える魔法を使うことができる。
この世界では見ることのない青色の髪をしていると言われている。しかしながら現在に至るまで青色の髪の少女は発見されていない。
つまりは聖女はいまだ能力を眠らせている可能性が高いのだ。
勇者と聖女がいる治世は安泰。
学び舎で習わなかった者はいないが、まるで御伽噺かのように思っていた今世で現れた勇者に国民は期待し、聖女が見つかることに胸躍らせ、勇者と聖女が並び立つ様を心待ちにしているのだ。
登場人物に名前をつけるのは苦手です。
気を抜いてると厨二病な名前をつけているので。