はじまり
「リリィ、どこ行ったの?」
山の緑がまぶしく、差し込む光を受けて川の水がきらめく、田舎ののどかな、しかし心安らぐ風景を背景に、ヒック、ヒックとしゃくりあげながら、とぼとぼと歩く子供の姿。
太陽の光を集めたような金の髪はサラサラと柔らかそうに風に揺れ、涙とともに目玉まで溢れんばかりの大きな目は晴天の空を思わせる水色をしている。
一見すると美少女にしか見えない容姿だが、“彼”は立派な男子である。
「僕、ここがどこかわからないよ」
この地に彼がやってきたのは初めてで、幼馴染に誘われるがまま着いてきたため歩いてきた道のりを覚えてなどいない。
ピクニック気分で持ってきたサンドイッチを食べ、うとうととうたた寝をしている間に一緒に来たはずの幼馴染の姿がどこにもないことに気づいた。
どこかで用を足しているのかもしれないと、しばらくはおとなしく待っていたのだが、1時間たっても戻ってこない幼馴染に、「もしかして置いていかれてしまったのかも」と不安になったが最後、いてもたってもいられず探しに出てしまったのだ。
「ふええ、リリィ…あっ」
涙で滲んだ視界のまま歩き続け、ついには足を踏み外してしまった。
川沿いの小高い場所にある道を歩いていた彼は、斜面を転がり、勢いそのまま川の中へ。
川は比較的浅いものであるがそれは大人から見たら、であって5歳の子供からすれば体のほとんどが水の中にある状態で冷静ではいられない。
口や鼻に入った水を思わず飲み込み、咽せる。必死に手足を動かしても濡れた服が重く、思うように動けない。泳いだ経験もほとんどない彼がパニック状態に陥るのも当然である。
(ああ、このまま死んでしまうのだろうか)
肺に残った空気を使い切り、吐いた息がごぼりと泡となった。
苦しさから逃れるために、意識が遠のいていく中、彼は確かに見た。
(誰…?)
顔は全く覚えていない。でも見間違えようのないもの。
誰かの影、不規則な水の流れ、そして、
(きれいな青色)
川の中であってもなお目を惹かれる、水の精霊のような青色の髪。
はじめまして、甃井椎です。
勢いで始めた小説なので、完走し切れるか不安ですが頑張ります。