6話 現状確認と新しい自分達
「うんしょ、こらしょ、です」
俺より先に蜘蛛の糸を登り終えたシェラがそう言いながら現世への帰還を果たした。
そのすぐ後に
「よっと」
俺も最後のよじ登りを終えて現世の土を踏みしめた。
夜中らしい。
草木も眠るほどの深夜。
場所は
「ここか」
「ですね。私たちここから落ちたんですね」
彼女の言った通り俺たちは落ちた場所に戻ってきていた。
ということは
「村にも近いか」
「どうしますか?」
「このまま攻め込んでもいいが、それではつまらない。それに今奴らはここにはいないだろう。金がたまったら王都に行きたい、とそう言っていたからな。文字通り俺らの命で王都に向かったんだろう」
そう言うと俺は木にもたれかかった。
そうしながら色々とステータスの確認をすることにする。
「権能は使えるか」
権能を使おうとするとウィンドウが表示された。
【何を使いますか?】
→地獄の鎖
それが見えると俺は鎖を選んだ。
俺の腰の横に突如出てきた鎖の先端。
俺はそれが目の前の木に飛ぶようなイメージをする。
「飛べ」
すると、ズガガガガガガ!!!!!!
目の前に連立していた何本もの木が俺の鎖に巻き込まれて倒れた。
「あ、あんな鎖でこんなに木を倒せるんですか?!」
驚いたような顔で聞いてきたシェラの言葉に頷いたが俺自身少し驚いている。
全然力を入れていないのにこれだったからだ。
もう少し力の入れ方について学ぶ必要があるか。
そう思いながら俺は背を木から離した。
その時だった。
先程の振動で何処からか五匹ほどの野犬が現れてきた。
「ひっ!犬です!」
シェラが俺の後ろに回って隠れた。
それを見た犬たちが一斉に飛びかかってくる。
「鎖よ」
だがそれを鎖で一網打尽にした。
「クゥーン………」
それでダウンする野犬達。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!」
俺の後ろで怯えているだけのシェラに声をかけた。
「もう、大丈夫だ」
「わっ!本当です!すごいです!あんな一瞬で?!」
そう言っている彼女。
その後も俺を凄い凄いと言ってくれたが俺は他のことを考えていた。
これからどのような手段を使ってヒュオン達を地獄に落とそうか。
それを考えるが、何をするにしても先に
「協力者が欲しいな」
「協力者、です?」
そう聞いてきたシェラに俺の考えていることを話すことにする。
「ヒュオン達には俺たちの顔が知られている」
「そうですね」
「だから長時間の接触はできれば避けたい。だがあいつらを地獄の底に叩き落とすには接触しておきたいところだ」
「うん?」
彼女は俺の言いたいことを理解できないのだろう。
「俺はあいつらに地獄を見せてやりたい。そのためには俺の思い通りに、俺の用意した盤上で踊ってもらわなくては困る。そのためには奴らと問題なく接触できる協力者が欲しい」
俺がやられたように。
俺が裏切られて地獄に叩き落とされたように、俺はあいつら一人一人を裏切り地獄を突きつけるための協力者が欲しいのだ。
そいつらも加えてヒュオン達に俺たちを信頼させて、俺と、いや俺以上の絶望を感じるタイミングで裏切って殺す。
それこそが俺の望みで復讐だ。シェラを殺したことは絶対に許さない。
「どうやって用意するんですか?」
そう聞かれたので今考えていることを話すことにした。
「奴隷だ」
簡単にそう答える。
普段であれば奴隷など好まない俺だが今回は別だ。
裏切りなどの不確定要素は減らしておきたい。
その点奴隷はあまり言いたくないがその恵まれない環境からして優しくされると裏切らなくなる傾向が強い。
特に俺の縛鎖と合わせれば確実に裏切らない協力者になるだろう。
あとは
「とりあえず俺は髪を切りたいと思う」
そう言うとアイテムポーチからナイフを取り出してシェラに渡した。
「いいんですか?」
「バッサリいってくれ。最後までは気付かれたくなくてな。最後の最後に俺だとバラしたいから少しでも見た目を変えたい」
俺は訳あって伸ばしていた長い髪を切る事にした。
「とりあえず肩で切りそろえてくれ」
俺の髪は後ろは背中まである。
だがそのためここまで切ればかなり変わるはずだ。
それから俺は以前シェラに貰ったマフラーを首にまきつけそれで口どころか鼻まで隠した。
「わぁ、誰か分からなくなりますね。ならば私は眼帯つけます」
そう言って彼女は眼帯をつけた。
「私は逆に髪を伸ばしましょうかね。切るよりは時間かかりそうですけど。とりあえずはフードです」
そう言って彼女もフードを被ってくれた。
「まぁシェラの場合顔は割れてるとは言えそんなに関わってた訳じゃないから大丈夫だろう。それと名前だ。俺はリオンと名乗ることにする」
「では、私はティアラと名乗ります」
「分かった。これからはティアラだな」
そう答えると準備も整えた俺はとりあえず二ムガル王国と呼ばれる国を目指すことにした。そこに奴らはいるはずだ。
今考えているプランとしてはとりあえずヒュオン達のパーティとはある程度仲良くしたいところだな。
そして最大まで信頼させたところを裏切り、地獄に突き落とす。
覚悟していろ。
※
俺たちは今草原を歩いていた。
昔はよくこの辺りでヒュオン達とモンスターを狩っていた。
そんなことを思い出しながら月明かりの下歩く。
「王都についてまずどうするつもりですか?」
「ふむ。とりあえずギルド登録したいところだな」
以前もしていたがとりあえずギルドに登録を行いたいところだ。
勿論別人として
「さっきから声低くないですか?」
「長時間接触していた俺は声で気付かれる可能性もあるので出来るだけ低くしてる。今のうちに慣れておかないとな」
「なるほどです。低い方も素敵ですね」
まさか妹に素敵と言われるとは思っていなかったので少し恥ずかしくなったが悪い気分はしない。
そうしながら歩いていると
「ハッ!ハッ!」
男が鞭を打ちながら馬を走らせている姿が遠目にだが見えた。
「アレなんなんでしょう、こんな夜中に」
ティアラの声に答える。
「都合が良かった。恐らく奴隷の運搬だよ」
一応奴隷の売買は世界的に禁止されている。
そのため白昼堂々売るやつも運ぶやつもなかなか居ない。
「どうするつもりですか??」
ティアラに聞かれたので答える。
「あの積荷になっている奴隷を奪う」
「どうやって、ですか?」
「襲うんだよ」
そう言って俺は地獄の権能を使った。
地上では色々と制限されているらしいが基本的なことは出来るようだ。
俺は10メートル程の黒竜を地獄から呼び出すとそれに輸送車を襲わせることにした。
「グルゥゥゥゥゥ!!!!!」
飛んで迫りゆく黒竜。
「なっ?!」
黒竜の手が輸送車を捉えそして
「ぐぁぁぁあ!!!!!」
運んでいた男の首を黒竜が切り飛ばす。
それを確認してから俺は黒竜を地獄に返すと輸送車に近付く。
馬は生かしてある。
別に罪がある訳でもないし生きていて都合が悪い訳では無いし。
馬が輸送していたのは四角い木で出来た大きめの屋根のある代車。
しかも鍵付きの扉付きだ。
俺は地獄の剣で鍵を壊すと扉を手前に引いて開けた。
「ビンゴ」
「ひ、ひぃぃ」
「………」
その中には予想通り二人の少女の奴隷がいた。
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