4話 俺は地獄ではなんだってできるみたいだ
目覚めると俺は先程までとは違う場所で寝ていた。
無機質ではあるが高級感を感じる置物と青色の蝋燭が置かれた部屋で更にはベッドで寝ていた。
そして
「あ、お兄ちゃん起きたんですね!」
パンと手を叩いて少女が近付いてきた。
金色の髪の毛を肩で切り揃えていて金色の瞳。
妹のシェラだった。
彼女が上半身を起こした俺の胸に飛び込んでくる。
「シェラ………よかった」
抱きしめた。
「どどど、どうしたんですか?!」
驚く彼女にこれまでの経緯を説明する。
すると彼女は離れてくれた。
「なるほど。私も目覚めたら牢屋だったんですけど、そこでよく分からない人達が来てここに連れてこられたんですよね。王の妹ならこんな所にいさせちゃいけないとかって意味が分からなかったですけど、そういう事だったんですね」
彼女の言葉からも分かったがどうやら俺は正式に地獄の王になれたらしい。
地獄では死んでも復活できるという特性があることを俺は1度目ここにきて死んだ時に理解していた。
それを利用し俺は使えば死ぬというデメリットのあるスキルを使った。
結果、デメリットはあったものの打ち消して蘇った。
どうやら俺の作戦は成功したようだ。
そう思いながらベッドから出て立ち上がった。
「………」
無言でハデスのやっていたように鎖を出現させようとした。
すると
「わっ!何も無かったのに何か出てきました?!」
ティアラが言っているように俺の腰辺りの高さで鎖が頭を覗かせた。
俺を突き刺した時みたいに鋭い先端が顔を覗かせている。
それを
「よっと」
少し飛ぶようなイメージをしてみた。
すると
「あっ」
「めちゃくちゃ飛びました?!」
シェラの反応通りこの部屋の壁をぶち抜いてようやく止まった。
本当はこんなに飛ばすつもりは無かったんだが、そんなことを思いながら次は鎖を消すイメージを持ってみた。
すると鎖が消えた。
何もない場所から何かを生み出す、地獄の権能と言って差支えのないスキルなようだ。
「………」
無言で次は壁を治してみた。
すると
「な、直りましたよ?!」
やはり直るのであった。
「どうやらこの地獄なら俺は好き勝手出来るみたいだな」
彼女にそう話してみた。
「って、ここ地獄なんですか?!」
今更気付いたらしい。
「はわわわ!ここ地獄だったんですか?!私何で地獄にいるんですか?!って、何でお兄ちゃんも地獄に?!」
「それはさっき話したろ?」
「冗談じゃなかったんですか?!」
「冗談でこんなこと言っても仕方ないだろう」
そう口にしてから俺はこの部屋にあるベランダの方に足を向けてみた。
そこから下を覗く。
地獄に落ちた人々が生活しているようだ。
予想ではもっと阿鼻叫喚な光景が広がっていると思っていたが違うようだ。
「何だかみんな楽しそうですね」
「そうだな」
足枷などはあるものの意外と地上と大差ないような生活を送っているように見える。
そんなことを思いながら俺は視線を部屋に戻し次はこの部屋から外に繋がるだろうと思われる扉に手をかけ、そして押し開けた。
「主殿」
するとそこには黒い髪をポニーテールにした忍のような女がいた。
そして俺を主と呼びながら膝を着いた。
俺を主呼びしたと思ったのは俺を見たからだ。
「主、か」
「はい。地獄の権能を持つ方こそがこの地獄の王であり私たちの主です」
そう口にする彼女。
どうやら俺の従者という認識でいいようだ。
「何なりとお申し付けを」
と言っているのだが
「そもそも何がどうなっているのだ?」
あれからのことが全然分からないのでとりあえず聞いてみることにした。
◇
「なるほどな」
彼女が言うには権能がハデスから俺に移ったことによりこの地獄の王は俺になったと、予想していた通りの話だった。
そしてハデスは今牢に繋がれているという。
「申し遅れました。私はアヤメと申します。我が刃サイ様の力になりましょう」
そう名乗り俺に忠誠を誓う彼女。
よく見ると薄らとだが彼女の胸から俺の手に向かって鎖が伸びていた。
それに目をやるとウィンドウが表示され文字が出てくる。
それを読み上げた
「地獄の縛鎖?」
そう書いてあった。
更に詳細を見れるようなので見てみると
【地獄の鎖からはなんびとたりとも逃げることが出来ない。この鎖に繋がれたものは貴方のものとなる】
と書かれてあった。
つまり今このアヤメという女は俺のものになっているという話か。
「はい。私は貴方を裏切ることができませんサイ様」
ずっと膝をついた状態でそう言ってくる彼女。
そうか。つい先日強烈な裏切られ方をしたところだからそれは有難いな。
まだシェラ以外の存在を信じきれないからな。
「嘘はつけるのか?」
「つけません」
「つけばどうなる?」
言い淀む彼女。
しかし
「別に死にはしませんよ」
そう告げた彼女は急に苦しみ出した。
「お、おい?!どうした?!」
駆け寄ってアヤメを抱えてみたが、その時彼女は口から血を吐き出した。
「し、死んだ?!」
呼吸が止まっていた。
冷めゆくアヤメの体。
しかし
「この世界では生き返りますよサイ様」
しばらくするとそう言いながら口から血を垂れ流した状態で起き上がってきた。
俺が死んだ時と同じだった。
「この世界では死んでも蘇ります。死んだ時の記憶や感覚は保持したままなのでわざと死にたがる人間はいませんが」
なるほどな。そういうことか。
「先程ご覧になられた通り私は貴方の前で嘘をつけば死んでしまいます。ので嘘をつけないと考えてもらって構いません」
「分かった」
そう答えると部屋の中に戻ることにした。
なるほどな。嘘をついた場合は死んだか死んでいないかを確認すればいいんだな。
俺の後に付いてくるアヤメ。
「そういえば」
と彼女が部屋に入りながら口を開いた。
「失礼ながらサイ様。今回は権能の譲渡という異例の事態が起きました」
「うん」
そう答えて続きを促すことにした。
「そのため、貴族達が説明を求めていますよ」
「貴族?」
俺がそう聞き返した時だった。
廊下に通じる扉の向こう側から声が聞こえてきた。
「地獄の王が変わった?!そんな馬鹿な話があるか!」
「そ、それが本当なんですよ!アヤメ殿もそう言っておられますし、何より彼女は新王に付きっきりなんですよ!」
「とにかく説明を求める!ハデス様からどなたに変わったんだ?!」
「そ、それが!サイ様という方だそうで!」
そんな慌ただしい二人組の声が聞こえてきたと思えば扉の前でピタリと止み
「王?!王?!」
激しい感じで扉がノックされた。
どうやら俺を呼んでいるらしい。
さて、どうするか。
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