3話 権能を奪い復讐を誓う
「ここは………」
俺は、周囲をぐるりと壁に囲まれた部屋で目を覚ました。明かりは壁にある蝋燭の火だけだ。
ひんやりと冷たい感触が頬にあった。
どうやら地面に寝ているようだ。
自分は死んだと思っていたが
「生きてるのか?」
「いや、お前は死んだ」
「うわっ!」
突然声が聞こえてきて驚いて飛び起きたが
「ん?」
思ったように体が動かなかったため手足を見てみた。
すると、俺の体は鎖によって壁に繋がれていた。
グッ!グッ!と手を動かしてみたが外れる気もしなければ壊れる気もしない。
「おはよう」
目の前の青い髪の女にそう言われた。
さっきから俺に話しかけていたのはこの女らしい。
「お、おはよう」
思わず反射的に挨拶を返していた。
「頭は大丈夫なようだね」
そう呟く青髪。
「あ、私はハデスってもんだよ。ついでに言うとここは地獄」
そう声に出した目の前の女。
「地獄………」
「そう。地獄」
目の前の女は面倒くさそうに説明を始めた。
ここは地獄であり、落とされた者達に自分は罰を与えていること。
そしてそれは俺にも行われるということ。
「ま、待ってくれ!俺が何をした?!俺が拷問を受けるような真似をしたのか?!」
「したよ。だってお前自らここに飛び込んできたからな。分かる?自殺は重罪だよ」
「あ、あれは仕方なく!」
「あのさぁ?誰も君の事情に興味ないズラー」
そう言いながら俺の顔を蹴ってくる女。
「どんな事情があっても自殺は自殺、分かる?私も君の過去について知りたいわけじゃないしね?てかさぁ、私が1日何人あんたみたいなやつの刑罰担当してると思ってるの?面倒だから黙って私にぶち殺されて欲しいんだけどね」
そう言いながら殴ったり蹴ったりしてくる。
俺に現時点でできることは無い。
ただ暴力を受けるだけだ。
「ちなみに妹ちゃんは隣の部屋で寝てる。起きたらお前の1日後くらいに同じこと始める予定ズラー」
面倒くさそうにそう呟いた女。
だがその言葉に反応せずにはいられなかった。
「シェラもここにいるのか?!」
「いるよ。めんどくせーなぁ」
そう呟いた女は右手を顔の高さまで上げた。
すると
「鎖?」
「そう、鎖」
それが奴の左右、腰の高さの位置から顔を覗かせている。
さっきまで何も無かったよな?
「驚いてるね。これが私の力だよ」
そう言うと
「ぐっ!」
グサッ!と俺の腹に鎖が突き刺さった。
「次、何がいい?」
次は直立姿勢のまま奴は背中の後ろで扇状に武器を展開した。
鎖、ナイフ、刀、剣、鎌、色々な武器が何も無い空間から頭を覗かせていた。
「とりあえずこれでいっか、地獄の業火だよっ♡」
だが奴はそのどれをも選ばなかった。
「がぁっ!」
俺の足元から火が出てきた。
それが俺の体を焼いていく。
それを満足そうな目で見てからハデスが
「死んだらまた来る」
そう言ってこの狭い牢屋から出ていった。
俺の体が燃える。
息が苦しい。
皮膚が爛れる。
変な液体が体から溢れてくる。
熱いのに寒い………
視界が………どんどん暗くなる。
◇
「焼けたかな」
その声で目を覚ました。
俺はさっき殺されたはずだが………どうやらここでは死んでも蘇るらしいな。
落ちてきた時にそうではないかと思ったがやはりそうだ。
「おはよう」
「………」
キッと睨みつける。
「まま、そう怒んないでよ。私も仕事なんだからさ」
ヘラヘラ笑ってそう言ってくるハデスと名乗った青髪の女。
「てか私この地獄の神なわけ?神様にそんな態度取っていいと思ってるの?殺しちゃうゾ?」
「神様?」
「そう。私は神様」
胸を張るハデス。
そうか。神様なのか。
それを聞いてさっき処刑された時の能力に納得がいった。
神様なら何だって出来るって訳か。
「なぁ」
「ん?」
「この地獄から現世に戻るってことは可能なのか?」
「出来るよ。穴で繋がってるし。君も落ちてきたっしょ?」
ふっ、なら話は早い。
「くくくく………はははは」
そう笑うと怪訝な表情を浮かべるハデス。
「どうした?死んで気でも狂った?」
「あぁ、狂ったかもな。でも、あんたの方が狂ってるよ」
俺がそう口にするとむっとしたような顔を作った。
「かっちーん、さっきから罪人Aの分際で生意気だよね。妹と一緒に永遠に苦しませてあげるよ」
その言葉を聞いて吹っ切れる。
俺はただスキルを起動する事だけを考えた。
すると
【強奪の神手を起動しました】
とウィンドウが俺の視界に浮かび上がった。
続いて浮かび上がるウィンドウ
【これは1度しか使えないスキルです。やり直しは出来ません。使えば使用者は死にます。それでも使いますか?】
俺は更にスキルを続ける。
そうすると
【現在以下のものを強奪できます】
→地獄の権能(スキルランク:測定不能)
概要────地獄の神の証。手に入れた者は地獄のすべてを支配できる神となる。
と表示された。
俺は進める前に笑った。
「ははははは。はーはっはっはっは」
「どうした?ほんとに?」
目の前の女は俺がここまで進めているのに気付いていない。
今から自分が地獄の主で無くなるというのにこの様子だ。
面白おかしくてたまらない。
そして
「この力があれば俺は復讐を果たせる!」
俺は【地獄の権能】を強奪してからそう叫んだ。
【地獄の権能の強奪に成功しました。これより貴方のスキルとなりますが、貴方は60秒後に死にます】
とウィンドウが現れた。
それが表示された瞬間
「え?力が………」
そう言って倒れ込むハデス。
俺は腕に力を入れて前に突き出すと自分を拘束していた鎖を引きちぎった。
「なっ!私以外には切れない地獄の縛鎖を?!」
目の前で驚いているハデスを見下ろす。
「今、地獄の権能は俺にある」
「ま、まさか!」
驚いているハデスの前でスキルを使った。
【地獄の権能が発動しました】
そう出て
【どれを使いますか?】
→地獄の鎖
・地獄の鎌
・地獄の剣
など色々と出てきた。
俺はそのまま鎖を選ぶとハデスを拘束する。
さっきは俺を拘束していたものが主だったものを束縛する。
「い、痛い!」
「よくもやってくれたなハデス」
「ひ、ひぃぃぃぃぃいい!!!!」
何が起きたのかを理解したのか涙を流して後ずさろうとするハデス。
この狭く壁に囲まれた牢屋を抜け出ようとしているが
「逃がさん」
そう告げて俺はハデスを追い詰める。
「ご、ごめんって、許して!!!それだけはほんとに勘弁して!!!!いやだ!死にたくない!」
そうして
「眠れ」
「や、やめてぇぇぇぇ!!!!」
俺は地獄の業火でハデスを焼き殺す。
彼女の甲高い悲鳴が俺の頭に響く。
しかし次の瞬間
「がっ!」
俺の口から血反吐が出てきた。
もう60秒経ったのか………。
だが………
「俺は地獄の神だ。神が死ぬわけが無い」
そう呟いてみたが俺の意識はどんどんと暗くなっていった。
俺の体が冷たくなるのが感じられる。
やはり死ぬのか………分かっていたことだが何度も何度も死ぬのはやはり苦しいな。
でも、これで最後になるだろう。
「がはっ………」
口から血を吐いて倒れる。
石の床に倒れ込む。
冷たい感触が俺の頬に伝わってくるし、自分のベタベタした血が俺の全身にへばりつく。
「奴らに………復讐を」
そう呟いて俺の意識は闇の中へと落ちていった。
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