19話 【追放した側視点】パーティ崩壊の始まり
sideローエン
多くを失った私の心が回復するのにあまり時間はいらなかった。
「うん。これで大丈夫だよ」
聖女のマーニャが私の話を聞き、気分が落ち着く魔法をかけてくれたからだ。
それにより大分マシになった。
それに聖女リーナ。彼女は凄い。
私の無くなった足を魔法で復活させた。
「ありがとうございますマーニャ」
礼を言って仲間達に目をやった。
「いつまでもそうやってたら神様が許してくれないアルからね」
「そうですね。これも何かの試練ですよローエン。貴方はいつも言っていましたよね。全てのことに意味がある。この別れにもきっと何か意味があるんですよ」
カグラもヒルダもそんな言葉を送ってくれて私を励ましてくれる。
そして
「それにお前がくよくよしてたら孤児達も報われねぇぜ」
そう言って背中をバシバシと軽く叩いてくれるヒュオン。
「だから顔上げろ。きっと、みんなもそれを望んでる」
「そ、そうですよね」
ヒュオンの言葉はとんでもない事でも何となく、そうなんだと思ってしまう何かがある。
私達はずっとそれに救われてきた。
そして今回も救われる。
私はこのパーティに所属していて彼らの仲間で
「よし、今日も依頼でも受けるか」
「そうですね。こんな時こそいつも通りに過ごした方がいい」
ヒュオンの提案に乗るヒルダの言葉に皆が頷いた。
それで今日もいつも通り依頼を受けることになった。
◇
そうして私達はギルドにやってきた。
カランカランと音を鳴らしてギルド内に入ったその瞬間、気のせいか私たちに集まった視線がいつもより多い気がした。
何と言うかこうやって誰かが入ってくれば視線が集まるのは普通のことだが、入ったあとも継続して見られているというのはあまりないことだった。
とにかく私にはそう感じられた。
「さーて、今日の依頼は、と」
だがそんな状況でもヒュオンはクエストボードに直行してクエストに目をやった。
そうしてしばらく全員で依頼を見て違和感を覚えた。
「おい、いつもこんなんだったか?このクエストボード」
ヒュオンが私達に問いかけるが誰一人としてその言葉に頷かなかった。
「おかしいアル。いつもなら私達に依頼するクエストがあるはずなのに」
自分で言うのもなんだけれど私たちのパーティは強く依頼も安定してこなせる。
そのため私たちのパーティを指名して依頼してくる依頼人というのも存在するのだが
「俺たちの指名が0?」
ヒュオンが現実を受け入れられないのか首を横に捻った。
「おかしいですね。いつもなら0はありえないのに。それどころか順番待ちという日もあったのに」
ヒルダが顎に手を当てて何かを考え始める。
「どうしてなんだろうね」
マーニャも不思議そうな顔をしたが現実は依頼がない。
「仕方ない。今日は適当な依頼にしておこう」
そうまとめたヒュオンは適当な依頼を取ると全員でこなしにいくことにした。
◇
今日はワイバーンのボスであるドスワイバーンの討伐という簡単な依頼だった。
しかし
「おい!マーニャ?!回復はまだか?!」
「今やってるよ!」
魔法剣士であり前衛職のヒュオンがダメージを受け続けている。
そのためマーニャが回復魔法を使っているがそれでも追いつかないくらいワイバーンの猛攻が続いていた。
「ちぃっ!」
「こいつ速いアル」
ついにヒュオンとカグラが撤退を始めた。
「このワイバーン強いぞ!俺とカグラで抑えられない!」
そう言いながら下がってくるヒュオン達の言葉を聞きこの場はもう撤退するしか無かった。
勝てない相手と何時間やりあっても無駄だからだ。
しかし
「くそ………」
ギルドに依頼を失敗した報告をしたヒュオンが言葉を漏らした。
「何年ぶりだよ撤退なんて」
イライラしているのが分かる。
そこに一緒に前線で戦っていたカグラが会話に参加した。
「ほんとアルね。あんな雑魚相手に撤退なんて情けないアル」
それを聞いたヒュオンが耳をピクリとさせカグラを睨みつける。
「なんだと?」
「聞こえなかったアルか?ただの飛行トカゲモドキに負けるなんて情けないアル」
「んだとごらぁ?!」
椅子を弾き飛ばして勢いよく立ち上がったヒュオンはカグラに掴みかかる。
「この手は何アルか?私に何か文句アルか?私はちゃんと盗賊としての動きをしたネ、動けてないのはヒュオン。あんな雑魚トカゲ相手に撤退して1番ムカついてるのが誰なのかを理解した方がいいアル」
嘲笑うような顔をするカグラ。
「ちぃ!」
ヒュオンがカグラを突き飛ばした。
「私ここに来る前に聞いたアルよ。私達宛の依頼が無くなったのって私達に悪い噂があるからだって。そのイメージを払拭するためにも成功させなきゃいけない依頼であんたがしくったアル」
「悪い噂って何だよ?」
そう言われたカグラが私を見た。
「そこの神父アル。そこの神父があの村で違法薬物を育ててたって噂が流れてるネ」
「そ、そんなことしてないですよ!」
その言葉に反応した。
しかし
「うるさいアルね。神父」
カグラが私に近付いてくると私を見下ろしたそして
「これでも食らってろアル」
そう言って近くのテーブルにあった料理を私の顔にぶつける。
それから
「それ貸すアル」
「お、お客さん?!」
カグラは何を思ったのか近くにいた店員の手からモップを奪うとその先を私の顔に乗せてゴシゴシゴシゴシゴシ
「汚物があったら掃除しないといけないアル」
「ちょ!カグラ!」
止めに入ろうとするヒュオンだったが
「ヒュオン、あの時みたいにこいつを追放するネ。それで全部解決アル」
「追放ってお前………」
「さぁ、早く、こいつがいなくなると悪い噂が無くなるネ」
カグラがそう口にすると
「悪いなローエン。お前を追放する」
「え………」
「俺も実はその話聞いてたんだよ。皆が噂してんだ」
だから、と
「ちょ、ヒュオン………」
それからは私がいくら仲間に話しかけても誰も反応を示さなかった。
「あぁ………がぁ………」
いきなりの展開に頭がついて行かない。
私は今追放されたのか?
これまでどんな時だって苦楽を共にしてきた家族のような仲間に?裏切られ追放されたのか?
「はぁ………くぅ………」
「さっさと失せろアル、ゴミ虫が私たち人間様の足を引っ張っていい道理はないアルよ」
最後の記憶はカグラに頭を蹴り抜かれたものだった。
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