1話 この日常はもうすぐ終わる
俺はサイ。
辺境の貧乏な村に住む18の男だ。
「パーティ抜けよっかな」
1人で木陰に座り込み呟いた。
俺は今幼馴染達のパーティに所属していた。
小さな頃からずっと一緒にいた幼馴染達と作ったパーティだった。
初めは子供のごっこ遊びだった。
でも、歳を重ねるに連れ俺たちはモンスターを狩り出して今では立派なパーティにまで上り詰めていた。
俺以外は、だが。
「くそ………」
呟いて地面を殴りつけた。
そこに
「何してるの?サイ?」
幼馴染の1人である少女マーニャがやってきた。
赤い髪に赤い瞳の少女だ。パーティでは聖女を担当している女の子だった。
「いや、パーティ抜けようかなって」
「どうして?」
心配そうな顔をしてそう聞いてくるマーニャ。
「どうかしたの?」
「俺足引っ張ってるからさ」
明らかに俺は足を引っ張っていた。
それもそうだ。
冒険者にとって武器以外にも生命線と呼べる物がある、スキルだ。
しかし俺に宿ったスキルは【強奪の神手】という1度しか使えない欠陥スキルだった。
しかも使えば自分が死ぬというデメリット付きで、使いたくても使えないスキルだった。
そのため俺は実質ノースキルというハンデを背負いながらパーティでの活動を続けてきたが、もう限界を感じていた。
ノースキルでは現在のスキルを前提とした戦いについていけないのだ。
ちなみに本当はスキルを一応持っているということは誰にも話していない。
スキルは後天的に手に入ることもある。
そういった可能性があると周りに思い込ませた方が有利に運ぶかと思っていたからだ。
しかしそんなものその場しのぎにしかならず。
マーニャの顔を見て口を開いた。
「マーニャだって魔力リジェネ持ってるじゃん?」
「うん」
「俺何もないからさ最近の戦闘にはついていけないし、迷惑だなって………」
そう思っている。
そんな自分が情けなくて他の奴らと比べて本当に情けなくてパーティを抜けたくなったのだ。
みんなに無理をさせているのも、負担をかけているのも俺は分かっていたからだ。
いつまでもこんな情けない姿を晒したくないってそう思って。
「そんなことないよ。サイも役に立ってるよ」
例え世辞だったとしても、マーニャにそう言われるだけで有難いと思ってしまう自分がいた。
それくらいに俺は役に立ってないって自分では思ってるからだ。
「本当はスキルを使えればいいんだけどな」
俺は自分の手のひらを見つめた。
力があればこんなに足を引っ張らなくても良かったのに。
「スキルなんて補助だよ。サイはそれ以外の部分で頑張ってるじゃない。みんな知ってるんだよ。依頼が終わった後もサイが1人で訓練してるの」
「知ってたのか」
少し恥ずかしくなる。
隠れてやっていたからだ。
でも同時に見てくれていたことに対して少し嬉しくなる。
その時
「ようサイ。辛気臭い顔してんな」
パーティリーダーで在ると同時に魔法剣士のヒュオンがやってきた。
青い髪に青い瞳の男だ。
「ねー聞いてよヒュオン。サイがパーティ抜けたいって言ってるんだけど」
「あぁ、知ってるぜ」
そう言いながら俺の横に腰を下ろすヒュオン。
「前も俺に言ってくれたもんな。足引っ張ってるって」
「あぁ、今は問題なくてもより難易度の高い依頼だと………な」
一瞬の判断を求められるようなそんな依頼だと弱い俺の存在が邪魔になり、みんなに迷惑をかけるかもしれない。そう思えるんだ。
だからそうならないうちに抜けたい。
「そんな事言うなよサイ」
でもそう言ってくれるヒュオン。
「でもさ、ヒュオンだって【毘沙門天】ってスキル持ってるよな」
固有スキル毘沙門天。
剣神に愛されあらゆる一振で全てを切り裂くことが出来るようになるヒュオンだけのスキルだった。
「それが何だってんだよ」
バンと手で背中を叩いて励ましてくれるヒュオン。
彼がよくやる仕草だった。
「気合い入れろよ。男はスキルじゃねぇ。腕だよスキルなんてのは補助に過ぎねぇんだよ」
そう言ってニカッと笑ってくれるヒュオン。
「ヒュオン………」
「おいおい、泣くなよ」
「な、泣いてなんかないよ」
でも凄く嬉しかった。
実際に泣きそうにもなった。
俺に兄なんていないけど、ヒュオンはずっと兄貴のような存在だった。
「気合いは入ったか?サイ」
「入ったよ」
「ならもうパーティ抜けたいなんて言うなよ」
そう言って立ち上がるヒュオンは俺に手を差し出してくれた。
「ほら立てよ。こんな木陰でうじうじしてっから気分も悪くなるんだよ」
俺はヒュオンの手を取って立ち上がった。
ずっとこうして気分の沈んだ俺を立たせてきてくれたヒュオン。
俺にとっての太陽みたいな存在だった。
「俺らはずっと苦楽を共にしてきた。そしてこれからもずっと一緒だ。それが俺らの約束、だろ?」
「あぁ」
「だから、な?」
そう言ってニカッと笑ってくれるヒュオン。
俺も言葉を返すことにした。
「もう弱音は吐かないよ。ありがとうヒュオン」
「パーティメンバーが困ってりゃ助けるのがリーダーってもんよ」
そう言って頭をポンポンしてくれるヒュオン。
ほんとに大きな手だった。
◇
暗くなるまで木陰で本を読んで、それから家に帰ろうとした俺の前に
「あ、サイアル」
「カグラか」
幼馴染の1人のカグラが現れた。
黒い髪に黒い瞳それから頭にもふもふした髪飾りを付けた少女だ。
パーティ内では盗賊を担当している。
「もう暗いアル。サイが1人で歩いてると危ないアル」
「これでも男なんだぜ?」
俺はたまに伸びた髪から女に間違われることもあるけど男だ。
「知ってるアル」
フッと笑うカグラ。
いつもの冗談だ。
彼女も俺もそれを理解していた。
その時新たな声が聞こえてきた。
カグラの後ろからだった。
「とは言えやはり1人で出歩くには危ない時間には変わりないですがねサイ」
そう言ってきたのはこちらも幼馴染のヒルダという男だった。
メガネをかけた賢い男だ。
パーティ内では賢者を担当しており誰よりも後ろで全体を観察して指示を出す参謀の役回りを担ってくれている。
「最近はボアが出没していたり色々と物騒です。早く帰った方がいいですね」
「そっちもな」
俺は軽い調子で憎まれ口を叩いた。
「ふふふ、そうでしたね」
それに対して軽く笑うヒルダ。
こいつも冗談であることを理解してくれている。
それだけ長い付き合いだ。
「カグラ、今日の昼にも伝えたと思うがこれから用事がある。僕一人では心許ない。ということで付いてきてくれるな?」
「分かったアル」
返事をしてカグラはヒルダに付き従う。
これから2人で何か用事でもあるのだろう。
なら邪魔をする訳にもいかないな。
「なんの用事か知らないけど頑張れよ」
それに対して軽く頷くだけのヒルダ。
「サイ明日も早い。今日は早めに寝てくださいね」
「あぁ。分かってるよ」
「それと、妹さんにもよろしく伝えておいてくれ」
「分かった」
そう答えて俺はヒルダ達と別れることにした。
さて、今度こそ家に戻ろうか。
だが俺はこの時知らなかった。
今日を境に俺の人生がめちゃくちゃな方向に向かっていくことを。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
少しでも面白い、面白そうと思っていただけたらブックマークをして頂けるととても励みになります。
ここから少し下にスクロールしたところに広告があり、その下に☆☆☆☆☆という評価項目がありこの作品の応援もできます。
なのでそこからも応援していただけるととても励みになります。
もしよろしければよろしくおねがいします。