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短編

優しい男

作者: oga

 ある所に、優しい男がいた。

男はとにかく優しかった。

他人から道を聞かれたら、親身に受け答えをし、何か困っていそうな人がいれば、自分から声をかけた。

男の優しさは留まることを知らなかった。

 ある日、ペットショップの脇を横切ると、たまたまそこに売られている猫と目が合った。

猫は物欲しげな潤んだ瞳で男を見つめ、数秒後、男はその猫を24回払いのローンを組んで購入していた。

しかも、男は昨日、ホームレスにキャッシュカードやら何やらが入った財布を渡しており、手元には一文も無かった。


「はは、まーた増えてしまった」


 家に帰ると、そこには拾ってきた猫が何匹もいた。

男は猫アレルギーであったにも関わらず、である。

猫の餌代、アレルギーの薬を買わなければならないが、金が無い。

必然的に家賃も支払うことが出来ず、男は大家に給料日までもう少し待って欲しいと頼み込んだ。

そんな矢先、またしても問題が起こる。

会社の中で、財布を盗まれたという者が現れ、男に疑いがかけられたのだ。


「お前、近頃金が無いって話だったじゃねぇか!」


 男は昼食をコンビニのおにぎり一つで凌ぐなど、金が無いことが周囲にバレていた。

だが、男は財布を盗んだ犯人を知っていた。

犯人は自分の座席の隣の女であった。

女は、財布の持ち主がいつも机の引き出しにそれを入れていることを知っていた。

ところが、男は女が犯人であることを告げず、自分が犯人だと言った。


(この人にも、お金が必要な事情があるに違いない)


 こうして、男は会社をクビになった。

アパートも追い出され、とうとう、男はホームレスになった。

スーツ姿のまま途方に暮れていると、小汚い別な男に声をかけられた。


「ずっとそんなとこに突っ立って、行くアテは無いのかい?」


 いつも高架下で見かけるホームレスだった。

まさか、自分も同じ所まで落ちるとは、夢にも思わなかった。

男は全てを話した。


「私は、親に自分の取り柄は優しい所しかない。 だから、誰にでも優しい男になれと言われて生きてきました。 しかし、このあり様だ。 他人に優しくしたのに、私は誰からも手を差し伸べて貰えていない」


 男は悔しそうにそう言い、目には涙が溜まっていた。

そんな男に向かって、ホームレスの男が言った。


「自分の得にならないことが、果たして取り柄と言えるのかね。 それは、欠点なんじゃないか?」


 その言葉を聞き、男はいつになく感情的に、こう言った。


「優しいことが、欠点? それなら私の本当の取り柄は、何だと言うのですかっ!」


「親だって、所詮他人。 自分以外の事には案外いい加減なんだ。 何が自分の取り柄なのか、それはアンタが自分で考えなきゃいけなかったんじゃないか?」


 ホームレスの男はそれだけ言うと、去って行った。






おわり


 



猫が一番自分の取り柄を知ってますね

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― 新着の感想 ―
[一言] 優しさにもいろいろあるということですね。 うわべの優しさは、身を滅ぼす。納得です。
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